第35話 ブリーフィング
「【紅蜘蛛団】のアジトはスプライト大草原から少し外れた〈エビアン
ラヴィアンの言葉にさっそくギルド内がざわつく。
「そりゃ誰も発見できないわけにゃー」
「地元の人間はエビアン渓谷なんて
「旨味のある魔物もおらんしのう。あの辺に近づくのはよほどの物好きじゃな」
ギルド掲示板の渓谷を観ながらモモさんたちが口々に漏らす。
要するに青年が盗賊団のアジトに迷い込んだのは土地勘が皆無だったからだ。
掲示板の画面がパッと切り替わる。集落の隠し撮り映像だ。
高層ビルのごとき高い岩壁に挟まれたスペースに、狩場でお馴染みの『防護テント』が幾つも並んでいる。
その中でもひと際大きな円形の『防護テント』に人相が悪そうな連中が奪った食料や金品を運び込んでいる。
「見ての通り100人規模の集落よ」
さらにギルド内がざわつく。
「100人規模とは驚いた。ずいぶんと大所帯だね」
「そこら辺のちんけな盗賊団じゃねーな」
「ふむ。バックにでかい組織がついてる可能性もあるぞい」
「装備品を見てもなかなか羽振りが良さそうにゃー」
「けっ! 盗賊団ってのはそんなに儲かるのか? やってらんねえな」
「なんだい? セドリック、アンタも明日から盗賊になるかい?」
「冗談よせよ。ジャンヌに狙われるなんて命が幾つあっても足りやしねえ」
ジャンヌに睨まれエルフの男性が大げさに首をすくめてみせる。
掲示板の映像が切り替わる。
「アジトは周囲から隔絶された谷底にあり、その上、『認識阻害』の
(え? あの集落って隠されてたの?)
まったく記憶にない。『認識阻害』を突破して集落に突如として現れた黒髪青年を見て盗賊団の連中はさぞや驚いたことだろう。
「ならその認識阻害の
「そうね。だからクエスト参加者を4人パーティーの『5部隊』に編制するわ。工作部隊1の強襲部隊4」
ダークエルフがぐるりと冒険者の顔を見回す。
「それぞれリーダーは、ジャンヌ、ベロニカ、セドリック、ドナ。それと……エウレカの5名よ」
「え? あたし!?」
ラヴィアンの発言にピンクゴールドの少女が目を丸くする。
背後のギルマスが口元に不敵な笑みを浮かべているのを目にして青年は察する。
(なるほど。お嬢に花を持たせてやろうってことね……)
「ねえ……C級になり立てのあたしがリーダーで大丈夫なのかな?」
「エウレカなら大丈夫よ。ブルーサラマンダー討伐の際に見事なリーダーシップを発揮していたと聞いているわ」
不安そうな少女にダークエルフのお姉さんが優しく微笑む。青年も少女の肩にぽんと手を置く。『自分がついています』と。
「うん! 分かった! 頑張るよ!」
少女は力強く頷く。その意気である。
「続けるわ。隠ぺい系の
「感謝しろ。このオレがお膳立てしてやる。その代わりお前たち……失敗は許さんからな?」
名指しされたエルフの狩人が大上段に告げる。あからさまに癖は強いが、その鋭い眼光と隙のない佇まいからして実力はありそうだ。
「逃走経路は主に4つ。大草原から谷底のアジトに繋がる前後の細道。それと岩壁に掛けられた複数の縄梯子。地下水脈が流れる洞窟を利用した隠し通路の4つよ」
大柄の女性が「ほう」とアゴを撫でる。
「真正面から逃げるような馬鹿正直な連中ではないわなァ……ってことはラヴィアン、逃走経路の本命は地下水脈かい?」
「そうね。幹部クラスは地下水脈に逃げ込むでしょうね」
「だよなァ!」
「だから、本命には最強のジャンヌ部隊をぶつける。狭くて暗い水路よ。乱戦が予想されるけど……大丈夫そう?」
剣呑に目を
「誰に言ってんだァ! アタシを舐めてんのか? この『鋼鉄のジャンヌ』様が盗賊団ごときに後れを取るとでも?」
ピリついた空気に周囲が息を呑む。
「勘違いしないで。私が心配してるのはアナタじゃなくて盗賊団よ」
「ハァー? どういう意味だァー?」
「可能なかぎり生け捕りにして欲しいのよ。彼らの手口だとか、バックの組織だとか、いろいろと解明しなきゃいけないことがあるわ。ジャンヌがちゃんと手加減できるか私は心配しているの。大丈夫? 手加減できる?」
「…………」
「…………」
しばし二人は見つめ合う。
「よーし! 野郎ども! アタシについて来なァ! 100人だろうが1000人だろうがアタシが全員ぶっ飛ばしてやるからさァ!」
ジャンヌの声に屈強な冒険者たちから歓声が上がる。
「うっわ、大声で誤魔化した」
「強引にもほどがありますね」
青年と少女は顔を見合わせ呆れる。言うまでもなくダークエルフの彼女も「ハァ……」と盛大なため息をこぼしている。
「くくく、ならばワタクシのパーティーが岩壁側は受け持ってあげる。縄梯子を昇って来た愚かどもをワタクシの風魔法で根こそぎ突き落としてやるわ」
年齢不詳の妖艶な女魔導士が楽しそうに喉を鳴らす。
一目見て青年は理解する。やばい人間だと。
「いいわ。ドナに任せる。ただしやりすぎないでね?」
「全員、生かして捕える必要がある? 雑魚は幾ら死んだって構わないじゃない」
「ドナ、勘違いしないで。これは壊滅作戦よ。殲滅作戦ではないわ」
「うるさい女ね。大して変わらないじゃない」
「ドナ! アナタに好き勝手やらせると全員、殺しかねないから言ってるの」
予想通りやべー人間だった。
「めんどくさいったりゃありゃしない。まあ、いいわ。従ってあげる。その代わりきっちり報酬は払ってもらうから」
「もちろん。ドナがきっちり働いてくれればね」
ラヴィアンは女魔導士に釘を刺してから、赤髪少女に視線を移す。
「ベロニカ。アナタのパーティーにはアジトの正面経路を担当してもらうわ」
即座、赤髪少女が眉を怒らせる。
「なんでだよ! ラヴィアン! だんちょーが言ったみたく! 正面になんて絶対に盗賊が逃げてこないじゃんか! アタイは暴れたいんだよッ!」
(いや、てか、こいつら全員……文句しか言わねーなぁ!)
黒髪青年は思わず心の中でツッコんでしまう。
冒険者ってのは一癖も二癖もあるとは思っていたが、上位ランクの連中ともなると一筋縄ではいかないらしい。
ダークエルフの気苦労を
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