第2話 過去と現実

久留間クルマ ケイは16歳で異世界の神子として召喚された。

召喚といっても神殿などの場所でではなく、ゲートを開くだけで、降り立つのは

(聖なる森)と呼ばれる場所だった。

そこに降り立った圭は、迎えに来たという王族の騎士達に連れられ王城へと迎い上げられる。

家族の元へ帰りたいという願いは叶う事なく、その身は拘束され、国の民の為、王族の為、祈りと癒しを捧げる毎日が続き、ある事件を境に地獄へと落とされる。

ようやく終わりの時を迎えたと思っていたのに、また原点へ戻ってきてしまった。

その事が恐ろしくて堪らない。


「・・・様。圭様」

名前を呼ばれ、うっすらと目を開けると、心配そうな表情を浮かべ覗き込んでくる男がいた。

赤茶色の短髪がさらりと揺れ、高身長からか身を屈めていても影が全体を覆い尽くす。

彼の名はアルベルト・ウォルマー。過去に聖騎士として護衛していた男だ。

「お願いだ・・・僕はもうあそこへ戻りたくない・・・」

「圭様、ここは安全です。ですから、今は安心して体を休めて下さい。熱が高いのです」

朦朧とした意識の中、アルベルトの話を聞きながらうっすらと涙を浮かべる。

「僕が何をしたの?ただ必死に頑張ったのに・・・やっと終わりを迎えて、家族の元に帰れるかもしれないと思ったのに・・・どうして、また地獄を繰り返せというの?」

「圭様・・・」

「君もまた僕を見捨てるんだろ?お願いだよ・・・僕をこのまま死なせて・・」

溢れ出る涙を拭いもせず、必死に懇願する。

アルベルトはそっと僕の涙を拭い、僕の手を握りしめた。

「圭様、もうあのような事を繰り返さなくていいのです。私が・・・今度こそ私が圭様を守ります。どうか・・・どうか、生きてください」

握りしめた手を自分の頬に当て、懇願するように僕を見つめてくるが、過去の彼は何もしなかった。四六時中僕を警護していたのに、地獄が始まったあの日も側にいなかった。

その事が脳裏に浮かび、僕は信じる事ができなかった。

そのまままた意識を失った僕は、何度か目を覚ますも、アルベルトの姿を見つける度に、絶望に打ちひしがれていた。


深い眠りの中、過去の風景が思い出されていた。

家族を恋がる中、帰れる術はないのだからこの国の民の為、尽力を尽くせと王に命じられ王都の神殿から祈りを捧げる事を日課にさせれられた。

そして言葉巧みに癒しの力で重病の人の治療をさせられる。

それが貴族ばかりなのを不思議に思い、平民も受け入れて欲しいと願い出た。

初めは貴重な力を平民に使う必要はないと反対していた王ではあったが、ある人物の後押しで願いは受け入れられた。

そして、週一回ではあるが護衛付で平民街にある神殿に祈りと治療をしに通っていた。

ある日、僕は疲れからかその帰り道、アルベルトにお願いして(聖なる森)に連れて来てもらった。

帰れるはずがないのは知っていたが、せめて降り立った地で家族への想いを祈りたいと切に願ったからだ。

彼は真面目な性格からか、最初に警護についた時から私語をする事もなく黙々と騎士としての役割を果たしていた。

僕に逆らう事なく、ましてや王に逆らう事なく、ただ聖騎士としての役割を果たす為に、常に僕のそばにいた。

(聖なる森)で祈りを捧げたあと、急な雨に雨宿りできる大きな木はないかと探していたところで、この洞窟を見つけた。

今、思えば馬車に戻ればいいだけの事だったが、何故か2人とも導かれるようにこの洞窟へとやってきた。

そして、雨よけに使っていたマントに魔法をかけ乾かせると、僕の肩へとかけてくれた。

特に言葉なく、当たり前かのように労ってくれた。

それが、嬉しかった。

それなのに・・・・。


「どう・・して・・?どうして、僕を見捨てたの?」

うなされるようなか細い声で、ぼんやりと見える彼に問いかける。

はっきりと読み取れない彼の表情がもどかしく思える。

「圭様・・・」

「僕は・・・何も話してくれなくても、僕を守ると言ってくれた君を、信じてた。幽閉される為に馬車に乗せられた時も、あの子が悲しい目に遭った時も、僕は・・・君の名前を呼んでた・・来てくれると信じてた・・・」

「・・・間に合わなかったんだ・・」

苦しそうにそう吐き出した彼の言葉に、僕は何を言っているのか理解ができず、瞼の重さにまた眠りについた。

もう目覚めたくないと祈りながら・・・。

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