第43話 思い出される事

「何をそんなに思い詰めているのだ・・・?」

ユリートの言葉に、僕は目を開け、小さくニコリと笑った。

「全てです。僕が戻らなければ・・逃げなければ、アルベルトは聖騎士をやめる事も家を出て隠れるように住む事もなかった。ライアもたった1人の家族だった母親を亡くする事もなかった。陛下も信頼できる友を失う事なく、奪還も大きな被害を被る事なくできたはずです。

それに、咲の事も・・・彼女はとても健気でいい子です。彼女の事を知れば知るほど、申し訳なさが溢れ出るのです。今回のアルベルトと家族の件もそうです。

もっと早く僕が気付いて、アルベルトに言葉をかけてやれば良かったと・・・」

僕は俯いたまま話を続ける。

「そもそも僕は過去も今も間違えているのではないかと思えてくるのです。

真実に目を向けず、1人だと思い込んで死んでしまった過去も、そんな思いから恐怖に勝てず逃げた事も・・・例え、繰り返す事になっても僕は真実を見る勇気を持つべきだったんです。だって、こんなにアルベルトも陛下も僕を想ってくれていたのに、小さなライアでさえ昔も今世も身を挺して僕を守ろうとしてくれていたのに、僕はいつも真実を見ようとしなかった。

今思えば、僕が流行り病にかかった時もその後無茶をした事も、それでもし、また僕が死んでしまって、生き抜くと誓ってくれたアルベルトがまた僕の後を追って死んでしまったら、僕は死んでも死にきれないほど悔やんだでしょう。

アルベルトの家族の気持ち、陛下のアルベルトへの信頼、アルベルトを慕うライアの気持ち、それを全て無碍にしてしまう事だから・・・・何より、昔から僕に誓いを立てて想ってくれているアルベルトをずっと傷付けてきたのではないかと思うのです」

不思議と今まで溜め込んでいた物が、次から次へと溢れ出てくる。

ユリートに吐き出しても仕方ない事だと分かっていても、僕はそれを止める事ができなかった。

「圭・・・それは違う。例え結果がどうなろうと、それぞれが決めた選択で、その選択の中で幸せを掴みたいと願うのは自然の事だ。私もアルベルトも何も後悔していない。それは自分が選んだ結果なのだから・・・それが例え間違っていたとしても、後悔する事になったとしても、また新しい選択をすればいいのだ。

そうやって選択を繰り返す事で、幸せに辿り着くのだ。今の圭とアルベルトを見ていると、私には眩しいくらい幸せに見える。それはいくつもの選択を繰り返した結果だ。私には出来なかった選択だが、今でも圭は大切な人で、アルベルトは大事な友人だ。そんな2人が笑顔でいれるのなら、私の選択もきっと報われる。

圭・・・例え、圭がいなくなってもきっと私は生きていける。私には守らねばならない物が多いからだ。だが、アルベルトは違う。全身全霊で一心に圭を想っている。心が死んだまま生きる事は辛い。その思いは私も経験した。

息をして食事をして生きながらえても、心がないと言うのは死と一緒だ。死んだように生きていかねばならないのなら、喜んで死を受け入れるだろう。アルベルトにとって圭の存在はそういう物だ。だからこそ、私はアルベルトが羨ましいのだ」

ユリートは優しく微笑みながら、僕の頭を撫でてくれた。

それからユリートは部屋へ戻ったが、僕は1人ガゼホでユリートの言葉を思い出していた。


「ここにいたのか。探したぞ」

その声に僕は顔を上げると、そこには心配そうに僕を見つめるアルベルトがいた。

「何かあったのか?」

「・・・どうして?」

「いつも1人でここへ来る時は、何かあった時だったからだ」

アルベルトにそう言われ、ふとここで1人泣いていた事を思い出す。

「少し、考え事をしていたんだ。それに、さっき散歩に来てた陛下と偶然会って少し話をしていた」

「・・・・陛下と?」

陛下と言う言葉に眉をぴくりと動かし、不機嫌な顔で僕の隣へと腰を下ろした。

そんな表情を見ながら、あの無表情だったアルベルトはどこに言ったのかと笑ってしまう。

「誤解しないで。陛下とアルベルトの話をしてたんだ」

「私の・・・・?」

「うん。アルベルトは陛下にとって主従関係の前に、昔からの友だったって話をしていたんだ」

「・・・・そんな事を言っていたのか」

「うん。僕が言ったでしょ?陛下はアルの事を本当に大切に思ってるって」

「そうか・・・・」

「僕、ここへは久しぶりに来たけど、ここに来たら思い出すのは陛下との思い出か、泣いていた事だけだと思ってたけど、そうでもなかった。幽閉されていた時も、王宮での事をたまに思い出していたけど、いつも一番に思い出すのは、ここでアルが僕に誓いを立ててくれた日だった。今日もそうだ。あの夜の事を思い出して、僕が泣いている時にはアルが何も言わず、側にいてくれた事を思い出して、その思い出に浸ってたんだ」

「圭・・・・」

「アル、ずっと僕を想ってくれてありがとう。側にいてくれて本当に感謝してる。これまで沢山アルを傷つけて来たかもしれない。もし、また僕が選択を間違えたら、胸に秘めるのでなく、ちゃんと僕に伝えて欲しい。僕は弱虫で鈍い人間だから、ちゃんと教えて欲しい」

「圭は弱虫ではない。勇敢で誰よりも高貴だ。そして心優しく愛らしい」

「ふふっ、アルはそうやっていつも僕を甘やかすんだから・・・アル、大好きだよ。今思い返すと、いつも一番にアルを思い出す僕は、昔から信頼以上の想いをアルに持っていたのかもしれない。本当に心からアルが大好きだ」

僕はそう告げると、アルベルトの胸元を掴み引き寄せ、そっと唇を重ねた。

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