17. わたくしがいれば大丈夫

 翌日。

 この村に到着して3日目。


 結局、宿のロイド親子と村長を含め、約40名が遺跡の近くに集まった。


 先に到着していたアースは昨夜から今朝までに、よくこれだけの人が集まったと感心した。


 村人の到着までにアース達は遺跡の入口に柵を設けて新たなワニの侵入を防止しておく。


 村の到着を出迎えたアース達。


「おはようございます、アース所長。」


「おはようございます、バルド村長。」


「我々は、この辺りで準備作業をしてもよろしいかな?」


「はい、足場もいいのでこの辺りがいいかと思います。」


「では準備に取り掛かろう!」


 バルドが村の衆に声を掛ける。


「アースさん、今日は頑張ってね!1ヶ月分のお肉だから!」


 昨夜、アンナから聞いた話ではワニ20〜30頭は、この村で消費される肉の1ヶ月を超えるらしい。


「本当にありがとうございます。」


(なるほど、ロイドさんの説得に力が入る訳だ。)


「村の衆も喜んでいます。」


「皆さん楽しそうですね。」


「我々がワニを捕獲する時は罠を使いますが、それでは1日に何頭も掛かりません。餌に獣の肉が必要ですし、餌だけ取られることもよくあります。」


「なるほど。」


「それに、我々が餌を惜しんでアースさんと同じやり方で捕獲したら逆に餌にされます。」


「ハハハ」


「差し出がましいのですが、くれぐれも怪我に注意してください。」


「皆さんの準備も整いそうですので、私達も始めようと思います。よろしいですね。」


「はい、アースさん、お願いします。」


「エルル、カーラ、いきましょう。」


「「はい!」」


 遺跡の入口にある足場で立ち止まるアース。


「カーラ、昨日のおかしな気配は感じますか?」


「それが……昨日とは打って変わって穏やかな雰囲気を感じるくらいですの。」


(何だろう?アンナが近くにいることと関係があるのかな?)


 アンナの母アンの位置を魔宝で確認するアース。

 反応は入口から最も離れた壁の床辺りにある。


(遺体は沼の中で間違いないだろう。)


 遺跡の中に目を向けると生物の魔力が伝わってきた。


(魔法で索敵しなくてもワニの魔力で場所がわかるなぁ。これならエルルも感じ取れているかもしれない。)


 一応エルルに確認することにしたアース。


「エルルはワニの位置がわかりますか?」


「はい、ワニが敵意を向ければすぐに。」


「流石です。私とエルルでワニを狩ります。カーラはここでワニを受け取って村の方に渡してください。」


「「はい!」」


「エルル、それではいきましょう!」


 アースは沼の深さを図るためゆっくりと足を沈めていく。


「ハッ!」


「えっ!」


 アースの頭上を高々と飛び越えてエルルが遺跡内の中央部にドボンと着地。


「ヤッ!とう!」


 大きめのナイフで二頭を瞬殺。

 ナイフを腰に収め、両手で二頭のワニの尾を握り引きずりながらカーラの方へ歩き出した。


「エ、エルル、たのしそうですね……」


 アースの足はまだ遺跡の床に着いていない。


「そうですか?」


 少し否定するエルルだが、口角は上がっていた。


「はい……」


「村の方を呼んできます。」


 カーラが小走りに陸へ向う。


 それからは遺跡の入口から処理する場所まで15名ほどで村人が並び、バケツリレーの要領でワニを運ぶ。


 ワニは沼を滑るように処理する場所まで運ばれた。


 一時間と少しが経過したあたりでアースはワニの魔力を感じなくなった。


「もう中にワニはいませんね。」


「そうですね……」


 残念そうなエルル。


「カーラ、こちらは終わりました、村の方達はどうですか?」


「処理が追い付いていませんわ。」


「では私達もそちらを手伝いましょう。」


「それでしたらアース様とエルルは綺麗な水を調達してくると喜ばれると思いますわよ。」


 足場を歩きながらカーラがそんな話をした。

 村長に水の調達を伝えると本当に喜んだ。


「おお!丁度水が切れるところでした。どうするか話しておったのですわ!」


「近くに綺麗な水が汲める場所はありますか?」


「北に200メートル程森をいくと沢があるんですが、この辺り全体が獣の水場だから、我々では危なくて……助かります。」


(ワニを運びながら村の人達の様子も見ていたのか、カーラはすごいな。)


 アースは感心した。


「水は詰めるだけ積んで来たんですが足らんでしたわ!ハハハハ。」


「アース様とエルルがワニを捕まえている間に村まで水を汲みに戻るつもりだったそうですの。」


「ハハハ。」


「そうしましたら、村長さんの予想以上に早く捕まえたものですから、村に戻る時間が無くなったのですわ。」


「そうでしたか、それでは水を汲みに行きますか?」


「わたくしはチョット……」


「いかないのですか?」


「ワニの卵も絶品なのだとか……ですのでそちらへ行ってまいります。」


 そう言い残してすぐさま女性の村人に声を掛けるカーラ。


「ほう、今はワニの産卵期でして、できれば持ち帰りたいと言っていたのを聞いたのでしょう。賢い方ですな。危ないので男衆を連れて行くように言ってのですが、男衆の手が空かなくて、それを気にされて………」


 と、村長のバルドが言ったあたりでワニを持ち上げたカーラ。


「殿方がいなくても、わたくしがいれば大丈夫ですわ奥様!いきましょう卵を取りに!」


「卵が食べたいだけなのでは?」


 エルルの方が正解に近そうだ。





「いこうか、エルル。」


「私も水汲みにいくわ!」


「いいのですか?アンナ」


「うん、あちらの人手は足りているから。」


「でしたら、いきましょうか。」


 沢へ向けて移動を始めるアース達。


「アース様、今日は村の人達を手伝って見たらどうでしょう?」


「ええ、それがいいですね。」


「嬉しい。少し、日没が心配だったの。」


「じゃあ、昼食の支度から手伝おうか?」


「アースさんとエルルはワニの解体を手伝ってよ。」


「エエエ、グロくないですか?」


「酷い!ワニは捨てる所がないのよ!血も飲めるし!」


「血を飲むのですか?」


「大人はお酒に混ぜて飲むの、健康に良いそうよ。」


「試して見ようかしら。」


「昨日夕食に出した香草焼きのソースにも隠し味に入ってたのよ!」


「うそ!凄く美味しかったわ!」


「ねぇ!アースさん!」


「何でしょう。」


「明日も来ていいかな?手伝えることがあったら何でもやるわ!」


「宿とレストランは大丈夫なのですか?」


「心配ないわ、宿泊のお客さんは暫くアースさん達だけだし、レストランなら父さん一人でも暇なくらいよ。」


「いいと思いますよ、アース様。」


「では、まずは、お弁当をお願いします。調査期間は昼食を摂らないつもりだったので助かります。」


「わかったわ!」


「なぜ、私達を手伝う気になったのですか?」


「よく分らないけど、この場所……穏やかで温かい気持ちになるの。」


(カーラと似たようなことを………アンさんなのか?)

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