第12話 小さな友人
賑やかな人並みを、アルベルトに手を引かれながら器用に掻き分けていく。
目的の店を見つけ、持ってきた薬草と肉を売り、その帰り道、店を見ながら買い物をしていく。
薄手の服と僕が美味しそうと言った果実を買い、もう少し街を堪能しようとアルベルトがあちこちに連れ回す。
楽しそうに会話しながら歩いていく人達、いろんな露店で買い物をして、ベンチで食べてる人達を見ながら、僕は自然と顔を緩める。
「アルベルト・・・」
「はい」
「みんな笑顔だ・・・王都にいる平民街の人達もこんな笑顔で暮らしているのかな?」
僕の問いかけに、少し険しい表情を浮かべてアルベルトは口を開く。
「王都ではここまで明るい活気はないでしょう。あの王族の政策によって平民達はとても苦しい生活を強いられている。平民達の心を無視しているあの者達が、民の笑みを想像することすらないと思います」
「そっか・・・」
アルベルトの返事に、僕は神殿に来ていた平民達の姿を思い出す。
本当に彼らには救いが必要だった。その事が僕を俯かせる。
「圭様・・すみません。悲しませる様な事を言ってしまいました」
そっと触れる頬の温もりに顔を挙げると、悲しそうな表情で僕を見つめるアルベルトと目が合う。
「いいんだ・・・それより、アルベルト、また言葉使いが元に戻ってるよ」
笑顔を作りそう注意すると、アルベルトはしまったという表情をして謝ってくる。
本当に表情豊かになった。
僕は嬉しくなって、声を出して笑った。
街を堪能し終えた後、馬に荷物を括っているアルベルトから視線を逸らすと、馬舎の片隅で小さな何かがうずくまっているのが見えた。
ゆっくりと近づくと、それは小さな子供で体を抱えてうずくまっているのだと気付く。
僕は慌てて、その子供に駆け寄り大丈夫かと体を抱えて、息を飲む。
その子はライアだった・・・。
「・・イア・・ライア!」
僕が名前を呼ぶと、男の子はうっすらと目を開ける。
「ライア!どこか痛むの!?」
僕の声に、乾き切って所々切れている唇が小さく動く。
「ど・・・して、僕の・・・名前・・・」
「そんな事、今はどうでもいい!どこが、痛いの?僕が治してあげる」
そう言ってライアの体に手を翳した瞬間、後ろから強く掴まれる。
「圭っ!ここではダメだ!」
「でも・・・アルベルト、この子はライアだ・・・ライアを助けたい」
目に涙を浮かべ、懇願する僕にアルベルトは頷き、急いで自分のコートを脱ぎ、ライアを包むと抱き抱えた。
「家に戻りましょう。治療はそれからです」
アルベルトの言葉に僕は頷き、アルベルトの後を追い、走り出す。
馬が重みに耐えれるのかと一瞬不安にもなったが、前に戦場に一緒に行った馬だと言っていたアルベルトの言葉を思い出し、僕は馬にまたがる。
そして、ライアをしっかり抱えるようにとライアを託されると、僕はぎゅっとライアを抱きしめた。
その体はとても軽く、不安に駆られた。
アルベルトも急いで馬に乗ると、馬の腹を蹴り走らせた。
半日はかかる距離を、馬が頑張って走ってくれたおかげで、数時間で家に着く。
僕は急いで自分の部屋に運ぶと、ライアの体に手をかざす。
久しぶりに使う力が、ちゃんと発揮してくれるのかと不安にもなったが、祈りを込めて翳したその手からは懐かしい熱を帯び、光がライアの体に注ぎ込まれる。
しばらく翳し続けると、冷えて青ざめていたライアの顔がほんのり赤みを帯び始めた。
その事に安堵しながら、もう少し、もう少しと翳し続けていると体がぐらりと揺れた。
その体を側にいたアルベルトがすかさず抱き止めてくれる。
「圭、久しぶりに力を使ったんだ。一旦、休め」
そう言われて、僕は小さく頷くとライアへと視線を向ける。
どうしてこんな場所にいるのか、どうしてこれほどまでに体に傷を残し、弱っていたのか、次々と疑問が湧いてくる。
僕はライアの顔を汚れを持っていた手拭いで拭いながら、涙を溢す。
僕の大切な小さな友人・・・僕のために泣き叫んでくれた、とても優しい子・・・形は違えど、また会えた事に僕は感謝した。
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