第49話 変わらない心
「圭、散歩に行かないか?」
夕食を済ませた後、アルベルトがそう僕へと声をかける。
その言葉にいち早く反応したライアが、先に戻ってると笑顔で答えて部屋へ向かっていった。
僕はクスリと笑いながら、差し出されたアルベルトの手を取った。
「庭園に行くの?」
歩き始めたアルベルトに僕はそう尋ねるが、心底嫌そうな顔をして首を振る。
「あそこは陛下の庭園だ。遭遇するのはごめんだ」
アルベルトの言葉に僕は思わず吹き出す。
アルベルトが実家に帰宅した日以来、たまに庭園に散歩しに行っていたが、その度にユリートと遭遇していた。
日もまばら、時間帯もまばらなのに、決まってユリートと会う。
その事にアルベルトは嫌がらせだと呟いていた。
でも、僕は知ってる。
ユリートが散歩なら自分も誘ってくれと言った意図を・・・・
形は違ってしまったけど、きっとユリートは純粋に昔のように三人で散歩がしたいのだと、あの時のように仲良くしたいと願っているのだと、僕は知っている。
それでも、アルベルトがヤキモチを妬くから、僕はあえて何も言わずにいた。
「じゃあ、今日は神殿の裏かな?」
そう尋ねるとアルベルトは小さく頷いた。
神殿の裏には王族の墓がある。初めてそこに連れて行かれた時は、どうしてこんな怖い場所へ連れて行くのかと怯えてしまったのだけど、そこには小さな灯りが並んで灯されていて、よく見渡すと、墓の周りにはたくさんの花が咲いていた。
ここで眠る歴代の王族達が、心安らかに眠れるようにと庭園と同じように綺麗に手入れされているそうだ。
その先を少し行くと、小さな湖がある。
神殿にある聖なる泉とは違うが、ここも聖なる場所だと言われている。
ここで慰霊祭の日に儀式をするからだ。
この湖の水が、亡くなった魂を癒してくれるらしい。
本来なら王族と高位神官しか入れないこの場所に、幼い頃、ユリートの付き添いで来た事があると、アルベルトは言っていた。
ここで前皇后・・・ユリートの母親に密かに祈りを捧げていたそうだ。
今は堂々と母の命日、慰霊祭の日に祈りを捧げに来ているユリートだが、幼い頃は誰にも母親の事を話せなかったと、アルベルトの父は言っていた。
でも、こうして信頼できる友だからこそアルベルトを連れてきていた事に、1人でも心許せる人がいた事に、僕はほっとしたのを思い出す。
「アル、ここに来るってことは何か話があるの?」
湖のそばで布を敷き、僕を座らせるアルベルトに僕は尋ねる。
「いや・・・少し診療所での圭と陛下の表情が気になってな」
そう答えるアルベルトに、僕はクスリと笑う。
「僕じゃなくて、本当は陛下の事が気になるんでしょ?」
「いや、陛下は二の次だ」
「そんな事を言っちゃダメだよ。アルの大事な君主でしょ?陛下もそうでいてほしいって思ってるよ」
「あぁ・・・そうだな」
僕の説教に小さなため息を吐いて微笑むアルベルトに、僕は隣をトントンと叩いて座るように促す。
そして、腰を下ろしたアルベルトの腕に、自分の腕を絡ませ、肩に寄りかかった。
「咲の話をしてたんだ」
「咲殿の?」
「そう。僕、今まで陛下の婚姻について口を挟む事はしなかったんだけど、陛下がそろそろ前を向く選択をするって言ったから、その選択肢の中に咲を入れてくれないかとお願いしたんだ」
「・・・・何故?」
「アルは気付かない?咲の眼差しが誰に向けられて、どんな顔をしているのか」
「もしや、陛下に想いを寄せているのか?」
「うん・・・咲は何も言わないけど、あの眼差しの意味を僕は知ってる。そして咲が何故、口にしないのかも・・・・」
「身分を気にしているのか?それならば、陛下は気にしないはずだ」
「うーん・・・それもあるかもしれないけど、咲はきっと元の世界に戻れる事に、まだ希望を託しているからかもしれない」
「・・・そうか」
「戻りたい気持ちがまだ強いから、もし想いが叶っても始める勇気がないんだ。いずれその時が来たら、辛い決断をしなくちゃいけないかもしれないから・・・」
僕がそう話すとアルベルトは口を閉ざしたまま、少し俯く。
その事に僕は気付いているけど、僕は何も言わず目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます