第22話 苦しむ人々

僕達は急いで身の回りの物を鞄に詰める。

治療が終わり次第、そのままこの土地を去るためだった。

ライアはまだ、戸惑った表情をしていたが、僕はどの道、ここに1人ライアを残すわけにはいかないから荷造りだけでもして欲しいと伝え、それぞれの部屋で荷造りを始める。

アルベルトは村から戻る時に荷車を借りていたようで、馬に括られた荷馬車に家にあった食料を乗せていく。

このままここに置いても腐るだけ・・・かと言っても、大量に荷物は持っていけない。だから、そのまま村の住民へ配るつもりでいた。

全ての準備が終わると、急いで荷馬車に乗り、村へと向かう。

まだ雪が降る中を、馬が荒々しい蹄の音を響かせながら走っていく。

僕は着くまでの間、ライアをずっと抱きしめ続けていた。

ライアがどう答えを出そうと、僕達がライアを愛しているのには変わらない。

ただ、またこの小さな子の胸を傷付けてしまった事を申し訳なく思い、離れ離れになるかもしれない小さな体を強く抱きしめた。

ライアもまた、無言のまま僕の服を強く握りしめ続けた。


村の小さな病院には既に列が出来ていた。

雪に当たらないように建てられたテントにも、数人が横になっている。

僕はフードを深く被り、ライアの頬にキスをして抱きしめた。

そして、アルベルトの唇にキスをして抱きしめ合うと、意を決して、その列を掻き分け中へと入っていく。

医者からは奥から順に重症者を寝かせていると告げられ、僕はマスク代わりの布を口元に巻き、奥へと入っていく。

それから1人づつ手を当て治療を始めた。

久しぶりに使う力、それも一度にたくさんの魔力を注ぐ。

数人見ただけで、僕は汗で服が濡れ始め、目が霞み始める。

それでも、僕は自分の頬を叩き、自分自身へ叱咤する。

昼前から始めた治療も、時間だけが過ぎていき、辺りは暗闇に包まれる。

それでもまだ、患者は途切れず、街からも人が来ているのではないかという人数が待機していた。

それでも、僕は手を止める事なく治療し続けた。

過去に泣いたあの悲しみを繰り返さない為に、自分の為に、縋ってくる患者の為に、そして何より僕を待っててくれる2人のためにひたすら治療を続けた。

そして、最後の1人を治療し終えた頃には既に日が登りきった後だった。


僕はふらふらとおぼつかない足取りで外へと向かう。

きっと心配しているであろう2人に、少しでも早く無事だと伝えたかった。

扉を開き、3段しかない階段を降りよとして体が傾く。

倒れると分かっていても、体が言う事を聞かなかった。

そのまま地面に吸い寄せられるように、僕の体は倒れ込んでいく・・・その瞬間、暖かく逞しい腕が伸びてきて、気が付けば愛しい人の腕の中にいた。

その隣には泣きじゃくるライアがいて、僕は力なく微笑む。

「アルベルト、僕、頑張ったよ。あの日救えなかった命、救えたよ」

僕がそう言うと、アルベルトはうっすら涙を浮かべ、よくやったと褒めてくれた。

それからライアに手を伸ばし、頭を撫でてやる。

「心配かけてごめんね」

「圭が無事に帰ってきたならいい・・・僕、2人に着いて行く。圭とアルベルトがいない暮らしはしたくない・・・・」

ライアが僕の手を握りながら、そう答えると僕は小さな声でありがとうと返した。

「アルベルト、行こう。僕は移動しながら休めばいい。多分、ここにいる人達は村の人達だけじゃない。もう、噂は広まってる」

「あぁ・・・そうだな。ライア、しっかり着いてこい」

「うんっ!」

2人はそう言葉を返すと、僕を抱えるアルベルトの服をライアが掴み走り出す。

後ろから数人が声をかけてくるが、僕達はその声を振り切り、馬車へと急ぐ。

そして、僕を荷台に寝かせると、その側にライアが乗り込む。

アルベルトはすぐさま手綱を離し、馬へと乗り込んだ。

走り出そうとした瞬間、遠くからガヤガヤと大きな声が聞こえた。

すぐにアルベルトが荷馬車のシーツを開け入ってくる。

「圭、もう少し踏ん張れるか?」

アルベルトが僕の体を抱えながらそう問いかける。

僕は事態を把握して、支えてもらいながら馬車の外へ出る。

そこには、王宮の騎士団が馬車の周りを囲んでいた。

「くそっ・・・こんなに追っ手が早いと言うことは、ここに来る前に既に知らせが入っていたのかもしれない」

アルベルトはそう言いながら、僕達の前に立ち、剣を構える。

体には青いベールを纏い、それが何を意味するのかを知らされる。

僕はぎゅっとライアを抱きしめながら、目の前に立つアルベルトを見つめた。

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