第16話 過去

「アルベルト・・・これは・・・?」

荷物を解き終わった後、自然と沈黙しながら待っていた僕は、アルベルトに紅茶を出しながらテーブルのそばの椅子に腰を下ろす。

すると、アルベルトがテーブルに手を置き、魔法を使った。

薄い光のベールが僕達を包み、かけ終わったのか、アルベルトが向かい側の椅子に腰を下ろした。

「防音の魔法だ。ライアには聞かせない方がいいと思って・・・」

アルベルトの言葉に、とうに部屋で寝ついてしまったライアの部屋を見る。

扉が開いてないことに安堵して、アルベルトの方へ視線を向けると、やはり暗い表情をしている。

「アルベルト・・・何があったの?」

そう尋ねると、アルベルトは懐から封筒を取り出し、僕の目の前に差し出す。

僕はその封筒を手に取る。差出人はルベルトだった。

王都を出てから、定期的に以前泊まった宿にルベルトから手紙が届くとアルベルトから聞いていた。

王都での状況と僕に関して不穏な動きがないかの連絡だった。

ここ最近、アルベルトから何も言われてなかったから、すっかり手紙の事を忘れていた。

僕は震える手で手紙を開き、目を通す。

そして、その内容に手の震えが一層激しくなる。


一ヶ月前に第一王子が反逆を起こし、王座を奪還した。

王が第二王子にその座を譲ると発表した翌日だった。

貴族街で混乱が起きたが、特に大きな被害もなく、事前から年密に計画していたのか奪還騒動は一日という短時間で王の首が跳ねられ、静かに幕を閉じたという。

その後、一次門が破壊され、平民街にも多少の混乱が起きたが、元々王に不満を持っていた民からは第一王子を支持する声が上がっている。

そして、以前、手紙に書いたアルベルトの捜索は打ち切りになったと記されていた。

どうやら奪還という計画に、アルベルトの力が必要だったようだ。

そして、その後の文に僕は凍りつく。

第一王子がある人物を内密に探しているという文字だった。

黒い髪に黒い目、背は16、17歳くらいの背丈で小柄。女性にも似た雰囲気だが男性で、髪は肩につく程度の長さ、大きな目をしている。その者を探し、王城へ連れてくるようにという王命だった。


「アルベルト・・・これはどういう事?僕は回帰してから一度も王子には会っていない。なのに、この手紙に書いてある容姿は僕そのものだ」

震える声で問いかけると、アルベルトは僕の隣に移動して、僕の肩を抱き寄せた。

「私にもわからない。考えられるのは二つ・・・王も回帰しているか、何らかで圭の記憶を取り戻したか・・・結界は定期的に貼り直しているが、前にライアを助けた時、何度か力を使ったからそれを神殿が感知したのかもしれない。

それでもここに人が来ないのは、王子もまだ私の居場所すら見つけてられていないのと、感知した力が微力で場所までは特定できていないからだ」

その言葉に僕は震えながら、アルベルトの服を掴む。

「大丈夫だ。ルベルトには今後圭の事で何かわかれば、事細かに連絡して欲しいと返事は返した。いざとなればここを出て、また1から始めればいい。圭は私を信じて、いつものようにライアと笑い合って暮らせばいい」

「でも・・・・」

「やっと圭が笑顔を取り戻してくれたんだ。私は今の幸せを奪われたくないし、奪わせるつもりもない。圭には笑ってて欲しい。私のそばでライアと一緒に幸せに暮らして欲しいのだ」

「アルベルト・・・僕も、僕もこの幸せを奪われたくない。アルベルトとライアのそばにいたい」

「あぁ・・・圭・・・ずっと私のそばにいろ。私が圭を守り、幸せにする。だから、私にいつでも微笑んでくれ。それが私にとって何よりも幸せだ」

アルベルトはそう囁いて、僕を強く抱きしめてくれた。

その力強さが、僕の不安を少しずつ取り除いてくれて、僕は安堵しながらアルベルトの胸に身を寄せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る