第21話 本当の事
その日、アルベルトはどこかへ行ったまま帰ってこなかった。
僕は一緒に寝て欲しいとせがむライアとベットに入り、不安にさせてしまったライアを抱きしめて夜を過ごした。
寝れないまま外が赤らみ始めた頃、玄関のドアが開く音が聞こえ、僕は慌てて向かう。
そこにはコートの雪を払うアルベルトの姿があった。
僕は駆け寄り、勢いのままアルベルトを抱きしめる。
アルベルトは、僕を抱きしめ返しながらすまなかったと誤った。
しばらく無言のまま抱きしめ合った後、アルベルトからライアを起こしてきてくれと頼まれ、僕は何も聞かず、ライアを起こしに行く。
目を擦りながら目を覚ましてくれたライアに、かけてあったコートをかけ、大事な話があると告げると、手を引いてアルベルトの元へと向かった。
「何も言わず、出ていってすまなかった。村の様子を見に行ってたんだ」
僕達をまっすぐ見つめながら、アルベルトが言葉を繋ぐ。
「流行病は本当だった。村の過半数がかかっているようだ。その病は街にまで広がっているそうだが、村よりは被害がない。圭・・・まだ、行きたいか?」
そう尋ねるアルベルトに迷いながらも、小さく頷いた。
「わかった・・・そういうと思って、既に医者には話をして、病院に結界を張ってきた。そこに患者を集めて治療をしよう」
「アルベルト・・・・」
「だが、ここは引き払う」
「え・・・?」
突然のアルベルトの言葉に、僕とライアは同じ声を漏らす。
「いくら結界を張ったとしても、圭の力は特別だ。流行病を治したとなれば、必ずどこからか情報が漏れる。そうなれば、ここも危険だ」
アルベルトの話に僕は俯く。アルベルトはライアの頭を撫で、また口を開く。
「ライア、突然の事で色々戸惑っているだろう。この事は話すつもりはなかったが、この先、また住まいを急に越すことがあるかもしれない。だから、もうライアにも隠さず話そうと思う」
その言葉に僕は顔を挙げ、アルベルトへ視線を向けると、アルベルトは小さく頷いた。
「ライア、信じられないかと思うが、私と圭は一度命に終わりを告げた」
「え・・・?」
唐突な話に、ライアは戸惑った表情を見せる。
「だが、今、こうして過去に戻ってきた。圭は別の世界から召喚された神子と呼ばれる存在だ。過去では神子として王都で、懸命に勤めた。私はその護衛騎士だったんだ。その時にライアとも出会っている」
「・・・・・」
「過去での圭はとても過酷で、辛い日々を送った。笑みを忘れ、悲しみを抱えながら短い人生を終えた。私は守れなかった事を悔やみ、愛する圭のいない世界を嘆き、後を追った。だが、こうして戻ってきた事で、今世は圭に心安らかに、幸せに生きて欲しくて私は全てを捨て、圭を連れ王都から逃げた。そして、ここで暮らすようになり、何の巡り合わせか、ライアとまた出会えた。その事が嬉しくて、ライアと家族になろうと決めたんだ」
「だから、僕の名前を知ってんだね・・・・」
ライアはポツリと呟いて俯く。
「ライア、私の顔を見てくれ。ライアは圭にとって、この世界で初めて出来た友だった。そして、私達がライアを自分達の子供の様に大切に想っているも本音だ。だが、圭と私は逃げている身だ。そんな身である私達と一緒に来てくれないか?」
アルベルトに促され顔を上げ、アルベルトへ視線を向けていた目は、僕へとも向けられる。
その目には涙が溢れていた。
「もし、ライアが行く事に躊躇するのであれば、村でライアを大事にしてくれる人を探すつもりだ」
アルベルトの言葉に、ライアは溜めた涙を溢し始める。
僕はライアを強く抱きしめる。
「ごめんね、無責任な事を言って・・・怖いよね?不安だよね?それは当たり前の感情だから、僕達に悪いとか思わないで。ここはアルベルトの言う通り、手離なさないといけない。村へ行ったら、僕が治療している間、アルベルトと待ってて」
「圭、私も手伝うつもりだ」
「ダメだ。あの病は感染力が強い。あの時のように優先順位をつけて治療しなくてはいけなくなった時に、もし、君たちがかかってしまったら僕はどうしていいかわからなくなる。話が漏れる可能性を考えたら、早急に対応しなくてはいけない。だから、僕1人で行く」
力強くそう答える僕に、アルベルトもライアも口を閉ざす。
「僕は大丈夫だ。離れている間、アルベルトはライアを守って。ライアは心配しているアルベルトに寄り添ってあげて。そして、全て終えて疲れた僕を笑顔で迎えて」
僕の懇願する声に、2人は無言のまま小さく頷いた。
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