第5話 新たな誓い

18時に3名、21時に二手に分かれ各3名、深夜になればもっと増えるという事か・・・目の前をうろうろと練り歩いている騎士達を見ながら、アルベルトは脳裏に動きと人数を記録する。

この国は貴族や王族が住む街に一次門、平民街を横切り、王都を離れる際に通る二次門がある。以前は王都には一つしかなかったこの門は、今の王に変わってから二つになった。

現王は言わば暴君に近い人だった。平民を見下し、貴族と平民を分ける門を建てた。

その事に声をあげる者もいたが、それを口にすればすぐに首が飛んだ。

その事で次第に口を噤む者が増えていった。

前王が不自然な死を遂げてから、葬儀も終わらない間に現王が即位した。

何もかもが不自然な成り行きだった。

それでも、前王に忠義を尽くしている者達がどうにか国策しているから、国は滅びず成り立っている。

今にも暴動が起きそうになっている今、対策として立てたのが神子の召喚だった。

圭様が平民の為にも祈りを捧げたいと言い出すまで、ただ貴族からの支持を得て、金策をするのが狙いだった。

権限などない平民を全く無視した自己満足の対策でもあった。

その為に、圭様は沢山の犠牲を強いられる事になる。

王城にいる間で、笑顔を見たのはほんの数回・・・どちらかと言うと人知れず泣いていた印象が多かった。

それでも圭様は努力する事をやめなかった。

与えられた義務をこなしながらも、強く耐えた。

アルベルトの脳裏に過去の圭の姿が思い描かれる。笑顔は一瞬でかき消され、あの事件の日の泣き叫ぶ圭、護送とは名ばかりの寂しい人数で馬車に乗せられる圭、平民街で起きたあの出来事、冷たいベットで1人寂しく眠りについた圭、どれもがアルベルトの胸を強く苦しめる。

手袋をしていても握り締めた拳の指が食い込んでいるがわかる。

やるせない思いを振り切るように、アルベルトはフードを深々と被り直し、酒屋へと足を進めた。

今度こそ、圭様を守る・・・その言葉と一緒に胸の中で誓いを立てた。



「圭様、お粥を温め直してもらいました。ルベルトからほとんど召し上がっていないと聞いています。お願いですから、もう少し食べて頂けませんか?」

部屋に戻ってくるなり、アルベルトは僕に向かって懇願する。

僕は返事もせずに、くるりと向きを変え、アルベルトに背を向ける。

アルベルトはサイドテーブルにトレイを置くと、ベットの側の椅子に腰を下ろした。

「圭様、ここにも捜索隊が来ています。今はルベルトがどうにか誤魔化していますが、それも時間の問題です。先ほど偵察をしてきましたが、夜が深まるにつれて警備が強化されています。なので、馬車ではなく馬に直接乗って移動しなければいけません。以前・・・馬には乗られた事があると思いますが、道のりは長いのです。

慣れている騎士でも、何日も長時間馬に乗れば体調を崩す者もいるのです。ですから、体力は付けないといけません」

アルベルトの真剣な話に、ほんの少し間を置いてから、僕はゆっくりと体を起こすと体の向きを変える。

その事に安堵したのか、アルベルトがいそいそとお粥を小さな器によそう。

僕はその器を受け取ると、スプーンでお粥を掬い、口に入れてもぐもぐと動かした。

現時点で元の世界へ戻る術もなく、この世界で暮らしていかないといけないのは明白だ。

ルベルトからも聞いているこの脱出には、どのくらいの協力者がいるのか、正確にはわからないが、その人達の命がかかっていると言っても過言ではない。

過去の王族達を知っているからこそ、この行動が危険な事を知っている。

器に入っているお粥を食べ終わり、おかわりするかと尋ねるアルベルトに僕は首を振る。

「アルベルト様・・・」

「様など付けないで下さい。今の私は一般市民です」

「・・・アルベルト」

「はい」

「正直・・・僕はまだ君を信じていいのかわからないです。それだけ、僕にとって過去は辛く、毎日の様に絶望しながら生きたから・・・でも、僕を逃すこの計画が、どれほど危険かも知っています。この世界で生きて行くしかないのであれば、僕は遠く離れた場所で心安らかに生きたい。だから・・・どうか、僕に力を貸して下さい」

僕はまっすぐにアルベルトを見つめがらそう伝えると、深々と頭を下げた。

アルベルトは慌てて僕に頭を上げさせ、頭を下げる必要はないと告げた。

そして、椅子から立ち上がると僕の手を取り両膝を付いた。

「もう騎士ではありませんが、私は1人の男として今度こそ貴方を守りぬく。片時も貴方のそばを離れず、あなたを命をかけて守ると誓う。どうか、私が側にいることを許して欲しい」

そう言って、僕の手を両手で包み、手の甲にそっとキスをするとそのまま額へとあてた。

それは騎士の誓いではなく、信者が神や神父へ祈りを、忠誠を誓うかのような行為だった。

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