第18話 ラヴィアン
ソウジンたちが受付カウンターに訪れると、ダークエルフのお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。
「あら? ギルマスのお説教はもう終わったのエウレカ?」
「うん。意外にも褒めてくれたよ。うちのソウジンのこと『あんちゃんやるじゃねーか』って」
「もうギルマスったら仕方がない人ね。強い冒険者を見ると嬉しくなっちゃうんだから。ギルド職員としてはあまり冒険者を甘やかして欲しくはないんだけど」
ダークエルフのお姉さんが流し目で青年のことを見やってくる。
元A級冒険者だと聞かされたからだろう。ひとつひとつの所作や佇まいに凄みを感じてしまう。
「先ほどはすみませんでした。ご迷惑をおかけして」
「あら? アナタ、言葉が喋れるのね。てっきり喋れないと思ってたわ」
「お恥ずかしい……さっきはお嬢を馬鹿にされ頭に血が上ってしまって、訳の分からない言葉を叫んでしまいました」
平然と嘘をつく黒髪青年にピンクゴールドの少女が目をパチクリさせている。
「お姉さん、先ほどの件について弁解させて欲しいんですが」
「ラヴィアンでいいわ」
「ラヴィアン、俺はあの冒険者のことを本気で斬ろうとしたわけじゃない。面倒な連中がお嬢にちょっかいを出さないようにアピールしただけだす。お嬢のバックにはヤバい奴隷が控えてるぞってね」
「なら成功ね。周りの冒険者がアナタのことをすごーく警戒しているわ」
黒髪青年が振り返ると、多くの冒険者があからさまに視線を逸らす。
「うわー、嫌われちゃったな……まあ、自業自得っすけど」
「あたしのためにごめんねソウジン」
「いえいえ。こういう小賢しい駆け引きは慣れてますんで」
「なんにせよ本気じゃなくて助かったわ。もしソウジンくんが本気だったら私ではきっと止められなかったから」
「ご謙遜を。ラヴィアンこそちっとも本気じゃなかったくせに――」
黒髪青年が挑発するように目を細める。だが、日々、血気盛んな冒険者の相手をしているからだろう。
「買い被りだわ。私はただの受付嬢よ」
ラヴィアンは動じることなくにこやかに微笑んでいる。
「ふふふ、エウレカのためにあそこまで怒れるなんてソウジンくんはご主人様想いの奴隷ね」
「当然です。お嬢は記憶喪失で途方に暮れていた俺を救ってくれた命の恩人ですから。忠誠を尽くすのは当然です」
黒髪青年のことをダークエルフのお姉さんがマジマジと見つめてくる。
「それにしても……よくソウジンくんのような強い奴隷を買えたわねエウレカ。随分と高かったんじゃない? お金はどうしたの? 私に内緒でどこかでお金とか借りたりしていないでしょうね?」
娘を問い詰める母親のような態度である。
「か、借りてないよ! ほら! ソウジンっていかにも弱そうな見た目じゃん!」
「そうね。どう見ても弱そうな見た目よね」
ピンクゴールドの少女からは慣れたが、綺麗なお姉さんからの追撃にはさすがに気持ちが折れそうになる。
「だから半額で買えたの。お陰ですっかり手持ちがなくなっちゃったけど……」
「そうだったのね。お金に困ったら私に言いなさい。貸してあげるから。絶対に変なところから借りちゃだめよ?」
「心配しすぎ。大丈夫だよ。あたしって歳の割にはしっかりしてるもん」
屈託なく笑うピンクゴールドの少女にダークエルフのお姉さんは小さく首をすくめる。ラヴィアンはソウジンを見ながら心配そうに首をすくめる。
「ソウジンくん。エウレカのことよろしくお願いね。この娘、ちょっと素直すぎるところあるから」
「そこがお嬢にいいところではありますが。ご安心ください。俺が目を光らせておきますんで」
「ちょっとラヴィアン! なんでソウジンなの!」
唇を尖らせるピンクゴールドの少女を無視して青年は話を進める。
「それよりお嬢。俺の【冒険者ギルドカード】を作るって話では?」
「うん。そうだね。ラヴィアン! ソウジンの【冒険者ギルドカード】を発行して欲しいの! ついでにお金が稼げそうなクエストも斡旋して!」
「良い心がけね。お金を稼がないとダメよね」
「これソウジンの【ジョブ証明書】」
ダークエルフのお姉さんが目を丸くする。
「初めて目にするジョブだわ……ソウジンくんは【
「うん。新種のジョブみたい」
「ふーん、新種のジョブね……」
ラヴィアンは後輩らしき受付嬢に「冒険者ギルドカードの発行をお願いね」とにこやかに【ジョブ証明書】を渡す。
「それで? 【
「ソウジンの【
少女が息子を自慢をするギャルママよろしく嬉しそうに答える。
「さっきのソウジンくんの立ち回りからして機動力と回避力の高さが特徴かしら?」
「だねー、踏み込みの速さはあたしが知る限り最速の部類に入ると思う」
「ということは『一撃離脱』型のジョブかしら?」
「どちらかと言えば、一撃必殺の高火力で押し切っちゃう『短期決戦』タイプのジョブって気がする」
なぜか青年を差し置いて二人が【
「マジか。【
もっとも、二人の客観的な分析に本人が誰よりも感心しているわけだが。
不意にラヴィアンが切れ長の目を細める。
「ねえ、ソウジンくん――アナタ、本当にただの人族? 少なくとも、ただの奴隷ではないわよね?」
「買い被りです。俺はただの奴隷です」
先ほどのラヴィアンのセリフをソックリそのまま返す。
「あらあら、そうくるわけね」
「そうくるとは? 俺は事実を言っただけですが?」
青年と受付嬢は気色悪いほどの満面の笑みで見つめ合う。
「こっわ! 二人ともなんかこっわ!」
大人の駆け引きをする二人にピンクゴールドの少女が戦慄している。
油断ならないラヴィアンからのこれ以上の追及は避けたい。詰められればいつかボロが出るだろう。主に素直すぎるご主人様から。
転生者であることは伏せるに越したことはないのだ。
「そう言えば! お嬢のジョブはなんなんですか?」
青年は強引に話題を逸らす。
「あれ? あたし言ってなかったっけ?」
「はい。言われてませんし。尋ねてもいません」
「エウレカのジョブは【
ラヴィアンが教えてくれる。
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