38. 魔剣があればいいのに

 21歳のアース。


 魔法が込められている石の調査を始めてもう少しで2年が経過しようとしていた。


 調査が進んでいない訳ではない。


 石の種類が増え、調査対象が増えただけだった。

 現在見つかっている石の種類は、


 ・身体の改造

 ・身体の成長促進

 ・疲労軽減

 ・認識阻害

 ・結界

 ・劣化防止

 ・害虫駆除

 ・土壌改良

 ・植物の成長促進


 と、多種多様、まだ増え続けている。

 しかも、どれも異なる魔力を発していて、それぞれ幾つも存在している。


 ただ、魔力を込めた物は石だけで、石以外、例えば金属などでは未だに発見されていない。


(魔剣があればいいのに………)


 と言うわけで、これらをアースは、今更ではあるが『魔石』と名付けた。


 更に、古代の遺跡群も見付かり、そこから様々な文献も見付かった。


 文献の状態は、劣化防止の魔石に守られかなり良好。


 即座に複製を作成し、発見した場所や状態を記したメモを添えてキボンヌに保管している。


 こんなことを日々繰り返していた。




 天気の良い初夏の午後。


 島のビーチで古代遺跡で発見し複製した本を読んでいるアース。


 森の木材で作ったデッキチェアと葉で作ったパラソルで適度に日差しを浴びながらビーチで読書する。


 これが最近のお気に入り。




「この本は魔法の効果を魔族や人に限定する方法と、逆に魔族や人だけ効果が現れないようにする研究をしている。」


 本を見ながら考え込む。


「魔族と人………随分と人を意識して書かれた本だな。」


 本の書き方が気になるアース。


「殆どの文献は魔族側の遺跡にあった……劣化防止の魔石と一緒に、遺跡は認識阻害の魔石で隠していた。」


 人類に荒されることを危惧していたのかもしれない。


「人類は劣化を防ぐ術が無かったのだろう。書類や書物は残っていない、王都は修復や複製したものが残っていたけど……」


 この世界の人類には普通の石と魔石の区別はつかない。


「ノルンさんは人だった……耳はエルフみたいだったけど……」


 ノルンの耳の謎に興味を持っていかれそうになったが、棚上げした。


「ノルンさんの先祖は魔族から魔石の使い方を……いや、あの魔石はオーダーメイドと考えた方が自然……いや、いや、魔族を捉えて作らせたのかも!」


 魔族が今はいないことを考えると、魔族より人が上位の立場だった時期があったかもしれない、と考えたアース。


「でも、研究を重ねて魔石が3つに増えたと言っていたよね。」


 魔族が滅んだ後に、人類が魔石を作っていたことにならないか疑問を抱くアース。


「時間魔法でタイムスリップでもしたいな。」


 良からぬ衝動に駆られるアース。


「いやいや、うっかり過去改変しかねない。過去改変してハッピーエンドだった物語は殆どない。」


 今更だが、案内人が魔法は使うなと言っていたことを思い出すアース。


「もう、かなり魔法を使っているけど大丈夫かな……」


 怯えだすアース、今更だが。


「ノルンさんのご先祖のことは、これ以上推理できないでしょう。」


 今ある情報ではこれが精一杯と判断した。




「今は文献を理解して魔石のあり方を見極めよう。」





 気持ちを新たに文献に集中するアース。


 打ち寄せる波の音が心地よい。


 打ち寄せる波の音に別の音が混ざる。


「ドサ?」


 音の方向を見ると波打ち際にビキニ姿の女性がうつ伏せに倒れていた。


「えええー!」


 褐色の肌に細いが引き締まった四肢、うつ伏せでも分かるたわわ。 


「う、美しい………」


 見入ってしまいそうになる気持ちを押し殺し、うつ伏せの女性を仰向けにすると、顔がこちらを向く。


「う、美しい………」


 再び見入ってしまいそうになる気持ちを押し殺し、お姫様抱っこをして、ログハウスのテラスにあるベンチに寝かせる。


「あ、水を用意しよう。」


 息はあるので、いずれ目を覚ますだろう。


「おそらく難破してこのビーチに漂着……上陸したら気を失った……」


 アースは、状況からこの女性に起こったであろうことを想像し始めた。


「あっ、それより毛布と着替え。」


 毛布を用意した直後に手が止まるアース。


「女性物の衣類………どうしよう……」


 今の状況とアース自身の設定を熟慮して最適解を探す。

 その時、女性が寝返りを打った。


「起きそう!」


 熟慮の暇はない。


「あ………ここは………」


 女性が目覚める。


「無事かな?……俺はアース。」


 無難に挨拶。

 ここでは自分は『俺』と言うことにしたようだ。


「私は、シグル。」


 キョロキョロと様子を伺うシグル。


「俺ので悪いけど着替え……夏だけど、体が冷えるといけないから、それでも寒ければ毛布もあるから。水はそこのを飲んで、お替りもあるから。」


 久しぶりの女子との会話にドキドキしつつ、警戒を怠るなと必死に言い聞かせるアース。


「あ、ありがとう………とりあえず………」


 明らかに警戒しているシグル。

 受け取った衣類を眺めている。

 アースは何か失敗してはいないか、気が気ではない。


「着替えは家のなかでどうぞ。」


「ありがとう。」



 無警戒で入室を許しているアース。


 暫くして着替えたシグルがテラスに戻る。


(濡れた水着を小さく丸めて手で隠そうとしている仕草がなんとも………)


「………」


 絶賛警戒中のシグル。


「えっと……具合はどうかな……」


 なぜか卑屈な笑顔を浮かべるアース。

 シグルにはエロく見えているに違いない。


「大丈夫……あの、助けてもらって悪いんだけど……あなたは何者?」


「え?」


「王国の人よねぇ。」


「そうだけど、なんでわかるの?」


「言葉、この土地の言葉と違う。」


(あーそうだった、いや、でもこの場合はこれで正解か、知らない土地で地元民の振りをするよりいい。)


「しかも、住み着いているわよね、家とか真水とか。」


「2年未弱かな……住んでから。」


「あと、この服、木綿よねぇ。」


「そうだけど。」


「2年弱?……そこまで着古した感じはないわ!」


「他にもあるし、傷まないように洗濯しているし。」


「あなたは難破してここに漂着しのよねぇ。」


「そうだね。」


 久しぶりの会話で楽しくなっていたアース。

 シグルの考えた遭難者設定に合わせることにした。


「そんなに衣類があるのは変よねぇ。」


「俺のスーツケースにしがみついて漂流してたから。」


「他の乗客は?」


「俺一人。」


「えっ!ヨットか何か?一人で?」


「い、いや、ボート。」


 アースはシグルが船に明るいと感じ、咄嗟にボートと答えた。


「ボート??」


「そう、手漕ぎの。」


「はぁ?」


「遊びで乗ったボートが転覆してここまでは漂流しました。」


「で、2年近くここで暮らしているの?」


(流石に無理があるかなぁ。)


「バカ?」


「え?」


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