第4話 アルベルトの決意

いつ間にか寝入ってしまったのか、気が付くと明るい木漏れ日が差していた部屋も、すっかり茜色に染まっていた。

何も考えらずにぼんやりとベットの壁にもたれながら、カーテンの閉まった窓辺を見つめているとドアのノック音が聞こえ、ルベルトがトレイに皿を乗せ、入ってきた。

「圭様、おかゆです。熱はすっかり下がっていますので、今度は出発までに体力をつけなくてはいけません。ですから、頑張って召し上がってください」

ルベルトは、サイドテーブルにトレイを置くと、僕の膝に布をかけ、皿に入ったお粥を小さな取り皿に分け、僕へと手渡す。

僕は両手でしっかりとそれを受け取るも、食欲がなく、その皿をぼんやりと見つめる。

「圭様、この皿に入ってる分だけでもいいのです。食べてくれないと団長が心配しますし、いつまでも出発ができません」

ルベルトにそう言われ、アルベルトの姿がない事に今更気付く。

「団長は偵察に行きました。もう少ししたら帰ってくると思います」

「君は・・・どうして、僕を、知ってるの?僕、とは、会ったこと無い・・・」

僕の問いかけにルベルトはにこりと微笑む。

「えぇ。今日が初めてです」

その答えに僕は眉を顰め、ルベルトを見つめると、ルベルトは僕の手から皿を取って、スプーンでお粥をひとすくいすると、僕の口へと運ぶ。

それはまるで、食べないと話さないと言っているようで、僕はおずおずと口を開き、お粥を口にした。

「そうです。食べて生きてください。実は・・・団長が二週間くらい前に突然ここに来て、もうすぐ神子が現れる。極秘にここへ連れてくるから、匿ってくれと言ってきたんです」

「・・・・・」

「俺は唐突に何を言ってるんだと、その時は不思議に思ってたんですが、団長の様子があまりにも真剣だったので、一緒に色々準備してたんです」

「準備・・・・?」

「ここに匿う準備です。どうやって連れてきてとか、極秘に土地を買ったり色々です。団長は圭様を見つけたらこの国を出ると言ってました。その為にも先日、騎士団も辞めてきたんです」

「え・・・・・?」

「ご存知の通り、団長はあまり多くを話しません。ですが、俺にとって団長は信じるに値する敬愛する人なんです。平民出の俺を、大事な部下として、仲間として扱ってくれたんです。なので、俺も詳しくは知りませんが、団長の指示に従いました。あんなに誇っていた聖騎士をやめた事が、団長の全てを語ってる気がしたんです」

「・・・・・」

「何があったか知りませんが、団長を信じてあげて下さい。団長はこの与えられたチャンスを逃したくないと言ってました。どういう意味かは知りませんが、それだけ圭様を思っているという事では無いですか?」

ルベルトはそう言い終えると、もう少し食べてくださいとまたお粥をすくって僕の口へと運んだ。

僕は言われるがまま、口をもぐもぐと動かしていた。

アルベルトが、聖騎士団の団長である事を誇っていたのは、僕も知っている。

そして、いつも騎士らしく振る舞い、国にも僕にも忠誠を誓っていた。

そんな彼が僕の為に騎士を辞めて、今は僕を逃がそうとしている。

過去の懺悔のつもりなんだろうか・・・。

それとも本当に、まだ僕に忠誠を誓ってくれているのか・・・国ではなく、僕だけに・・・。

それならば、なぜ、あの日は僕のそばにいなかったんだ?

護送される時もそばにいなかった。

何より、幽閉先へも訪ねてきてくれなかった。僕が幕を閉じるその日まで・・・

辛い日々が脳裏に浮かび、僕は自然にシーツを握りしめる。

それを見たルベルトが小さくため息を付き、僕を少し強引にベットへと寝かせる。

「残りは団長が帰ってきてから食べてください。それまでに、もう少し休みましょう。圭様も色々と思う事があると思いますが、今は頭を空っぽにして体を休めてください」

そう言って布団を僕の肩まで引き上げる。

「圭様・・・必ず生きてください。生きていればきっといい事があります。戦場で死にかけた俺が言うから間違いないです。生きていれば、必ず希望の光が見えてくるはずです。その光を掴む事ができたら、圭様も団長もきっと幸せになれます」

ルベルトはそう言って微笑み、また来ますと告げ部屋を出て行った。

僕の頭の中では、過去と今が幾度となく交差する。

それでも、答えが出ず、ただアルベルトを信じたいという気持ちと、また見捨てられるのかもしれないという不安が胸を締め付けていた。

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