第19話 切れた糸

翌朝、目が覚めた僕は早まったのでは無いかとため息を吐く。

全身のだるさと腰回りの痛みで目が覚めたからだ。

初めはぎこちないながらも優しかった行為が、途中から今までの我慢の糸が切れたかのように、アルベルトは何度も僕の名前を呼びながら行為を続けた。

それが、朝方まで続くなんて、思いもよらなかった。

考えなくてもわかる事だった。

いくら僕の方が若いと言っても、アルベルトはまだ21の健全な男性だ。

元騎士団長と言うのもあって、体力も桁外れだ。

ひ弱な魔法しか使えない僕とは比べ物にならない。

それに、体もベタつかず、シーツも綺麗だ。

きっと僕が寝入った後、アルベルトがケアしてくれたのだとわかる。

それだけ、まだアルベルトにはまだ体力が残っているのだ。

ふと隣で僕を抱き込みながら寝ているアルベルトへと視線を向けると、心なしか肌艶がいいように思えて、なんだか可笑しくてつい笑ってしまう。

その声に、アルベルトが気付き、目を覚ますと一瞬にして青ざめる。

「圭っ!体は大丈夫か?」

アルベルトは慌てて体を起こし、僕の頬を掴みながら心配そうに顔を覗き込む。

僕は微笑みながら、少し震える手を伸ばし、アルベルトの頬を撫でる。

その震えが伝わったのか、アルベルトはすまないと小さな声で謝る。

「嬉しくて浮かれ過ぎてしまった・・・・」

「大丈夫だよ。正直言うと少し体は辛いけど、僕は嫌じゃなかったし、嬉しかった」

そう言って、触れた頬をまた指先で撫でると、アルベルトはふと笑みを溢し、優しくキスをする。

そのキスが何度か続いた後、首元へ、更に下へと移動しているのを察して、僕は慌てて止める。

「もう、無理だよ!それに、ライアが起きる時間だよ」

そう言って、力無い腕を必死にアルベルトの胸に押し付けると、アルベルトは少し残念そうな表情を浮かべ、今日は自分が朝食を用意するといい、服を着て部屋を出ていった。

僕はその後ろ姿を見つめながら、小さなため息をまたひとつ吐く。

嫌じゃなかったから、きっと僕はまたあの顔で、あの声で名前を呼ばれる度にアルベルトを拒む事はできないだろう。

僕はそっと心の中で、少し体を鍛えようと誓う。

愛しい人の願いは叶えてあげたい。何より僕もそれを望んでいるから・・・。


その日は体調が悪いとライアに説明して、部屋でゆっくりと休んだ。

ライアは心配して看病をしてくれたが、正直、看病されるほどの事でもなく、原因がアレだと思うと申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいだった。

そんな複雑な僕の気持ちを察しているのか、いないのか、ライアと一緒に看病するアルベルトは少し意地悪だと思った。

それでも、夕方にはすっかり元気になり、ライアと一緒にいつもの様に夕食を作る。

たわいもない話でライアと笑い合い、ふと後ろを振り向けばアルベルトが僕に微笑む。

そして三人で食事を済まし、寝るまで会話を続ける。

今では当たり前になった光景が、僕は嬉しくて嬉しくて、ほんの少し鼻がつんとする。

そんな僕を隣にいたアルベルトがそっと肩を抱き寄せる。

昔からアルベルトはそうだった。

僕に興味なさそうな顔で、一方後ろを歩くアルベルト。

それでも、僕が躓くとすぐに手を伸ばしてくれて、落ち込んでいる時は何も言わず、少し離れた所で見守ってくれる。

泣いてる時は、僕を隠すように立ってそっとハンカチを渡してくれた。

寒い日は、あの雨の日の洞窟の時の様に、そっとマントをかけてくれる。

思い返せば、言葉はなくてもいつでも僕を想ってくれている態度だった。

それが有り難くて、ほんの少しだけ申し訳なくて、知らずにポロリと涙が溢れる。

「圭、どこか痛いの?まだ、具合悪い?」

心配そうに覗き込むライアを、僕は片手で抱き寄せる。

「僕は今、とても幸せなんだ。大好きなライアがいて、愛するアルベルトがいて、本当に、本当に幸せなんだ。だから、1秒でも長く2人といたい。ずっと、三人で暮らしていきたい・・・本当に幸せだから・・・」

そう言って涙を流す僕の腕をライアがぎゅっと握る。

「僕も圭とアルベルトと、ずっと暮らしたい。もし、大きくなって結婚しても2人とは離れたくない。僕に家族をくれた2人とずっと一緒にいたい」

ライアはそう言って、僕達を見上げる。

すると、アルベルトが腕を伸ばし、僕とライアを包み込むように抱きしめる。

「ライアはもう私達の子供のようなものだ。私達がそばで見守るから、ライアは笑って暮らせ。そうすれば、圭も笑ってくれる。私は圭が笑ってくれる事がとても嬉しい。こうして幸せだと泣く圭も愛おしい。そんな圭が愛するライアも愛おしい。だから、ずっと三人でいよう。私が2人を守り、幸せにする」

力強く抱きしめてくれるアルベルトの胸に僕は頬を寄せる。

そして、僕はライアを抱きしめる腕に力を込める。

ライアは僕達の腕の中で、苦しいよと笑うがそれでもしばらくの間、互いを抱きしめ合った。

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