18. アンよりアンナ

 この村に到着して10日目。

 アンナが同行するようになって7日目。


 アンナの母アンの遺体は、遺跡の浴室にある石積の浴槽に移動してもらっていた。


 この浴室は本格調査初日に発見し調査を済ませているので、もう一度調べ直すことはまず無く、誤って誰かに見つけられる可能性も低い。

 勿論、秘密裏に魔法で移動した。


(アンさん、もう少しお待ち下さい。)


 アースは、カーラが『おかしな気配』と言ったことや、翌日には『穏やか』と表現し、アンナまで『穏やかで温かい気持ちになる』と言っていたことを、『アンナの母アンは村の人達に見つけほしいと思っている。』と解釈した。


(もし間違っていたら、カーラまでお知らせください。アンさん。)


 とうとうその日を迎えようとしていた。


「おおよそ調査は済みました。残るは床面だけです。」


「泥を抜きますか?」


「はい、今日は村に戻って、村の人達に協力を仰ぎましょう。」


「これくらいでしたら、私とアース様でできませんか?」


「い・い・の・で・す!!村の人達にお願いするのです。」


 なぜかキレ気味のアース。

 エルルを睨む。


(この計画の敵はエルルか?)


 何となくアンナを眺めたアース。


「??」


 遺跡の入口でクスクスと笑っていたアンナがアースの視線に気付いて不思議そうな顔をした。


(何だろう、この穏やかな空気?)


 アースまで何かを感じ始めていた。


 全員が遺跡を出てアースが入口で中を眺めながらアンナを元いた場所に魔法で移す。


(それではまた。)


 アンに語り掛けるアース。





 村に戻り馬を繋いでいると、ロイドが迎える。


「おかえりなさい、アースさん。」


「只今戻りました。村長は在宅かご存知ですか?」


「ごめんなさい、行ってみないと……」


「わかりました、行って見ます。」


 アースは身支度を整えて村長宅を訪れる。


「ようこそ、アースさん。」


 村長のバルドは在宅だった。


「バルド村長、お願いしたいことがあってきたのですが。」


「何でしょう。」


「遺跡の中の泥を外に出したいので10人程、お借りできないかと思いまして。」


「なるほど。」


「勿論、日当とお借りした道具の代金は払います。」


 バルドは快く応じた。

 更に馬車や道具の代金は不要とまで言い、その分日当に当てて欲しいとアースに伝えた。


 宿にアースが戻るとエルルとカーラが夕食の支度を手伝っていた。


「アース様、もうすぐ出来ますわよ!」


「わかりました。」


 アースは宿に戻って早々、配膳係を担当する。


「「「いただきます!!」」」


「「「ごちそう様でした!!」」」


「「「おいしかったー!!」」」


「皆さん紅茶でよろしいですか?」


「「「お願いします!!」」」


 まるで三つ子。



 食休み中、バルドが入店する。


「おお!アースさん、集まりましたぞ!」


 先程頼んだ『泥抜きの手伝い』のことであろうが、それにしても仕事が早い。


「早いですね!」


「この村にはアースさんに手を貸したい者が大勢おるのですわ。」


「なんのこと?」


 アンナが気になり口を挟む。


「アンナもどうかね?遺跡の中の泥をかき出すんだが。」


「もちろん、いくわ!父さんは店番ね。」


「わかったよ。」


「明日にはお手伝いしていただけるのでしょうか?」


「当然。」


「では、明日、夜が明けたら出発しましょう。」


「承知しました!皆に伝えて来ますんで。」


(アンさん、いよいよ明日に決まりました。)




 翌日の早朝。


 霧が幻想的にかかり、雰囲気を盛り上げる。


 遺跡に到着し、作業手順を周知する。


 アースが遺跡の内部にワニが侵入していないか確認しつつアンさんの位置を確認する。


(場所に変わりはない。)


 作業の大まかな手順は、最初に遺跡の入口を足場の高さまで塞ぎ新たな泥の侵入を防ぐ。


 次に内部の泥の上澄みを外へ出す。


 ある程度推移が下がったら、かき出す泥をエルルがザルで受けて泥だけを外へ出す。


 残った物をカーラとアンナが水洗いしてアースが仕分ける。


 以上。


 



 作業開始から小一時間程過ぎた頃、その時が来た。





「うわ!」


 遺跡の中から男性の声が響く。

 その男性が遺跡の入口まで来てアースを呼ぶ。


「人骨が………」


 小声で耳打ちする男。


「みなさーん、一旦作業を中止して遺跡から出てください!」


 アースが人払いをしてカーラに村長を呼ぶように頼む。


「どうしました?」


 駆け寄る村長。


「人骨が見つかりました。保安官を呼んでいただけますか?」


「私です。」


「は?あ、すみません。」


 たしかに、小さな村では村長と保安官を兼任していてもおかしくはない。


「おかしいですかな?」


「で、では後をお願いします。」


 現場の検証は村長改めて保安官に任せ、アースはカーラとエルルを呼び情報を共有する。


 もちろん、アンナの母であることは言わない。


 しかし、村人の殆どはアンナの母アンであると考えていた。


「バルド……さんどうでしょうか?」


 状況的に村長とも保安官とも言えなくなり『さん』付けで呼ぶアース。


「現場検証なんかで今日一日は時間が欲しいですな。」


「わかりました、今日の私達の作業は中止して少ししたら村に戻ります。」


「あ、それと、アースさん、もし可能であれば、護衛ができる方を残してはもらえないですか?日暮れが心配でして……」


「はい、承知しました。」


 アースは、村の人達と昼食の支度をすることにした。

 エルルを呼び、続いてカーラを呼ぶため探す。


 カーラはアンナの肩を抱いて捜索の動向を見ていた。


 アンナが小さく震えて見えたアースはカーラを呼ぶことを止めた。


 アンナもアンだと感じているようだった。


 重たい雰囲気で食事を終え、捜査に協力する村人とカーラ、エルルとアンナを残してアースは、村に戻る。


 村に戻るとすぐに村人がロイドの元を訪れ遺体発見を知らせた。


 遺体がアンだと直感したのか、半ばパニック状態で飛び出そうとするロイドを村人がなだめた。


 最低限の支度を整えて、アースとロイドは馬2頭で遺跡に急行する。


 森の手前に停車している馬車を見付けるとロイドは馬を降り、遺跡めがけて駆け出す。


 アースはロイドが降りた馬の手綱を受け取り2頭を繋いで後を追う。


 遺跡に到着したロイドを見付けたアンナが駆け寄り、父にしがみつき嗚咽する。


 ロイドはアンよりアンナを心配していたようだ。

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