第20話 招かざる訪問客
数日経った頃だった。
寒さに目を覚ますと、窓の外では雪が降っていた。
そんな中でも、アルベルトが剣を振る舞っている姿が見える。
僕が窓を叩くと、それに気付いたアルベルトが僕へ微笑みかける。
僕はおはようと口をパクパクさせた後、アルベルトへ微笑み返す。
それからベットから出て、そばにあったコートを羽織る。パタパタと枕を叩きながらベットを整えると、キッチンへ向かった。
暖炉にはすでに薪が燃えていて、僕はアルベルトに紅茶を入れる為に、暖炉に水の入った鍋を焚べる。
沸かしている間、椅子に腰を下ろし、すっかり日課になってしまった祈りを捧げる。
王都にいる平民達の平和と、僕達の平穏な日々が続くよう、心を込めて祈る。
この日課は昔ほど回数は減ったが、朝に願いを、夜に感謝の祈りを捧げていた。
最初は昔からの習慣だった事と、逃げた事への罪悪感で祈りを捧げているだけだったが、いつしかライアとアルベルトの為に祈るようになり、今では三人でずっと暮らせるように願いを込めた祈りを捧げるようになっていた。
お湯がグツグツと音を立てた頃、ライアが目を擦りながら起きてくる。
僕はおはようと声をかけながら、ポットにお湯を注ぎ、ライアにミルク入りの紅茶を作る。
そうしている内に、アルベルトが戻ってきて僕を抱き寄せ、頬にキスをする。
それから、早々と着替えを済まし、僕の淹れた紅茶を美味しそうに飲み始める。
僕はパンを切って皿に並べ、ジャムと昨日残ったスープをテーブルに運び、いつもの朝の風景を楽しんでいた。
すると、なるはずの無い玄関のドアからノック音が聞こえ、僕は体をビクッと震わせる。
アルベルトもすぐにそばにあった剣をとり、手で僕達に部屋へ行けと指示をする。
僕は戸惑っているライアを連れて、物音を立てないように一番近くのライアの部屋へと移動した。
ベットの上で、ライアを抱きしめながら鳴り止まない鼓動を、どうにか落ち着かせようとしていた。
この家に来て、初めての訪問者だった。
それが何を意味するのか、不安でたまらなかった。
遠くで聞こえる話声に耳を澄ますも、何を話しているのかまでは聞き取れない。
自然とライアを抱きしめる腕に力が入り、ライアが僕の腕をぎゅうと掴む。
息を潜めていると、ガサガサと音がした後、ドアが閉まる音がした。
しばらくするとアルベルトが入ってきた。
「アルベルト・・・・」
か細い声で声をかけると、眉を顰めながら僕達に近付いてきて、僕とライアの手を取る。
「村の医者だった。村で流行病が出たらしく、私達が薬草を売っているのを思い出して、余っている薬草はないかと尋ねてきたらしい」
「流行り病・・・・」
僕はその言葉でふと過去を思い出す。
過去でも寒い冬に、王都から離れた街や村で流行り病が出た。
病を治すという神子がいると噂を聞いた人々は、王都へと押し寄せた。
王は王都に入る事を拒んだが、第一王子が民を見殺しにできないと二次門の近くの宿を買取り、そこを治療の場にした。
僕はそこへ行き、大勢の人を治療した。その中のほとんどが王都への道のりで、既に虫の息になっている人や、もう息絶えた人も大勢いた。
僕は治療できても、生き返らせる事はできない。
目の前で泣き縋る人達を見て、どうする事もできなかった。
仕方ないとは言え、優先順位までも付け、治療した。
二日も寝ずに対応し、落ち着いた頃には、僕の精神はボロボロだった。
救えなかった命、縋る手を振り解くしかなかった命、自分の力の無さが、不甲斐なさが悔しくて、悲しくて、苦しかった・・・・。
「アルベルト・・・・」
そう呼ぶ僕の声に、アルベルトはダメだと首を振る。
「結界の外で力を使ってはいけない。それに、ここ一帯にかけている結界は私達にしかこの家を見つける事ができないようになっていた。だが、あの者は迷わずここに来た。何かの罠かもしれない」
「でも、でも、アルベルトも覚えているでしょ?僕があんなに泣いたのはあの時だけだ。アルベルトがガゼボで慰めてくれたあの日、僕は多くの死を目の当たりにした。
今なら少しは防げるかもしれない。あの惨事を繰り返さなくて済むかもしれない」
僕がすがるようにアルベルトを見つめると、アルベルトも辛そうな表情を浮かべ、少し考えさせてくれと部屋を出ていった。
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