16. それでもダメですか?
アースは狼狽している。
(きっとアンナのお母さんだよね、あの反応。)
(どうする?)
アースの魔法を使えばどのようにでもできる。
(まだ、誰も気付いていない。)
誰が気付いているとか、いないとかは関係ない!君がどうしたいかだ!とヒーローなら言うだろう。
(事件の解決を誰かに頼まれた訳じゃない。)
誰かに頼まれたとか、頼まれないとかは関係ない!君がどうしたいかだ!とヒーローなら言うだろう。
(一度落ち着いて状況を確認しよう。判断はそれからでもいいだろう。)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結局、遺跡へ渡り状況確認をする必要があると考えたアース、できるだけ泥沼を避けて渡りたい。
沼地を避けて遺跡の周りを歩き、遺跡に最も近い場所を探す。
「この辺りでしょうか?」
遺跡まで15メートル位の場所をエルルが見つける。
「この幅の沼地をどうやって渡りましょうか。」
渡る方法を考えながら呟くように話すカーラ。
「どうしましょうか、沼を渡ってもう少し遺跡を見てから村に戻りたいですね。中の雰囲気だけでも掴みたいですし。」
アースも呟くように応じる。
「倒木を集めて橋を作ってみては?」
エルルの提案。
「それが良いと思いますわ。外観の調査用に外壁に沿って足場も欲しいですね。」
カーラも提案。
「明日以降も調査する予定なので少し丈夫に作りましょう。」
アースも提案したところで3人が動き始める。
カーラが馬車に積んだ麻縄を取りに戻り、アースとエルルで使えそうな倒木を集めた。
程なく橋と足場が完成。
アースとカーラは外観の調査を始める。
足場の組み立て中にもアースは魔法を使いアンナの母と思われる反応を追っていた。
どうやらアンナの母は遺跡の中で眠っているようだ。
遺跡は湖側を向いており、入口もそちらにある。
内部は泥が侵入して沼のようだ。
入口付近の泥の深さを測ろうとアースが沼に足を入れかけたがカーラに危険だと止められた。
「日没が心配ですわ。そろそろ村に戻りましょう。アース様!」
「大丈夫ですよカーラ、中を少し見てきます。」
「いけません、アース様!おかしな気配を感じますの、お戻りください!」
(おかしな気配?カーラらしくない、こんなに強く反対したのも初めてだし……アンナのお母さんに関する何かをカーラが感じている?)
「アース様!」
「分かりました、今戻ります。」
足場から橋を渡り陸地に戻るとエルルが大きなワニとスッポン5匹を生け捕りにしていた。
「エルル、何をしていらしたの?」
明らかに苛立っているカーラ。
調査中は足場と橋の補強を頼んでいた。
「補強は終えているわ、食べたくない?ワニとスッポンの料理。」
「食べたいですけど、なんか暴れていますわよ。」
カーラが両手、両足と口を縛り上げられた状態で木に吊るされ、ジタバタと暴れているワニを指差す。
「ああ、先程までは寝ていたのに……えい!」
殴って寝かせる。
「ワニは生け捕りでなくてもよろしいのでは?」
「締めると出てきた血で獣に気付かれやすくなると思って。」
「そう、時間もありません、生け捕りのまま村に戻りますか、アース様。」
エルルが太めの木の枝を切り、棒状に加工。
アースとエルルでその棒にワニを吊るし、カーラがスッポン5匹を一纏めにして、馬車まで運んだ。
村に戻りロイドの宿で馬を繋いでいるとアンナが迎えに出てくる。
「おかえりなさい。」
「只今戻りました。ワニとスッポンを捕まえてきたので見てもらえますか?」
「了解、父を呼ぶわ。」
荷を降ろしながらロイドを待つ。
「お待たせしました、どちらでしょう。」
「馬車の後ろに……」
と言ったと同時にワニが目を覚まし、ひと暴れする。
「うわっ!」
ロイドが飛び退く。
「あっスミマセン、生きています。」
アースが今更伝える。
「生け捕りにしたのですか、帰りの馬車で暴れたのではありませんか?」
「はい、目を覚ます度に暴れて大変でした、馬車が壊れるかと思いましたよ。皆さんも同じなのですか?」
「アハハハハ、ワニを捕らえたのは初めてなのですね、なのにこんな大物を生け捕りですか。……アンナ!大きめの麻布を持ってきてくれるかい?」
「わかった!」
「目隠しをするとワニは大人しくなります。」
「「えっ知りませんでした。」」
アースとエルルが感心する。
「でしたら捕獲も苦労したでしょう。」
「エルルが捕獲したので。」
「えっ!お、お一人で?」
エルルを見るロイド。
「ええ、頭を殴って気絶させて縛っただけです。」
事もなげに答えるエルル。
「殴って??」
「はい、拳で。」
「エエエ……」
「エルル本当に強いのね。」
麻布を持ってきたアンナの目が輝いていた。
「アース様ほどでは……」
(弱く見せようとしてないか?)
「これでよし!」
アンナがワニの目を隠すと、寝たかと思うほど大人しくなった。
「アースさん、申し訳ありませんが、調理場まで運ぶのを手伝ってもらえますか?アンナはスッポンを運んでくれるかな。」
体の泥を落とし、獲物を調理場まで運び報酬を受け取る。
ワニが大きかったことと、生け捕りだったことで銀貨2枚、それとスッポン5匹が銀貨一枚、合計銀貨3枚を受け取った。
部屋へ戻り、桶に貼った湯で身体を拭き着替える。
汚れた衣類は所定の場所に集めておくと近所の洗濯屋が別料金で洗ってくれる。
「食事の支度が整いましたよー!」
少しくつろいだ所でアンナが声を掛ける。
(絶妙なタイミング。)
「「「美味しそう!!」」」
「メインはワニの香草焼きよ!」
一行のテーブルで順にグラスを取り水を注ぎながら話すアンナ。
「「「いただきます!!」」」
「どうぞ召し上がれ。」
「「「美味しい!!」」」
「締めてから時間が経つとこんなに美味しくはならないの。」
「へー、どうなるのですか?」
アースが興味を示す。
「もっと臭みが出るのよねぇ……生け捕りでしか出せない味なのよ。スッポン料理は泥抜きが終ってからね、ではごゆっくり。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「ごちそう様でした!!美味しかった。」」」
「私、ワニを初めて食べました。」
「あぁ、私もです。」
「わたくしもですわ。」
「何か飲み物でも用意しますか?」
ロイドが最高のタイミングで勧める。
「私、紅茶をお願いします。」
「私も紅茶で、」
「わたくしも同じ物を。」
「承知しました。少しお待ち下さい。」
ロイドが調理場に戻る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一行の前に紅茶が揃う。
「明日もワニを駆除するのですか?」
ロイドが尋ねる。
「そうですね、調査に支障が出るようでしたら……」
アースが少し困惑気味に答える。
「結構、住み着いていそうですか?」
「はい、広い遺跡ではありませんが、20〜30頭はいるかもしれません。」
おおよその数は魔法で把握していた。
「全て駆除するのですか?」
「できるだけ詳細に遺跡を調査したいので、結果的にはそうなると考えています。」
「ご迷惑でなければ、捕獲したワニとスッポンの処理を村の者にやらせて頂けないでしょうか?」
アースが困惑したのはこれだった。
(ロイド家族と関わりすぎたかな……)
遺跡の中の生物を魔法で消し去って、カーラとエルルには何もいなかったことにすれば二人は誤魔化せる。
多少不自然でも、ワニは遺跡の調査に関係ない、些末なこととして無視してくれる。
ここまでロイド家族と関わると『ワニはいませんでした』では不自然が過ぎる。
「勿論、正当な報酬をお支払いします。」
(報酬じゃあない……)
そう、アースが困惑しているのはワニでも報酬でもない。
アンナの母の件だ。
「動ける村の者は全て獲物の処理に回します。」
(駆除せざるを得ないのであれば、処理する人が多いと助かるが……衆人環視のなかで遺体を発見して、もし遺留物から個人を特定できてしまったら……その場にアンナもいたら……アンナはどうなる?)
「滞在中、ここでした食事のお代は頂戴しません。」
(食事はアンナが作っている、美味しい料理が食べられなくなるかもしれない……)
「それでもダメですか?」
「え?」
ロイドの話を聞いているようで聞いていなかったアース。
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