第26話 ユリートが知る過去

「・・・昔のように名を呼んでくれないのだな」

ポツリと呟いた言葉に、僕は動揺しながらも静かに目を伏せて言葉を返す。

「何の事でしょう?私と陛下は今日が初めてお会いしたはずです。それに、陛下の名を軽々と口にするなど、そんな不敬な事はできません」

僕の返しに、しばらく沈黙した後、側にいた側近に人払いを指示する。

ゾロゾロと出ていく中、アルベルトが頭を下げながら声を上げる。

「陛下、恐れながら私とライアの同席を許可して頂けないでしょうか?」

「・・・・アルベルト、久しぶりだな。まさかお前が、圭の側で未だに護衛しているとは思わなかったぞ」

ユリートは座っている椅子の手すりをトントンと叩きながら、アルベルトを睨む。

「陛下・・・アルベルト様には何の罪もありません。僕が勝手に森を出て、偶然あったアルベルト様に逃げる手助けをしてくれと頼んだんです」

「いや、違うな。アルベルトは圭が来ることを知っていた。だから、突然、騎士を辞め、早急に身の回りを整理し、遠い場所に土地まで購入した。全て計画していたんだろ?」

ユリートの指摘に、僕達は口を噤む。

すると、小さなため息を吐きながら、ユリートが口を開いた。

「まぁ、いい。圭を守ってくれていたことには感謝している。今となっては、あの日、圭が逃げた事は結果として良かったのだから・・・いいだろう。同席を認めよう」

「感謝します・・・」

アルベルトはゆっくりと頭を上げ、ライアと一緒にソフアへと腰を下ろす。

僕もライアのそばへ行き、隣に腰を下ろした。

「その子は・・・以前、圭と仲良くしていた平民の子だろう?」

「・・・・」

「少し、妬けるな。私はこうして必死に探してやっと会えたのに、アルベルトとその子はいとも簡単に圭と出会えたのだから・・・。私は思い出すのが遅かったのだな」

「恐れ入ります、陛下。何故、僕を探し、連れてきたのでしょうか?」

僕の問いかけにユリートは微笑む。

「会いたかったらだ。あの新しい神子が来たのは1ヶ月と少し前だ。あの子を見た瞬間、昔の事を・・・圭の事を思い出した。私はずっと後悔していたのだ」

「後悔・・・?」

眉を顰め、再度問う僕に、ユリートは悲しそうな表情を浮かべた。


「圭が断罪された日、私は圭が無実なのは知っていた。だが、王に楯突く事ができなかった。何故なら、あの時すでに奪還計画が進めれていたからだ。下手に盾付き、王からの不信を買いたくなかった。だから、あの言葉を投げつけた」

ぽつりぽつりと語り始めた話を、僕達は黙って耳を傾けた。

「あの出来事は、すべて第二王子の仕業だった。王宮の一角でボヤ騒ぎが出て、人手が足りないからと拒否していたアルベルトを強引に駆り出させた。もちろん、私もその手配に回った。だが、火は大したことはなかった。それで、片付けを済まし、戻った所にあの騒ぎがあった。ボヤ騒ぎも全て、最初からあいつが圭を手中に収めるために、計画した事だったんだ」

ユリートから語られる真実に、僕は顔が青ざめる。

「幽閉されると聞いて、あの場所は罪人を送る過酷な土地だと知っていたから、やり過ぎではないかと進言したが、神子に惑わされた腑抜けには王座は着かせないと言われ、しばらく経ってから私は後継者から外され、第二王子がその座についた。

そこで私は再度決意したのだ。奪還しようと・・・このまま第二王子が王座に着けば、この国が滅ぶのは目に見えていたからな。圭の事は奪還した後に迎えに行こうと思っていたのだ。それまで、耐えてくれると信じていた。

だが、そこで思わぬ事態が起きた。

圭を追ったアルベルトが投獄されたのだ。奪還にはどうしてもアルベルトの力が必要だった。だから、投獄期間を終えた時、作戦を決行させるつもりでいた。

だが、アルベルトは期間を終えるなり、姿を消した。それでも、作戦をこれ以上伸ばす事ができず、我々だけで決行した。

今回とは違い、かなり苦戦したが何とか奪還を終えた後、知らせが入ったんだ。

圭が死んだと・・・その隣にはアルベルトが息絶えていたともな」

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