第39話 壊滅作戦
レーザービームのような真っ直ぐな
それが作戦開始の合図だ――。
瞬間、ガラスが割れるような派手は音が谷底に反響する。
同時、なにもなかった谷底に忽然と集落が姿を現す。
さらに狼煙のように複数の防護テントから煙が立ち上る。
「みんな! 行こう!」
リーダーの号令で青年たちは岩陰から一斉に飛び出す。
4人はアジトの後方入り口に猛然とダッシュする。
後方の見張り番は3人。門の両サイドに2人。物見やぐらに1人。
物見やぐらの盗賊が青年たちの姿を捉えて口に笛のようなものを咥える。
「させるかよッ!」
【――—抜刀術〈
即座、青年が物見やぐらの盗賊を遠距離斬撃で撃墜。
【――――〈
【————〈
門の見張り番はピンクゴールドの
さらに猫耳の彼女が慣れた手つきで盗賊たちを拘束具で無力化。
少し遅れて門を潜ったアフロ
【――――〈ロックウォール〉――――】
さらにドワーフは土系の魔法アビリティで門の内側を分厚い土壁で覆う。
これで土壁と門の二重ロックを破壊しなければ外に出ることはできない。
【————〈忠実なる騎士の
二振りの光槍を背後に従えピンクゴールドの少女が叫ぶ。
「ソウジン! 良いよ! 行って!」
「おう! ここはワシらに任せろい!」
「ネズミを狩るのはウチの専売特許にゃー!」
「あざっす! ちょっくら捕虜がいるか確認してきます!」
【――—〈
青年は集落を高速で駆け抜ける。
前方の入り口付近で怒号が飛び交い、
予定通り『双剣烈火』のパーティーが派手は暴れているようだ。
「その割に後方に敵の姿がないってことは……やはり地下水脈と岩壁方面に敵が流れてるってことか」
青年は内心で安堵する。
盗賊団には殺されかけたのだ。情けをかけるつもりはない。だが、無駄な殺生をしたくないというが本音なのだ。
幸いにも会敵することなく黒い防護テントにたどり着く。
青年は短く息を吐く。
「……頼むぞ」
捕虜がいないことを願いながらテントの中に飛び込む。
ところが、そうは問屋が卸さなかった。
ちゃっかり捕虜らしき人物がいた。それは幸か不幸か。一人の女性だった。
年齢は20歳前後と言ったところ。服装からして街娘だろうか。
「……な、なんだ、これ……?」
ギルマスが示唆した『複数の捕虜がいる』という最悪のケースを避けられたはずなのに青年は唖然と固まっていた。
なぜなら、その女性は地面に描かれた魔方陣の上に張り付けにされていたからだ。
痛々しくも両手両足に銀製の杭が打ち込まれ拘束されていたのだ。
「こっわ、黒魔術的な儀式かよ……」
青年は頭をブンブンと振ってて女性に近づく。細かいことは後で考えればいい。今は眼前のか細い命を優先すべきだろう。
「君! 大丈夫か!」
返事はない。だが、ひび割れた唇から細い呼吸音が漏れ聞こえてくる。どうにか生きているようだ。
「痛いかもしれないが、我慢してくれ!」
青年は急ぎ女性を縛り付ける銀製の杭を引き抜く。
女性を抱き起こして手持ちの回復ポーションをひび割れた唇の隙間に注ぎ込む。しかし、女性はゲホゲホと咳き込んで青色の液体を吐き出してしまう。
「こりゃお嬢の回復魔法に頼るしかなさそうだ」
青年は女性を背負いテントを急ぎ飛び出す。
なんと運悪く逃走中の盗賊たちとかち合う。その数7名。屈強な盗賊たちが恰幅の良い男性を守るように取り囲んでいる。
(いや、運悪くじゃないな……連中はこの女性を回収しにきたんだ)
直後、鬼の形相で襲い掛かってくる屈強な盗賊たち。
降り注ぐ無数の
峰打ちで……いや、手心を加えてやる余裕はない。
青年は咄嗟に背中の女性を上空に放り投げる。
痩せこけた女性は想像以上に空高く舞い上がる。
迷いは命取り。青年は闘争本能に身を任せ漆黒のロングソードを抜刀。目にも止まらぬ速さで切り結ぶ。
————刹那、朝焼けに無数の血しぶきが舞う。
喉元を搔っ切られた者たちが声もなく地面に伏す。
這いつくばり逃げようとする恰幅の良い男にも容赦はしない。青年は無慈悲に剣を走らせてその
スイカのようにゴロンと頭が地面を転がった。
同時、青年は空から落ちてくる女性をひょいと受け止める。
『親方! 空からなんとやら』である。青年は再び女性を背負う。
「……悪いな。借りは返させてもらったぜ」
青年は物言わぬ
前世には『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』なんて言葉があるが、命を奪いに来た相手の命を奪うことはこの世界においては正当な行為なのだ。
だが、理屈と感情は別だ。
青年が無言で立ち去らなかったのは、前世の価値観を完全には断ち切れていないからだ。死んだ者たちに同情する気はないが、死んで当然とまでは思えないのだ。
「やれやれ、この甘さがいつか命取りにならなきゃいいが……」
青年はそう自嘲気味に吐き捨てる。
その直後だった――—、
「――——はい。お人好しは長生きできませんよ?」
そう背後から囁きが――振り返るより早く、首筋に注射でも打たれたかのようなチクリとした痛みが走る。
瞬間、鼓動がドクンと跳ねる。首筋から血液がドクドクと抜けてゆく。
背後から伸びたしなやかな両腕が青年の身体を包み込む。
艶めかしい指先が青年の表面を味わうようにゆっくりと這う。
(か、身体が……動かない……毒か? アビリティか……?)
抵抗しようにも思うように身動きが取れない。
それどころか徐々に徐々に身体の力が抜けてゆく。
【――—〈
青年は強引にアビリティを発動させ女性の呪縛から抜け出し距離を取る。
首筋から
「あー、もったいない……貴重な血が零れてしまったじゃないですか」
紫髪の女性が這いつくばり舌先を地面の血液に伸ばす。
青年は言葉を失っている。理解が追いつかない。
「ハァー、すごい……すごすぎます……こんなに美味しい血は生まれて初めてです。あー、もっともっと飲みたいなぁ……」
恍惚とした表情を浮かべ女性は赤い舌で血に濡れた唇をなぞる。
「嘘、だろ……?」
青年は目を疑う。
女性の両手両足の傷が塞がっているではないか。
青白かった肌は見違えるように血色を取り戻し、瘦せこけた身体は別人のような丸みを帯びている。
先ほどまでの今にも死にそうだった女性はいない。
「そうだ。良いことを思いつきました。お兄さん……よろしければワタシの眷属になりませんか?」
黒髪青年は漆黒のロングソードを構えて声を絞り出す。
「お前は何者だ……?」
瞬間だ。女性の瞳がルビー色に輝き、彼女のこめかみと背中からコウモリのような黒い翼がバサリと生えてくる。
「申し遅れました。ワタシはシャルロッテ————ヴァンパイアハーフです」
そう彼女は空中に浮遊しながら丁寧にお辞儀した。
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