第13話 回帰の意味
ライアは思ったより体が弱っていて、何度か目を覚ますも眠っている時間の方が圧倒的に多かった。
ちゃんと目を覚ますのに二日もかかった。
その間、僕は看病につきっきりになり、アルベルトは僕の気持ちを察しているのか、何も言わず手伝ってくれた。
そして、時折、僕を気遣って休みようにと促してくれていた。
ライアが目が覚めてから、寝室にお粥を運び、ゆっくり時間をかけて食べさせた後、ライアが僕達に問いかけた。
「ここはどこですか?」
「ライアが倒れていた街からは少し離れた僕達の家だ。ここは人も訪れない。だから、安心して体を休めて欲しい」
僕の言葉にまだ不安げな表情を浮かべるライアに、僕はそっと頭を撫でてやる。
「君はどうしてあの街に・・?お母さんは?」
問いかけにライアは俯いて唇を噛み締める。それからゆっくりと口を開いた。
「お母さんは・・・病気で亡くなりました」
その言葉に僕は息を呑む。
「父さんはだいぶ前に亡くなっていて、それで・・・お母さんが死んでから、この先どうしようかとフラフラ歩いてたら、布を被されて気がついたらあの街にいたんです。それからずっと下働きをしてました」
弱弱しい言葉で話してくれるライアを見ながら、目頭が熱くなる。
僕が王都から逃げた事で、ライアの母を救ってやれなかった・・・その事実が僕の胸を苦しめる。
そして、僕はそっとライアを抱きしめると、何度もごめんねと誤った。
「どうしてあなたが謝るのですか?」
ライアの問いかけに、僕は答える事ができず、ただ静かに涙しながら謝る事しかできなかった。
その夜、僕にベットを使って休むようにと自分の部屋に連れてきたアルベルトは、僕をベットに座らせると横になるように促す。
僕は素直に従いながら横になるが、隣にいるアルベルトに僕はポツリと呟く。
「僕は・・・なんの為に戻ってきたのかな・・・」
その呟きにアルベルトは答えられずにいた。
「僕が逃げた事で、たった9歳のライアは1人になった。大切な友人に、また悲しい思いをさせてしまった。僕は・・・逃げてはいけなかったのかな・・・」
そう言葉を続ける僕にアルベルトが髪を優しく撫でる。
「逃げようと言ったのは私だ。私の責任にすればいい。自分を責めるな」
アルベルトの言葉に、僕は目を潤ませる。
「アルベルト・・・今日は僕と一緒に寝てくれない?」
不意に出た僕の言葉に、頭を撫でいたアルベルトの手が止まる。
「不安なんだ・・・・逃げてもこうしてライアと出会った。また会えた事に感謝はしてるけど、結局ライアを悲しませてしまった。その事が不安でたまらない。過去が、僕を元の場所へ引き戻そうとしているじゃ無いかと思うと、不安なんだ」
ぽつりぽつりと呟く僕の頬を、涙が伝う。
アルベルトはその涙を拭い、僕の隣にゆっくりと寝そべり、布団を被せ、僕を抱き寄せた。
「たとえ、そうなっても今度こそ私が片時も離れず、守り抜いてみせる。どうか、私を信じてくれ」
耳元で囁くアルベルトの声に、僕は何度も頷く。
「アルベルト・・・君が僕のそばにいてくれて、本当に感謝してる。僕はアルベルトを信じてる。だから、僕のそばにいて欲しい」
僕がそう答えると、アルベルトがぎゅっと力強く僕を抱きしめた。
「私はあなたから離れる気はない。この先もずっとあなたのそばにいる」
力強いその言葉が、僕は嬉しくてアルベルトの胸に顔を寄せる。
それから、小さくありがとうと呟いた。
翌日、歩けるようになったライアの手を引いて、リビングで食事をとった後、昨夜アルベルトと話し合った事をライアに伝える。
「詳しくは話せないけど、僕は君を大切な友人だと思っている。そんな友人とここで暮らしていけたらと思っているんだ。君はどうかな?」
「僕なんかが・・・いいんですか?」
「僕なんかなんて言わないで。僕は知ってる。君はとても心優しくて、頑張り屋で家族思いのいい子だって・・・」
「いい子だなんて・・・」
俯くライアに、僕は頭を撫でて顔を上げるように伝える。
「ここでの暮らしは自給自足だ。これからは一緒に畑を耕し生活していく事になる。少し大変だけど慣れれば楽しいよ。どう?僕達と一緒に暮らさない?」
もう一度、問いかけるように伝えると、ライアは小さく頷いた。
そのことに僕は安堵して笑みを溢す。
「ライア、今日から僕達は家族だ。お互いに助け合って暮らしていこう。僕は君が家族になってくれて心から嬉しいよ」
ライアは僕の言葉に、小さくありがとうと呟いて涙をポロリと溢した。
それから、ふと疑問に思ったのか僕達の顔を見ながら問いかける。
「お2人は家族なんですか?」
その言葉に、僕は一瞬アルベルトを見て、また視線をライアに向ける。
「彼は家族でもあり、僕の・・・心から大切な人なんだ。だから、仲良くしてくれると嬉しい。本当に優しい人だから・・・」
「圭・・・・」
僕の言葉にきょとんとするライアと、戸惑うような表情をするアルベルトを見ながら、僕はふふっと笑った。
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