39. 今のアースは21歳
「えーー、助けた人にそれはないのでは?シグルさん。」
「アハハ、そうね、シグルでいいわ。」
「うん、俺もアースで。」
「分かったわ。」
「俺からも聞いていいかな?」
「ええ。」
「シグルはこの土地の人だよね、なんで王国の言葉を話せるの?」
「ああ、王国から漂着する人は毎年何人かいて、定住する人も多いの。その人達に言葉を教えてもらったのよ。」
「へー、それと、なんでここに流れ着いたの?」
「私達はヨットを作っていて。」
(おっと、ヨットで漂流したとか言わなくて良かった。)
「テスト中にコントロールできなくなってこの有り様。」
「『私達』と言った?」
「ええ、妹二人と両親の5人で小型の船の工房をやっているの。」
「工房を…」
「自宅も兼ねてるんだけどね………ウチの新作ヨットだったのに壊しちゃった。」
「なるほど………辛いとは思うけど、家族が心配しているのでは?」
「そうね、でも、どうやって帰ろう………」
「今日は泊まっていきなよ、それで明日陸路でシグルの村を目指そう。」
「森を抜けるつもり?無理よ!」
「強いから大丈夫。」
笑顔で答えるアース。
「本当に?」
「ホント、ホント。」
また笑顔で答えるアース。
「熊とか狼が出るけど……」
「知ってる。」
またまた笑顔で答えるアース。
「大丈夫かなぁ。」
「ところで、シグルの村ってどこにあるの?」
「そっか、知らないわよね。」
本当はおおよそ知っているアース、この島に人が住める場所は限られている。
「海岸沿いに10キロ位南下したところよ。」
「分かった。………じゃあ、シグルはくつろいでいて。俺は明日の準備をするから。」
「手伝うわ。」
「森に入るけど。」
「えっ!………その……ここにいます。てか、ここも大丈夫なの?」
「ログハウスからビーチの周辺は俺のテリトリーだから大丈夫。」
「テリトリー??」
「そう、この辺りの獣は俺のテリトリーを知っていて入ってこない。」
本当は結界で入れないだけ。
「家の中にいます。」
「うん、身体を休めたほうがいい。」
(私を休ませようとしてる?)
暫くしてアースがログハウスに戻ると、シグルが台所周辺でウロウロと何かを探している。
「ただいまー。」
「おかえりー、アース、食材ってどこかしら?」
「今、獲ってきた。」
「鹿担いでんじゃん!!」
「他にも魚と山菜があった。」
「……すごいわね。」
「いいよシグル、俺が作るから待っていて。」
「い、いいのかしら。」
言葉に甘えるシグル。
「よいしょ。」
ドスン!と台所に鹿が乗る。
「………」
物凄いスピードで鹿をさばくアース。
もちろん魔法で、持っている包丁は偽装。
「「いただきます!」」
「美味しい!」
嬉しそうなシグル。
「ありがとう、ここは小麦がとれないからパンが作れないんだ、悪いね。」
嘘である。
アースならパンそのものを魔法で出せる。
小麦がとれないことは事実だから不自然にならないようにパンを出さなかった。
「そうなの、それなら次のテスト航海で持ってきましょうか?」
「それはありがたい。」
「じゃあ、港……作っておいて。」
「あーー、なるぼど……分かった。ただ、事故に気を付けてよ。」
「そうね、気を付けるわ。ただ……船体が回収できていないから事故原因がわからないのよね。」
「そうなんだ。」
「うん、あのときの挙動はキールが脱落した時に良く似ているけど、強度は十分だったはずなのよ。接触して折れたなら絶対に気付くし……」
「キール??」
「あ、ごめんなさい。でも、この辺りで停泊できる場所があると本当に助かるのよ。」
「次のテスト航海はいつ?」
「そうねぇ、2ヶ月?……3ヶ月後?……かな……」
「了解、それまでに駐められる場所を用意しておくよ。」
「本当?作るなら約束して欲しいの、テストでここまでは来てヨットが駐められないからって帰るのは恐怖だわ。」
「アハハ、分かった。」
「作ったことはあるの?」
「ない。」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
「………」
「ごちそうさま!!本当に美味しかったわ、ありがとう。」
「お粗末様でした。……じゃあ、部屋に案内するよ。」
「片付けくらい手伝うわよ、流石に悪いわ。」
「いいよ、シグルはゲストだし遭難者でもあるんだから、今日は休みなよ。」
「そうはいかないわ。」
「あっ、ここにお風呂があるよ。」
「お風呂ーー。入りたい!」
「どうぞ、お湯も張ってあるから。」
「アハ!…頂戴します!」
「あと、部屋はここね。」
アースは2つある客間の一つの扉を軽くポンと叩く。
「ありがとう。」
(心が温かい、いいなぁ、こういうの。)
翌朝。
「じゃあ、出発しますか。」
移動中、獣には何度と無く襲われた。
(たったの1日でこれか……人が入らない訳だ。)
獣を気絶させて立ち去る二人。
「ねえ、アース、獣を殺したりはしないの?」
「自分が食べる分しか殺さない。」
「そうなの。」
「俺の匂いを覚えて襲わなくなるかもしれないから。」
「へー、悪くない考え方ね。」
(前世でそんなテレビを見た。)
夕方、人が住む平野部で最も北東にある村に到着。
「着いたー!」
シグルが心から安堵する。
「おめでとう。」
アースも釣られて嬉しそうな顔をする。
「ここまで来れば、私の村まで乗り合い馬車があるわ!明日の朝一番の馬車で帰れる。」
「うん、じゃあ、俺は戻るよ。」
「えっ、今日はこの村に泊まって明日戻ればいいじゃない。」
「いや、戻ることにするよ。」
「えええー、夜通し歩くことになるじゃない!」
「大丈夫、夜目も効くから。」
「いや、アースくらい強ければ、そりゃあまあ、大丈夫だと思うけど………………まあ……いいわ。」
「またビーチに来てよ、待ってるから。」
ハグするアース。
「うん、必ず行くわ、小麦粉を持って。」
「種もお願いできるかな?」
「うふふ、分かったわ、両方持っていってあげる。」
アースの頬にキスするシグル。
「………」
「港も忘れないでね。」
「約束する。」
「それじゃあ。」
「ええ、本当にありがとう。」
振り返り、来た道を戻るアース。
名残惜しそうに手を振るシグル。
今後の旅を見守るためシグルに魔法のマースを着け、問題が発生してもアースが分かるようにする。
30分程歩き、魔法で周りの様子を探る。
「誰もいないな。」
キボンヌへ転移。
「もっと一緒にいたかったーーー!」
絶叫するアース。
「この土地のお金、持ってねーし!宿に泊まるのに、お金出して欲しいとか、貸してほしいとか言えないっしょ!」
悶絶するアース。
「そうか!魔法でお金出しちゃえばよかったのか!」
危ないことを言い出したアース。
「いや、罪悪感ハンパない。」
かろうじて踏みとどまった。
「DT卒業イベントも、もしかしたら………」
男の子の本音が出た。
「いや、まてよ!俺、前世でDT卒業したの18歳だったよなぁ。」
今のアースは21歳。
「いや、いや、いや、ないわー。この手の転生モノでこんなのあり得ないだろ!」
ちょっと何を言っているのか分からない。
「………でも………でも…………楽しかったー……」
なら良し。
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