第33話 祈り

夜の王宮神殿は小さな灯りが灯されていて、ひんやりとしていた。

さっきまで一緒に祈りを捧げていたライアを咲に託し、アルベルトは1人祈りを捧げていた。

神と国へ忠誠を誓った聖騎士を離れ、自らの手で、自らの命を絶つという神への冒涜を犯した自分が、神へと祈りを捧げる事など許される行為ではないとわかっているが、今のアルベルトにはこうするしか手立てがなかった。

圭へと誓った言葉が、一度ならず二度までも果たせない事にアルベルトは自分自身の不甲斐なさを恨まずにいられなかった。


一度目の人生で、想いを告げる事ができなくてもただ側に居れればいいと願った。

それでも、ユリートへと真っ直ぐに向けていた圭の眼差しが羨ましくてたまらなかった。

自分の中にこんな幼稚で黒い感情があったのかと、初めて知らされた。

圭が多くの命を救えず、ガゼボで初めて声を漏らして泣いた日、抱き寄せて包み込んであげたかった。

辛い仕打ちを受けても耐え、民を労り、それでも辛い日は唇を噛み締め声を漏らすまいと泣いていた圭が、心を痛め、人目を気にせず声を漏らし苦しんでいる姿が痛ましかった。

だが、こうして1人泣くのも、ユリートに心配かけまいとしての事だとわかっていたから、せめて他の人に聞かれまいとガゼボに魔法をかけた。

ただ、それしか出来なかった。

しばらく泣き続けた圭が、泣かせてくれてありがとうと小さく呟いた時、気がついたら圭の目の前で膝を折り、圭へと忠誠を誓った。

圭は驚いた顔をしていたが、自分自身もその行動に驚いていた。

その後、気まずさにとっさに出した魔法に、圭は何度も瞬きをし、その光に見惚れ、小さく微笑んでくれた。

その笑顔が愛おしくて・・・愛おしくてたまらなかった。

そして、あの日・・・目の前で冷たくなって横たわる圭を見て、体が引き裂かれる様な痛みが全身を襲った。

戦場で多くの死を目の当たりにしてきた自分の体が震え、涙が止まらなかった。

痩せ細った顔、体、見窄らしい身なり、圭の全てが自分の体を引き裂いた。

後悔から自分自身を憎んだ・・・。

そして、二度目の人生・・・今度こそはと誓ったのに、またあの日の様な思いをしなければならないのかという恐怖が自分を覆う。

返してもらえるはずがないと思っていた想いを、圭は受け止めてくれた。

あんなに羨ましかった眼差しを、自分へと向けてくれた。

体を繋げた日は、このまま時が止まればいいと願った。

自分から圭に生き続けろと言ったのに、今の自分にはそれを守る自信がない。

幸せな日々が、圭がくれた愛情が、その自信を失くしていく。

きっと圭は生きて、ライアを守りながら幸せに生きて欲しいと願うだろうが、圭のあの笑顔を、微笑みながら自分の名を呼んでくれる声を聞けなくなるかと思うと、胸が苦しくてたまらない。


神よ・・・一度はあなたを裏切った。

その罰は私自身が受ける。

だから、圭の命を救って欲しい。

健気に神に仕えた圭を、民を心から慈しむ圭を、どうか救って欲しい。

尊い光を絶えさせないで欲しい。

代償は全て私が受けるから、どうか・・・・。



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