4章 ノルンとクレア
王都到着
22. お胸がモデル
今この街に到着した女性が二人。
小一時間ほどで日が暮れる頃。
「なんて立派な門でしょう!」
キラキラした目で観光を満喫している様子。
六十代前半の淑女、年相応ではあるが姿勢がよく整った容姿で非常に美しい。
声は張りがあり見た目より若さを感じる。
「この国最大の街じゃからな。」
抑揚のない適当な相槌。
十代後半に見えるこの女性の言葉は年寄臭い。
しかし、歳こそ違うが二人はよく似ている。
「本当ですわ、この凱旋門もこの国最大なのだとか。」
旅慣れた出で立ちに上品な言葉遣い。
何処か不釣り合い。
「どれだけ権力を誇示したいんじゃ」
機嫌が悪いのか、酒場のおやじのようなセリフ。
「ノルン様!ご覧になりましたか?このレリーフ!すごく綺麗!」
十代後半に見える人物の名はノルン。
ノルンの機嫌などお構い無しで会話を続けた。
「門を抜けるだけじゃぞ!モタモタすな!クレア。」
六十代前半に見える人物の名はクレア。
クレアの緩慢な動きにイライラしている様子。
「ですが、全ての壁面にこれ程のレリーフを施すなんて驚愕ですわ!!」
夕暮れの晴れた空が街にまで染み渡り美しい。
旅行気分全開で観光を楽しみたいクレアには最高のシチュエーション
「全ては民草の税じゃ!!ホレっゆくぞ!」
早く宿を取り、食事を済ませ、汗を落としたいノルン。
イライラの原因はこれ。
「なんて大きな広場でしょう!」
凱旋門を抜けた先には広大な円形の広場、中央には噴水、噴水を囲む花壇は手入れが行き届いていて季節の花が彩りを添えている。
広場を囲む中世ヨーロッパ風の建物は殆どが店舗、大小合わせ100件近く在るだろうか。
1店舗の真口が平均10メートルと考えると周囲が1キロメートルに及ぶ広大な広場である。
クレアのテンションは更に上る。
今にも広場を隈なく散策し始めそうだ。
「いいから来ぬか!」
ノルンはクレアの手を握り、宿探しに向う。
「♪♪♪」
クレアは手を繋いでいることが嬉しいらしく、静かにいい笑顔のまま歩いている。
凱旋門に近い路地に入り、T字路を曲がると広場に沿うような路地がある。
この路地には広場に面した店舗より更に多くの店鋪が軒を連ねている。
どこも大きさも価格も庶民的だった。
手頃な宿も程なく見つかり、無事にチェックインを済ませ夕食のため広場に戻ってきた。
「なんて大きな広場でしょう!」
広場に戻り改めて驚くクレア。
「先程も言っておったぞ。」
噴水の東側の一画は数十件の屋台が並びフードコートのような感覚で食事を楽しむことができる。
今の目的地である。
「感動の表現です、何度言っても構わないではありませんか。」
宿が無事に取れた→焦る理由が無くなった→ノルンの機嫌が治る。
と思っていたクレアは相変わらずの塩対応に抗議の意思を込めて言った。
「大きな広場の割には小さい噴水じゃのう?」
何となくの流れで不機嫌な対応をしたことを気付かされたノルン。
反省しつつ話題を変えこの場を凌ぐことにしてみた。
よく見れば広場に面した店舗は格が違うようで、どの店舗も華やかで大きい。
広場の大きさや華やかさ、店舗の数、勿論それに見合うだけの往来もある。
確かに、この噴水は不釣り合いに見える。
其の場凌ぎの言葉だったが、かなり良い話題だと内心では思っていた。
「本当、大ババ様の乳首のようですわ。」
クレアはノルンが少し反省したことに、全く気づかなかった。
それよりこの塩対応に嫌気が差してしまった。
こんな時にクレアは皮肉を込めてノルンを大ババ様と呼ぶ。
しかし……それよりしかし……言っていることが極めて下品で唐突だった。
人前であることを気にしているようにも見えない。
「大ババ様は止めよ、クレア!」
乳首より大ババ様呼ばわりを気にしている。
二人は屋台が集まるエリアに向かっていたが、急遽ノルンはクレアの手を引き少し往来の少ない噴水の方へと向きを変えた。
「噴水を囲う花壇が妙に広い…大ババ様の乳輪のようですわ」
ノルンに構うことなく、花壇の側でも下品なことを呟くクレア。
少し俯向いた頬に白銀の美しく長いサラサラの髪が薄いシルクのカーテンのように掛かる。
「聞いておらぬな?怪しまれるで大ババ様は止めろと言うておる。」
まだ乳輪より大ババ様呼ばわりを気にするノルン。
クレアの若かりし頃を思わせる美しい容姿をしているノルンだが、実は人目に付くことを避けている。
二人には見た目で異なる点が年齢の他にも2つある。
それは、胸と耳。
ノルンの胸と耳はクレアより遥かに大きい。
さらに耳の先は尖った形をしている。
胸はクレアが小さ過ぎるだけなのだが。
「この巨大広場(乳房)、大き目花壇(乳輪)、可愛い噴水(乳首)!」
熟考の姿勢から仁王立ちに変わった。
健康的だがスレンダーボディでは仁王立ちと言うには弱々しい。
「あァ?」
ようやくクレアに揶揄われていることに気付くノルン。
一瞬怒気を孕んだ表情を見せるが直ぐに冷静さを取り戻し、クレアと同じ姿勢で正面に立つ。
そこから、やや胸を反りたわわ感を強調する。
実は巨乳と言えるほどではない、美乳に該当する。
だからこそ強調する。ドヤ顔で。
「正に大ババ様のお胸がモデルなのでは御座いませんこと?」
ドヤ顔に動じることなく言ってやったかのようだが、額に浮き出した血管は隠せていない。
たわわ強調作戦は成功した。
「「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」」
「この広場、お主の胸のようにひらたいのぉ。」
美魔女とロリババアの下品な言い争いは暫く続いた後再び屋台が並ぶエリアで物色を始めた。
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