第34話 論より証拠
「あ! ジャンヌも今回のクエストに参加するんだ!」
「おう! エウレカ! アタシは今回のクエストの現場責任者さ!」
「そうなんだ! うわー、嬉しい! 心強いよー!」
ピンクゴールドの少女が大柄の女性を見上げて安堵の表情を浮かべる。
どうやらエウレカとジャンヌと呼ばれた女性は顔見知りのようだ。
「ソウジン! 彼女はジャンヌ! アクエスの現役最強の冒険者だよ!」
「なるほど……」
そのド迫力の女性がニカッと白い歯を覗かせてマッチョな腕でベロニカの肩をガバと抱き寄せる
「良かったなァ! ベロニカ! エウレカと一緒のクエストを受けられてよォ!」
記憶にある誰かを彷彿とさせる豪快な口調だ。
「な、なんのことだよ! だんちょー!」
どうやらジャンヌははベロニカが所属する【
「とぼけんなよォ! ここ数日、エウレカと一緒のクエストが受けられるってずっとソワソワしてたじゃねーかよ!」
「ハァー? そんなわけねーじゃんか! てきとーなこと言うなよな!」
ベロニカが見るからに慌てふためている。筋肉質の腕から逃げ出そうと必死にもがくが、残念ながらビクともしない。
「え? ベロニカ楽しみにしてくれてたの?」
「ち、ちげーよ! 勘違いすんな! バーカッ!」
よせばいいのに無垢な少女が無垢な瞳で尋ねるものだから、赤髪少女はますます意固地になってしまう。
「なによぉベロニカ! バカって!」
「うっせー! エウレカがバカだからバカって言ったんだ!」
二人の少女が睨み合う。黒髪青年は思わず頭を揺らす。
さすがに不憫なので青年はベロニカに助け舟を出す。
「ベロニカみたいな実力者がクエストに参加してくれて心強いよ」
「ほんとかー? ソウジン?」
「ほんとほんと。今回のクエストは盗賊団の壊滅作戦だろ? 絶対に失敗は許されない。だから実力のある冒険者は多くて困ることはないからさ」
「まあ、そうだな……」
「ねえ? お嬢もそう思うでしょ?」
「うん。そうだね。ベロニカは強いからね」
ピンクゴールドの少女が手を差し出す。
「今回は仲間なんだから仲良くしよベロニカ」
「ふふーん! しょーがねーな! 仲良くしてやるぜ!」
赤髪少女が手を握り返す。ベロニカは懸命にすまし顔を作っているが喜びを隠せてはいない。
そんなベロニカたちの様子を大柄の女性は微笑ましそうに見下ろしている。
大柄の女性と不意に目が合う。ジャンヌが小さくウィンクしてくる。
(……ああ。そういうことね)
どうやら彼女も素直じゃない赤髪少女に助け船の出したようだ。
直後だった――。
なぜか頭上から
青年が慌てて抜刀。しかし、完全には間に合わない。
間一髪、青年はロングソードの根本で鉄塊を受け止める。
だが、あまりの重さにソウジンは片膝を床についてしまう。
「ふんッ!」
大柄な女性が片腕でバスターソードを押し込んでくる。
ドスンと天井が落ちて来たかのような圧迫感。全身の骨が軋む。気を抜いたら身体がバラバラに砕け散りそうなほどの重みだ。
まるで巨大怪獣でも相手にしている気分だ。
「やるじゃねーか! アタシの一撃をまともに受け止めるなんてさァ!」
大柄な女性が豪快な笑い声を響かせる。
「なんなんすか!? おたくの【
さすがに青年は声を荒げる。
「あん? そんな方針あるわけねーだろうが」
真顔のジャンヌが無骨なバスターソードを背中に納める。
「いやいや、じゃあなんでアンタもベロニカも、初対面の俺にいきなり斬りかかってくるんだよ……」
青年は漆黒のロングソードを鞘に納めながら盛大なため息を零す。
「そりゃエウレカの奴隷が強いって噂を耳にしたからさ! 冒険者なら強い相手がいるって聞いたら黙っちゃいられねーだろォ?」
「うんうん! そんなのやるしかないじゃんか!」
「だよな? 実際にやり合って確かめるのが手っ取り早いよなァ?」
ジャンヌとベロニカがドヤ顔で頷き合っている。
「知らん知らん! アンタらの常識に俺を巻き込まないでくれ!」
「おう、エウレカ。噂通り歯ごたえのありそうな奴隷じゃねーか」
「S級のジャンヌが褒めてくれるなんて主人として誇らしいよ」
ジャンヌの大きな手で丸い頭を撫でられエウレカは満足そうだ。主人のそんな顔を見てしまったらそれ以上なにも言えるはずもない。
「ふん! 親父殿がソウジンを気に入るのも納得だな!」
「親父殿……?」
「えっとね、ジャンヌはね――」
青年の疑問にピンクゴールドの少女が答えようと口を開いた時だ。
ざわついていた冒険者ギルド内が突如、水を打ったように静まり返る。
巨漢のイケオジが二階から階下を見下ろしていた。
「おう! 貴様らァ! 盗賊団壊滅作戦のブリーフィングを始めんぞォ!」
どすの利いた声が空気を震わせる。ギルマスの隣には有能秘書のダークエルフの姿もある。
「……あ、そういうことか」
青年の中で点と点が線で繋がる。ジャンヌとギルマスを見比べて即座に二人が血縁関係なのだと理解する。
喋り方、音量、なによりその全身から醸し出される強者感。
二人は実によく似ている。
「ラヴィアン! 説明ッ!」
名指しされダークエルフの受付嬢が一歩前に出る。
「みんな! ギルド掲示板に注目! 今から【紅蜘蛛団】壊滅作戦の詳細について話すわ! 聞き漏らしのないように!」
ラヴィアンの鋭い言葉に冒険者たちの表情が一斉に引き締まる。
青年も背筋をピッと伸ばす。
ソウジンには今回のクエストに期する思いがある。
(盗賊団の連中には殺されかけたからな……きっちりお礼はさせてもらう。それが冒険者の流儀ってもんだからな)
社畜リーマンの自分ならば泣き寝入りしたことだろう。できるだけ穏便にすませようと見て見ぬ振りをしただろう。それがあの頃の賢い生き方だった。
(平穏な現世ならそれで間違っちゃいなかった。だが、ここは血で血を洗う異世界だ。今の俺は切った張ったの冒険者だ。舐められたままってのは違うんだよ)
冒険者ってのは実力主義だ。そして面子を重んじる。
奴隷のソウジンが舐められれば主人の面子がつぶれるのだ。
「……お嬢に恥をかかせるわけにはいかないんだよ」
まさに
ラヴィアンが水晶版を操作してギルドの灯りを落とす。
同時に映画館のスクリーンのごとくギルド掲示板に『グランドキャニオン』を思わせる茶褐色の渓谷がパッと映し出される。
「始めます」
いよいよブリーフィングの開始である。
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