第10話 思い描く先の事

翌日、泣き疲れた僕は昼前に目覚め、腫れぼったい目をアルベルトが魔法で冷やしてくれた。

そして、食事を済ますと、散歩に行こうと誘われ、外へ出る。

家から10分近く歩くと小さな湖が見えた。

そこにアルベルトがラグを敷き、僕を座らせる。

アルベルトも隣に座り、持ってきたコートを僕の肩にかける。

「ここには魚がいるようです。近く、一緒に釣りでもしましょう。それから、明日は近くの村に苗を買いに行きましょう。圭様の好きなトマトも買って、花も少し植えましょうか?」

昨夜の出来事を何もなかったように、アルベルトは僕に微笑みながら話をしてくれる。それがとてもありがたかった。

それに、僕が好きだと言ったトマトの話も、花の種類も覚えてくれていた。

あの時は、言葉も返してくれない無表情のアルベルトが、本当に僕の話を聞いているのかと疑問に思っていたが、アルベルトはそんな些細な言葉も覚えてくれていた。

静かに水面を揺らす風に吹かれながら、その揺れを見つめる。

そして、アルベルトの手を取った。

その事にアルベルトは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに手を握り返してくれた。

僕は安堵して、その手の甲にキスをして、額へ手を当てる。

アルベルトが何をしているのかと、体を強張らせていたのは気付いていたが、僕は構わずアルベルトを見つめる。

「アルベルト・・・どうか、過ちを犯した僕を許して欲しい。何も知らなかったとは言え、僕を思い、会いに来てくれた君を傷付けた事、本当にごめんなさい」

「圭様・・・・」

「僕はもう一度、君を信じたい。僕を守ると言ってくれた君を・・・そして、僕も君を守りたい。君よりは力は弱く、魔法も癒ししかないのだけれど、それでも君の支えになりたい」

不安からか少しだけ声が震える。それでも、目を逸らさずに伝えたい言葉を伝える。

すると、ずっと体を強張らせていたアルベルトがふっと笑みを溢した。

その笑みに安堵して、僕はもう一つ言葉を繋げた。

「君が・・・君が言ってくれた愛を、僕は返せるかはわからない。だって、人の気持ちは変わる・・・愛に永遠なんてものはないから・・・それでも、僕が側にいる事を許して欲しい。アルベルトの側でこの先を生きたい」

勇気を出して捻り出した言葉を、アルベルトは微笑んだまま受け止める。

そして、優しく抱きしめた。

「それでいいんです。私が勝手にあなた想い、したくて側にいるのです。ただあなたは、私に愛されていればいいんです。私が証明します。私のあなたへの気持ちが変わる事ないと・・・あなたの側で、あなたを守り、あなたを癒しながら、いつでも心はあなたへと続いていると証明します。それがたとえ返される事がない気持ちでも、私は悔いたりしません。今、あなたとこうしている事が私にとって何よりも幸せなんですから・・・」

アルベルトの言葉が、アルベルトの温もりが、僕の固くて小さなくなった心を溶かしていく気がしていた。

とても、心が癒される気がした・・・。



それからは平穏な日々が続いた。

買ってきた苗を植えて世話をしながら、時折、一緒に水辺に散歩に行ったり、馬に乗る練習にも付き合ってくれた。

アルベルトが狩りに行っている間は、アルベルトが買ってくれた本を読み、時々窓の外を見つめて、アルベルトが無事に帰ってくる事を祈った。

四六時中、無表情で僕を警護していた昔のアルベルトは、もうどこにもいない。

僕を見つめる顔はとても穏やかで、優しい笑顔を見せてくれる。

話すのが得意ではないと言っていたが、それでもずっと無言だったアルベルトとは違い、静かに僕の話を聞いて、返事を返してくれる。

その空間が僕にとって、癒しになった。

固まった心は溶け、小さかった塊が少しずつ僕の中で膨らんでいく感覚があった。

この先ずっと、こうして暮らしていきたいと願わずにはいられなかった。

僕は、確実に今、幸せを感じている。

それが、何よりも嬉しかった。

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