第27話 思惑

「あの時程、後悔の念に悩まされた事はない。そして、忠誠を最後まで守ったアルベルトが心底羨ましかった。時が流れ、歳を老い、眠りにつくまで一時たりとも圭を忘れた事はない。それほどまでにも、圭を愛していたんだ」

切なそうに声を絞り出すユリートに、僕は何も言葉を返せなかった。

アルベルトも思う事があるのか、ただ静かに耳を傾けていた。

「前回、苦戦した分、今回の奪還には突然姿を消したアルベルトの力がどうしても必要だった。だから、捜索を手配した。

それでも見つからずに、致し方なく作戦を決行した。そして、奪還後の治安安定の為に神子の召喚を提言されて、そのまま許可を出したが、現れた神子を見て、思い出した事で一瞬、圭の姿がない事に安堵した。当時のように失敗したと思っていたからだ。そして、すぐに罪悪感に襲われた。

さきほど圭が言ってたように、彼女を苦しめる事になるのがわかっていたからだ。

思い悩んでいた時に、アルベルトによく似た人物をとある街で見かけたと知らせが入った。そこは、以前、ほんのわずかだが神聖力を感知した場所でもあった。

だから、もしやと思い、捜索を出しながら情報を募っていたのだ。

その間、彼女には少しでも心休めるように、神子としての仕事はさせていない」

額に手を当て、眉を顰めるユリートからは、それが本音だという事がわかる。

そして、僕が心を寄せていた優しい彼が目の前にいるのだと知らされる。

全てが元凶を元に、ボタンを掛け違えた事で起きた、悲劇だったのだ。

「本当に元の世界に戻す事はできないのですか?」

「・・・・現段階ではないと言えよう。私も魔術師達に方法を探させているが、なんの情報も上がってこない」

「それでも・・・それでもできるだけ探してあげてください。それまで僕が彼女を支えながら、神子の仕事をします」

僕の返答に、ライアとアルベルトが一斉に僕へと視線を向ける。

「・・・圭は帰りたくないのか?」

ポツリと問いかけたユリートの言葉に、僕は少しだけ戸惑いながらも、ライアとアルベルトに視線を返す。

「もちろん、両親の事は心配ですが、僕にはここに残りたい理由ができました」

そう言いながらユリートへと視線を戻すと、しばらくの間沈黙していたユリートが口を開く。

「・・・・もし、私が圭を妃にしたいと言ったら?」

その言葉にいち早く反応したアルベルトが、ユリートへと視線を向ける。

「私には、まだ圭を想う心が残っている。こうして会いたいがために、探し続けたのだ。少しは察していたのだろ?」

ユリートの言葉に、アルベルトが拳を握り締め、ユリートを睨み返す。

だが、僕はそんなアルベルトの手にそっと触れ、首を振った。

そして、真っ直ぐにユリートを見つめる。

「陛下、僕にはもう身も心も捧げた人がいます。その人は、僕がここへ戻った時に、僕が裏切り者と罵った人です。でも、彼は裏切ってなんかいなかった。昔も今も、僕に忠誠を誓い、想い続けてくれた。陛下のあの言葉に傷付き、愛など信じないと言った僕に、想いを返さなくてもいいから、そばにいさせて欲しいとずっと寄り添ってくれました。誰も信じれずにいた僕に、昔みたいに一歩後ろで見守ってくれたんです。今の僕はそんな彼を、アルベルトを心から愛しているのです。ですから、陛下の気持ちは受け取れません」

はっきりと答える僕に、アルベルトが握りしめた拳を緩め、添えられた僕の手を握る。僕も答えるように握り返した。

「また・・・私は遅れを取ったのだな・・・だが、私とて与えられたチャンスを無駄にするつもりはない。圭に心から許しを乞い、また愛されるよう努力はするつもりだ」

「陛下・・・・」

「しばらくは離宮で過ごせ。そこには新しい神子も住んでいる。申出のように、彼女を支えながらしばらくの間、神子としての仕事をしてもらう」

「・・・・はい」

「私欲がないとは断言しないが、スムーズに奪還できたとはいえ、まだ傷の癒えぬ臣下達がいる。それに、あの流行病を抱えた者達がすでに噂を聞きつけて、王都へと向かっていると知らせが入っている。その者達を診てやって欲しい」

ユリートはそれだけ伝えると、仕事に戻ると部屋を出ていった。

僕はずっと不安そうにしていたライアを抱きしめ、アルベルトはそんな僕達を丸ごと抱きしめた。

「アル・・・ライア・・・ずっと側にいてね」

「あぁ・・・もちろんだ」

「僕も側にいるよ」

そう声を掛け合いながら、互いの不安を打ち消すかのようにしばらくの間、抱きしめ合った。

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