聖騎士は永遠の愛と忠誠を誓う

颯風 こゆき

第1話 回帰

冷えたベットの上で小さな命の灯火が消えようとしていた。

その運命を青年は受け入れる様に微笑む。

やっと苦しみから解き放たれる・・・そして、きっと魂は元の世界へ戻してくれるだろう・・・

その想いが彼を微笑みへと変える。

ふと遠くでドアが激しく開ける音が聞こえ、何かを叫んでいる気がしたが、もう彼の耳には何を言っているのかもわからない。

静かにその時を受け入れる。

待ち侘びていた瞬間に、彼はゆっくりと目を閉じた。

きっと待っているであろう家族の元へ帰れるよう祈りながら・・・。



目を閉じていても注ぐ光の強さに目を開ける。

目の前には青く透き通った青空が見える。

「ここは天国か・・?」

そう思いながらゆっくりと体を起こし、目の前にある風景に一瞬で体が強張る。

そしてゆっくりと視線を自分へと向けると、見覚えのある服に更に体が強張り、それは次第に恐怖へと変わり体がガタガタと震え出す。

「どうして・・・」

小さくそう呟くと、今の現状に頭が追いつかずパニックを起こす。

だが、すぐによろよろと立ち上がり、茂みへと歩き出す。

「逃げなきゃ・・・今すぐ逃げなきゃ・・・」

ブツブツと呟きながら、茂みの奥へ奥へと歩みを進める。

体はまだ震えが止まらない。

おぼつかない足を叩きながら、とにかく遠くへと自分を叱咤する。

「動け、僕の足っ!あんな想いを繰り返すなっ」

そう自分に言い聞かせ、恐怖からかいつの間にか流れ落ちる涙を拭いながら、懸命に足を動かす。

「あそこまで・・・あそこまで行けばいいんだ。あそこなら見つからない」

昔、一度だけ行った事がある洞窟を必死に思い出しながら、茂みの中をかき分けていく。

やっとの事で洞窟を見つけ、奥へと入っていくと膝を抱えて座り込む。

どうして・・・どうして、またここへ・・・?

僕はまたあの苦しみを味わないといけないの?

いやだ・・・絶対に嫌だ・・・

抱え込んだ腕の力がこもる。これから起こりゆるかもしれない過去の思い出と現実が怖くてたまらない。

この森から離れなくては・・・

あの時はただ状況がわからなくて呆然とあの開けた場所にいた。

だからすぐに見つかった。

もうすぐ日が沈む・・・捜索隊が近くを彷徨っているかもしれない。

ここはあの場所から離れているが、あの場所に僕がいないとわかれば探しにくるかもしれない。

ここは昔、雨宿りの為に偶然見つけた場所だ。

そう簡単には見つからないと思うが、朝まで待って、すぐにこの森から離れよう。

そう思いながら、外から見えない様に洞窟の奥へ壁に身を寄せるようにくっつく。

そうしている内に、だんだん緊張が薄れてウトウトと目を閉じてしまった。


ガサリッ

草をかき分ける音に、ハッと目を覚ます。

音がどんどん近付いてくる事に恐怖を感じながら、すっかり暗闇となった外に目を凝らす。

すると、草を踏む音からはっきりと人の足音へ変わり、それが洞窟の中に入ってきているのがわかると体が自然に震え出す。

「神子様?」

聞き覚えのあるその声に血の気が引く。

カチャカチャと音がした後、小さな明かりが灯り、その明かりが映し出した顔はその声が間違いなく彼の物だと知らされる。

「来ないで・・・」

捻り出すようにそう声をかけるも、彼はゆっくりと近づいてくる。

「神子様・・・」

もう一度、その名で呼ばれ恐怖からか目頭が熱くなる。

「来ないで!」

「神子様・・・」

眉を顰め、心配そうな表情で見つめてくる彼にもう一度来るなと叫ぶ。

「僕は神子なんかじゃない!だから、来ないで!」

そう叫びながら、手元にあった土を彼へ投げつける。

だが、彼はそれに怯む事なく近づき、徐に僕を強く抱き寄せた。

「離して!僕は神子じゃない!僕はこの国が嫌いだ!僕を苦しめた王族も嫌いだ!僕を守ってくれなかったお前も大嫌いだ!」

「神子様・・・」

「神子なんて呼ぶなっ!僕を捕まえてまたあの地獄へ連れて行くなら、今すぐ殺せ!殺してくれ!」

泣き叫ぶ僕を宥めるかのように、彼は僕を強く抱きしめる。

「神子様・・・圭様・・・今度は手を離しません・・・」

「離せっ!神子と呼ぶなっ!僕を殺せっ!」

「嫌です。私は・・私はあなたを守りたい・・・」

「嘘つき!信じない!お願いだ・・・一思いに殺してくれ・・・」

涙ながらに懇願する僕に、彼は耳元で何度もすまないと謝りながら抱きしめ続けた。

僕は何度も叫んでいる内に、意識が遠のいて気を失ってしまった。

あぁ・・・僕はまた地獄へ落ちるのか・・・

遠のく意識の中で絶望へ落ちていくやるせなさが、深い眠りへと誘った。

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