第28話 久しぶりの王城
そのまま案内されたのは以前、僕が使っていた離宮だった。
王城は中央に執務室や会議室、パーティなどに使う広間などがある4階建ての大きな建物があり、そこを中心に騎士達の宿舎や訓練場、魔法師の研究所、ガーデニングの広場や温室、そして住まいの王宮殿等がある。
王族だけが住む王宮、東には離宮が二棟、西には来賓客用が一棟、裏手には王族や高位神官しか入れない神殿がある。
神殿のそばには、それを管理する神官達が住む小さな神殿宮があった。
小さいと言っても、他と比べて幅は狭いが二階建てで、他の建物と同様、天井が高い。それだけで、広々と感じる。
普段は位が低い神官が神殿を管理している為、一階がその神官達の住居スペース、2階は主に高位神官達が訪問した際の住居スペースになっている。
僕はその2階で暮らしていた。
最初は神官達が不慣れな僕を世話してくれていたが、王族達の僕への態度が冷たかったせいで、それも次第になくなっていた。
それを心配した王子・・・ユリートがアルベルトと1人の執事を連れてきた。
僕は、そのユリートの優しさが嬉しかった。
「アルベルト、お前には騎士団に戻ってもらう」
ディナーを王宮でと通達が来て、僕達はこうしてまた顔を揃えて食事をしていた。
軽く少女と挨拶を交わしてからは、沈黙のまま食事が進められていたが、ユリートが出された肉を切りながら、急に言葉を発した。
「陛下、私はもう戻るつもりはありません。それに、騎士団へ戻れば、圭とライアのそばにいる事ができませんので・・・」
アルベルトの言葉に、ユリートは手を止めて顔を上げる。
「役職も持たぬお前を離宮に住まわす事はできない。それに、実家とは縁を切ったつもりだろうが、侯爵はお前を籍から抜いておらぬ。つまり、お前はまだ貴族だ。ただの貴族が離宮にいるのはおかしいだろう?団長という位は無理だが、1騎士として団員へ戻れ」
「・・・ですが・・・」
「色々と条件は付けるが、騎士に戻り、圭と・・・ライアといったか?その子供の護衛騎士になれ。それから、
「それは、どういう意味でしょうか?」
アルベルトの問いに、今度は僕へとユリートは視線を向ける。
「圭、君には明日から咲と行動を共にする事を命ずる。そして、まずは王城の診療所へ行ってくれ」
「一緒に・・・ですか?」
「あぁ。咲には先に話してあるが、流行病の患者が思ったより多そうだ。以前のように検問近くに診療所を用意した。これから多くの人がそこへ詰め寄る事になる。
そうなれば、圭はそこの担当として付きっきりになる。だが、王城で治療している臣下達の治療もおろそかにしたくはない。あの者達の回復を待っている家族がいるのだ。そこで、まずは診療所で咲に治癒の力の使い方を教えて欲しい」
「それは・・・・」
「わかっている。だが、怪我をしている臣下とその家族達、治療を望む民達、どちらも大事なのだ。圭と咲の力がどうしても必要だ。咲には既に了承を得ている。圭、力を貸してくれないか?」
真っ直ぐに僕を見つめるユリートの言葉に、僕はそっと目を伏せ、わかりましたと言葉を返した。
ユリートは、小さくありがとうと返事を返すと、またアルベルトへと視線を向ける。
「王城での警護、平民街の診療所までの警護、それを行う為には騎士としての名目が必要だ。わかるな?」
「・・・・はい」
「ならば、この後、その足で騎士の塔へいって必要な物を受け取って来い」
「承知しました」
「それと、今後、あの離宮で過ごす事は許可するが、同室は許可しない」
「・・・何故ですか?」
「神に使える者達が住む場所だ。その意味はわかるであろう?ライアには圭の部屋と繋がる隣の部屋を与える。もし、不安であれば、その扉を使って圭と過ごすといい。
だが、アルベルトは壁を隔てた隣だ。日中の警護以外、圭の部屋に立ち寄るな」
「・・・・・」
「これでも私は譲渡しているつもりだ。私の権限があれば、王宮に圭の住まいを移す事もできる。だが、それは圭が望まないのを知っているからこその譲渡だ。これ以上、嫌われたくないのでな」
ユリートは少し寂しそうに小さく笑うと、また手を動かし、肉を口へと運んだ。
そのあとは、誰も言葉を発する事なく食事を終えた。
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