第44話 心の底から愛する人

「アル、久しぶりの実家はどうだった?」

部屋に戻るなり、僕は不安そうにアルベルトを見つめながら問いかけた。

アルベルトは微笑みながら、紅茶を注いでソファーに座る僕も元へと歩み寄る。

「先に冷えた体を温めるんだ」

そう促され、僕はアルベルトが淹れてくれた紅茶を一口飲む。

それを確認したアルベルトは小さくため息を付いて、僕の頭にコツンと自分の頭を乗せた。

「母に・・・母に泣かれてしまった。あんなに取り乱した姿を見たのは初めてだ」

「そう・・・・」

「それから、父に説教された。母を心配させた事を怒っていた」

「・・・・」

「途中から母と兄が父を宥めてくれて、それから一緒に食事をした」

「そっか・・・良かったね」

僕はカップをテーブルに置き、手をアルベルトの腰に回す。

「圭のおかげだ。あのまま避けていたら、本当に元には戻れなかったかもしれない」

「アルがそうしたいと願ったから叶ったんだよ」

「それから・・・・」

言葉を濁すアルベルトを不審に思い、顔を上げるとアルベルトも僕を見下ろし、見つめてくる。

「食事の時、圭の事を・・・神子の事を聞かれた」

「・・・・・」

「色々と聞かれたが、私は尽くすに値する人だと答えた。それから、互いに想い合っているとも・・・・」

「え・・・・?」

突然の話に僕は言葉を失い、ただただアルベルトを見つめた。

「私の家紋は代々王家に尽くしていて、それと同時に信仰も厚い。だから、私は聖騎士になった。神子である圭と主従関係ではない事に父は怒っていたが、結局は母が許してくれた。幸い私には兄が2人いるから、後継者を必ず残さなくてはいけないわけでもない。逆に神子の相手として選ばれたなら、光栄な事ではないかとな」

「・・・・でも、お父さんは反対なんでしょ?」

「それなんだが、一度ライアも連れて私の実家に行ってみないか?」

「え・・・・?」

「圭の事は流行病での活躍で知っているだろうが、圭の人となりを家族は知らない。だから、家族に知って欲しい。神子である前に、1人の人間として圭自身を見て欲しいのだ」

「アル・・・・」

「どうだろうか?私と行ってくれるか?行けばきっと父もわかってくれるはずだ。圭がどれだけ愛するに値する人なのか・・・・」

「僕が行く事で、余計に反対されたらどうするの?」

「それでも私は圭のそばを離れるつもりはない。だが、圭が悲しむ事の無いように、今度は避けるのではなく、時間をかけて説得するつもりだ」

「アル・・・僕・・・僕、行くよ」

「圭・・・・ありがとう。きっと大丈夫だ。圭は私が生涯の忠誠を誓った君主であり、心の底から愛している人だ。きっとわかってくれる」

「うん・・・僕もそう願ってる」


後日、僕はライアと咲も連れて王城の外へ出る。

咲が同行したのはライアの希望でもあり、僕の希望でもあった。

まだ見通しがつかない帰還に、咲が落ち込まないように、王城の外へ連れて行きたかった。

この世界の事を、民達の姿を知れば、少しは励みになるかと思ったからだ。

王城では、僕やアルベルト、王でもあるユリートが目をかけていても好奇の目で見てくる人がいる。

そんな狭い世界で暮らすのがどれほど心細いのか、僕は知ってる。

それをユリートに伝えると快く外出の許可をくれた。

アルベルトも何も言わず、頷いてくれた。

2人の気持ちが嬉しかった。

実家に行く前に街を少し練り歩く。ライアに手を引かれ歩く咲の笑顔は、本当に幸せそうだった。

その後ろを僕は付いていきながら、隣で歩くアルベルトに視線を向ける。

護衛を兼ねているので、手を繋いで歩く事はできないが、それでも時折互いに視線を合わせ微笑み合う。

こんな時間がこの先たくさん増える事を願わずにいられない。

その為にも、アルベルトの家族に気に入られなければ・・・・。

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