第24話 懐かしい思い出
馬車に乗り込んでしばらくすると、泣き疲れたのかライアはアルベルトの膝の上で寝息を立てていた。
僕はまだ乾かない涙の跡を拭い、まつ毛に張り付く雫を拭った。
「圭、疲れただろう?」
「僕は大丈夫だよ」
「私がそばにいるから、肩に寄りかかって少し眠るんだ。力を使い過ぎたせいで、顔色が悪い」
アルベルトは、ライアを支えている手とは別の手で、僕の肩を引き寄せる。
ポスンとアルベルトの胸に寄りかかると、不安の塊だった心が不思議と穏やかになっていく。
「アルベルト、忘れないで。僕は君が大好きだよ。ライアとアルベルトを愛しているんだ」
「あぁ。わかっている。私も心から圭を愛している。もちろん、ライアも・・」
「うん・・・僕もわかってる。アルベルトがどれだけ僕を大切にしてくれているのか・・・どれだけ僕を愛してくれているのか、ちゃんと伝わってるよ。アルベルト・・・アル・・・僕、今度は諦めないから。最後の最後まで諦めない」
「私もだ。ほら、もう寝るんだ」
アルベルトはそっと僕の頭にキスを落とすと、優しく撫で始めた。
その温もりが心地良くて、僕は目を閉じた。
馬だけで三日かかった道のりを、多くはない騎士達に囲まれながら馬車で四日に渡って移動した。
その間も厳重に警備され、食事などの休憩以外は休む事なく進んだ。
逃亡の恐れからか宿には泊まらず、野営での移動だったが、僕達はトイレ以外、馬車を降りる事を禁じられていた。
それでも、そばにアルベルトとライアがいる事がとても心強く感じた。
四日目の深夜、僕達はやっと王都へと入る。
ルベルトが手紙に書いてあった様に一次門はなく、昔二次門と呼ばれた場所はただの検問所となっていた。
昔と同じように馬車のカーテンは閉められていたが、僕は小さくカーテンを開いて街の様子を覗き見た。
街の記憶はほとんどなく、思い出すといえば王都から逃げ出す時に見た暗い街並みだけだ。それでも、平民街の神殿を通る時は懐かしさを感じた。
それは、王城の神殿より愛着があったからだ。
王城ではどこにいても、何をしてても厳しい監視の目があった。
昔は、アルベルトもその監視の目の一つだと思っていた。
ふとある思い出が脳裏に過ぎって、僕はふふっと笑みを溢した。
そして、隣にいるアルベルトへと視線を向けると、どうしたのかと不思議そうに僕を見つめるアルベルトと視線が合った。
「ねぇ、アル・・・覚えてるかな?」
「何をだ?」
「昔、一度だけ、いつも無表情だったアルが、目を丸くさせた事があったんだ」
僕の話に、心当たりがないような表情をする。
「平民街の神殿の帰り際に、子供達が摘んできた花束をくれて、馬車の中でアルに一つだけ花をお裾分けした時だよ。あの時、驚いたように目を大きく見開いて丸くしてたんだ」
「・・・あの時か。あれは・・・あの時、圭はとても嬉しそうな顔をしていて、私に幸せのお裾分けだと花を一輪差し出してくれた顔が、その・・とても、綺麗だったんだ。私が初めて見た笑顔だったから・・・。それに、あんなに過酷な毎日を過ごしながらも、子供達がくれた花が嬉しいと、その幸せを私にも分けてくれるのかと驚いんだ」
「ふふっ。あの時から僕を好きでいてくれたの?」
「そうだな・・・はっきりと自覚したのは、あの流行病の事件があった後、ガゼボで泣いている圭を見た時だったが、前にも言ったようにきっと一目惚れだったんだ」
少し照れたような顔でそう話すアルベルトに、僕は申し訳なさで俯く。
「本当の愛はすぐそばにあったのに、僕は気付く事が出来ずにいた。ごめんね」
落ち込む僕の頬をアルベルトが優しく撫でる。
「私はただの護衛騎士に過ぎなかった。だから、必死に気持ちを隠していたんだ。圭が気付かないのも仕方ない」
「うん・・・アル、僕を好きになってくれてありがとう。昔も今も変わらずに想ってくれてありがとう。大好きだよ、アル」
僕は手を広げて、アルベルトを抱きしめる。そして、ゆっくりと顔を上げ、そっとキスをした。
アルベルトも僕を抱きしめて、愛していると囁きながらキスを返してくれた。
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