15. ワニとスッポンの料理

 翌日。


 宿の一階はレストランを兼ねている。


 そこで朝食を済ませ、お茶を楽しみながら今日の予定を確認するアース一行。


「今日は村長に挨拶した後、遺跡の外観の調査を実施して、内部の調査計画を立てましょう。許可は取れていますよね。」


 そう、アースの目的はこの村の北にある遺跡の調査。


「ええ、王都で半年以上前に書面を郵送して3ヶ月前に返事が届いたので村長は4ヶ月以上前に許可を出したことになりますわ。」


 カーラは村長が忘れている可能性を示唆する。


「許可をもらってから結構時間が経っていますね。」


「はい、なので村長に挨拶する時に頂いた手紙を持参して、改めて確認いたします。」


「おはよう、ロイド。」


 常連らしい男が入店する。


「おはよう、村長。」


 ロイドがアース一行に視線を送る。


「「「「え!」」」」


 アース一行が驚く。


「??」


 村長がアース一行を見る。


「こちらは王都からいらした史跡研究所の皆さんです。」


 ロイドがアース達を紹介。


「あー、丁寧に手紙で調査の許可を申請された方々ですか。村長のバルドです。」


 村長はバルドと名乗るとアース達のテーブルまで歩み寄る。

 立ち上がるアース達。


「コーヒーでいいかい?」


 ロイドがいつも注文するコーヒーを勧める。


「あぁ、頼む。」


「史跡研究所所長のアースです。」


「助手のカーラです。」


「護衛のエルルです。」


「少し外します。」


 カーラが部屋へ手紙と土産を取りにいく。


「こちらからご挨拶に伺う予定でしたが、まさかここでお会いできるとは。」


 まずはアースから話す。


「この街の宿もレストランもここだけですからな。外でお茶でも、となれば自然とこの店になるわけですわ。」


「そうでしたか。」


「それにしても、随分若い所長さんですな。」


「よく言われます。13なので。」


「ほう。」


「これ、つまらない物ですが。」


 カーラが手土産を渡す。


「恐縮です。」


「取り敢えず、座りませんか?」


 アースが促し一同が着席する。


「さて、北の湖畔にある遺跡でしたか?」


「はい。」


「今は乾季で遺跡の大分部は水面から出てますが、遺跡周辺が浅瀬になるもんでワニやら亀がいて危ないと思うんですが…」


「亀も危険なので?」


「スッポンって言ってよく噛みます。」


「ああ!喰い付いたら離れないというあれですか。」


 アースが言うスッポンは前世のものだが。


「よく知っておられる。ワニもスッポンも食べれば美味しいのですが……ワニなんかは保存食にもなりますな。」


 この世界でもスッポンは似ているらしい。


「駆除してから入らないと危険でしょうか?」


「スッポンは危害を加えなければ噛みませんが、ワニは危険です、縄張り意識が強い上群れるんで、多ければ100頭位で群れます。」


「アース様なら大丈夫なのでは?」


 エルルが真顔で言う。


「エルルも大丈夫だと思いますよ。」


 アースは笑顔で言う。


「私ではかすり傷位は覚悟しなくてはなりません。足場も悪そうですし、アース様ならかすり傷も負いません。」


 アースの強さを盲信するエルル。


「100頭のワニを相手にする話をしているのですよね。」


 バルドがカーラに尋ねる。


「王都でエルルは『人類最強』と言われておりますの、そのエルルにして全く刃が立たない相手がアース様なのです。」


 カーラは最近の王都での評判をバルドに伝える。


「なんと…武術でも師弟関係なのですか。それで『所長』ではなく『様』が敬称なのですな!」


 その場合は『師匠』が敬称になりそうなものだが、都合の良い勘違いで助かるアース。


「ワニを駆除してくれるなら一頭当たり銀貨一枚で買い取りますよ。スッポンも生け捕りなら5匹ごとに銀貨一枚で買い取ります。」


 ロイドが割って入る。


「死んでいてはダメなのですか?」


 カーラが聞く。


「ワニは死んでいても新鮮なら構いません。でも、スッポンは生きたまま綺麗な水で一週間は泥抜きしないと臭くて食べられません。」


「子供の時、ロイドとそのまま焼いたら喰う前から酷い匂いがしてなぁ。」


 バルドの思い出話が始まる。


「あれは本当に酷かった、捨てるより仕方がなかったよ。」


 ロイドも乗っかる。


「私達は幼馴染なもんで。」


 バルドがアースにも分かるように付け加える。


(んっ!疾走事件の容疑者登場?)


 おかしな感が冴える。


「スッポン焼いた時のアンの顔が忘れられんわ。」


「そうだね。」


 うつむき加減でロイドが呟く。


(アンってアンナのお母さんの名前だろうな。多分。)


「あっ、アンはロイドの嫁さんでして。」


(やっぱり…)


「何処かで無事だといいな。」


「あぁ。」


(なんか徐々に巻き込まれている?)


「あっ、1年ほど前から行方が分からんのですわ!」


(もういいわ!ロイドさんの前で言うか?)


 疾走事件の解決を期待されている訳では無い。

 故に、今のうちに事件から距離を置きたいアース。


 重たい空気が流れる。


「それでは私達は遺跡に向う準備をします。」


 席を立つアース。

 エルルとカーラも席を立つ。


 頼まれてもいないのに事件に首を突っ込む必要はない。

 これ以上深入りする前にその場を立ち去ることが最善策。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 準備を終え馬車で村を出たアース達。

 初夏の風を感じながら湖畔を北上する。


 2キロ程進んだ辺りで湖のほとりが泥沼のようにぬかるみ、ほとりを離れると木々で進めない。


「この辺りで馬車を降りましょう。」


 エルルがここから先は徒歩で進むように提案する。


「バルドさんは森に入って少し歩けば遺跡が見えてくると言っていました。」


 手荷物を背負い歩き始めるアース達。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 歩き始めて二十分程が過ぎた頃。


 変わらず湖のほとりには沼地が広がっている。

 そこに突如幅20メートル、高さ10メートル位の建造物が見えた。


「あっ、きっとあれですね。」


 遺跡が視界に入ったエルル。


「遺跡の周辺は、殆ど泥沼ですね。」


 カーラはワニを危惧している。


(魔法でワニを探してみるか。)


 アースの魔法はイメージし、フッとなったらボンで発動する。

 詠唱もアクションも不要なので、アースの動きで他者に気取られたりはしない。


 ただ、広範囲で動物に試したことがなかった。


 エルルは魔力を向けると相手の強さとして感じている。

 人より感の鋭い動物に魔力を向けた場合どう反応するかはアースにとって未知数。


 更に広範囲に魔法を発動して人にまで気付かれたりしないか心配をしている。


(きっと大丈夫。)


 バレても二人しかここにはいない。

 きっと誤魔化せる位の感覚で魔法を発動する。


 物を探す魔法は対象物を意識して発動すると、その物の場所が反応として返る。

 物がない場合は何も返ってこない。


 対象物は複数でも問題ない。


 今回はワニとスッポンが対象物。


(あれ?おかしな反応がある???)


 雑念が混入するとこんなことがある。


(もう一度。)


 雑念を振り払う。


(おかしな反応が消えた……)


 雑念の方を気にしだすアース。

 どんな雑念が混入したかを思い出す。


(そうだ、ワニとスッポンの料理だ。)


 しかし、ワニとスッポンの料理をアースは知らない。一旦料理全般で魔法を発動するが先程の場所から反応はない。


(だよね~、こんな所に料理なんてないよね〜。)


 どんな雑念が混入したかを必死に思い出すアース。


(料理を出してくれるアンナの姿だったかも。)


 アンナで魔法を発動すると反応が返ってきた。


(えっ!アンナがいるのか?)


 もう一度アンナで魔法を発動すると、やはり反応があった。……が、何かが違う。


(これってアンナに近い人ってこと?…………ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!)

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