11. 嬉しくて、気持ちが凄くよくなって

「アース様、何があったのですか?」


 何年か前と同じ状況に怒りを感じたのか、少し怒気どきを帯びた言い回しになったスリマ。



「研究所に着いたらエルルが稽古をしていて……」


 アースが弁明を始める。



「それで殴り倒したのですか?…あっ、申し訳ありません。」


 スリマの感情が漏れ出た。



「声をかけたら、エルルの方から手合わせを……」


 と弁明中のアース。



「エルルがアース様に手合わせを申し出たと?そんなはず!…も、申し訳ありません、感情が…」


 スリマは黙って要られずつい口を挟むがすぐに頭を冷やす。



「えっと、その…」


 アースは話しづらくてたまらない。



「スリマ、本当なの。」


 エルルが目を覚ました。



「「「エルル!」」」


 アース、カーラ、スリマの3人が同時に声を上げた。



「気になることがあって、アース様に手合わせをお願いしたの。」


 身体を起こしながら話すエルル。


 エルルはアースの強さが変わる意味が気になって仕方がない。



「あんなに怯えていたのになんで?」


 何年も前の出来事、あれ程怯え、それ以来アースとは手合わせを避けていたのになぜ?


 スリマが心から心配する。



「それよりも知りたかったの。」


 エルルはアースの強さが変わる意味が知りたくて仕方がない。



「何を知りたいって言うの?」


 そこまでして何を知りたいかを知りたいスリマ。



「解りましたか?気になること。」


 アースはエルルが魔力をどのように感じているか気になり始めた。



「正確には解りませんが。」


 エルルはまだ整理がついていない。



(正確には?…)


 魔法を自身に使うのであれば気取けどられることはないと思っていたアース。

 もしエルルに魔力を感じる力があるならば、アースが自身に防御魔法を使っていた時はどう感じていたのかを知りたいが、気付かれている気配は無かった。



「手合わせの時…構えた時は勝てると思っていました、手加減しないとまたアース様に酷いことをしてしまうとさえ。」


 エルルは回想しながら感じたことを話す。



「アハハ」


 アースは苦笑い。



「でも初撃の直後アース様は急に強くなられました。」


 魔力の出力を上げることを、エルルはこのように感じていた。



「強く…相手の強さがわかるのですか?エルル。」


 アースは、エルルが魔力の量を強さとして捉えていると感じた。



「普段は分かりません、でも手合わせすればほぼ確実に、強い相手であれば対峙しただけで分かります。」


 エルルはアースの問に真摯に答える。



「なんと…」


 相手の気迫のようなものと魔力でエルルはかなり正確に相手の強さを感じていると仮定するアース。



「その後、アース様の強さに合わせて次の手を放つと更に強くなって…」


 エルルの頬に赤みが刺す。



「そのように感じていたのですね。」


 アースはエルルが相手の強さをかなり正確に感じているが、魔力だけを感じている訳でも常に感じている訳でもないと考えた。



「何度か繰り返したら私が手加減なんかできなくて…怖くて、嬉しくて、気持ちが凄くよくなって、私…あっ」


 エルルがデレ顔になって何かしてしまったようだ。



(この娘また…)


 スリマだけ『あっ』の意味に気付いていた。



「???」


 アースは意味が分らない。



「感情のまま手合わせをしていたら急に真っ白になって目を覚ましたらここでした。」


 エルルの記憶はここまで。



「それで、もう大丈夫なの?」


 スリマはエルルの体調だけが心配。



「ええ、ごめんなさい。」


 エルルが心配をかけたと詫びる。



「よかった!でも今日は休んでいてください。」


 アースも一安心。



「あのっ、よろしければ、これからも手合わせして頂けないでしょうか?アース様。」


 懲りないエルル。



「駄目です!体に悪そうです!」


 答えたのはスリマ、即答だった。



「失神する前に止めてくれますか?」


 アースはエルルの持つ魔力に対する感受性に興味があるのでやぶさかではない。



「はい、そうします。」


 嬉しそうな笑顔で返事をするエルル。



「では、お受けします。」


 アースは快諾する。



「ありがとうございます。」


 エルルの笑顔が眩しい。



「………」


 スリマはやぶさか。



「それにしても、アース様は私よりずっとお強いのに何故あれほど手加減されているのですか?」


 エルルが意表を突く質問をアースに投げる。



「「エエ!」」


 カーラとスリマには初耳だった。


 アースが強くなっているとは思っていたがエルルを遥かに凌駕していたとは思ってもいなかった。



「えっと…」


 アースは言い淀む。



「もしかして!魔法を手に入れられたのですか?」


 カーラが冗談口調で言い当てている。



「そ、そんなはずありませんよ。」


 アースが乗っかってみる。



「「「「ハハハハハハハハハハハハハ」」」」


 4人の思惑が交差する。



「では、お祝いの支度でもしますか?」


 スリマが場の空気を変える。




 この日からエルルと手加減なしに手合わせできるようになったアース。



 以後日課のようにエルルと稽古に励んでいる。


 場所は研究所の実験棟で仕事終わりに1〜2時間汗を流す。


 実験棟の一階は道場の倍位の広さで床は土、天井も高く雨風も入り込まない。


 実験の予定がない日は稽古に使えると思っていたが、道場以上に道場っぽかった。


 入り口を入ってすぐにいつの間に物置が設置されていて、木刀や防具など稽古に必要な道具まで揃っていた。


(エルルの仕業か!)


 エルルは約束通り気絶すること無くアースと手合わせしている。


 感情を抑えながら手合わせしているようだが、明らかに嬉しそうに打ち合っている。


 道場では見たことがない表情だった。


 思う存分稽古に打ち込むことが出来ているからか、エルルの実力は以前にも増して伸びている。


(普通の14〜15倍位の強さか?いやそれ以上か?)


 アースの魔力からすればこれでも微々たるものだが充分に人間離れしている。


 こんなことをしつつ二月程経過したある日、アースはエルルを見てあることに気づいた。


(あれ?エルルの魔力量、少し増えていないか?)


 アースと手合わせするようになる前は常人の2倍程だったが、今は2.2〜2.3倍位あるように見える。


(誤差程度でしょう?体調でも変わるかもしれないし、少し様子を見よう。)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る