第17話 彼女の美徳
ピンクゴールドの少女が大きな目をさらに大きく見開く。
「え? ギルマスなんで知ってるの!」
「伊達にギルマスやってねえんだよ」
ギルマスがニヤリと口元を緩める。
(こりゃ下手すると、俺が異世界人ってのもバレてるかもしれないな……)
黒髪青年の喉がゴクリと鳴る。
どうにも敵に回したくない相手だ。むしろこれを機会にギルマスにツテを作っておくのが得策だろう。
「だいたい理解しました。要するにお嬢と俺でエリクサーをゲットすれば、この【
「おう。簡単な話だろ?」
青年は隣のご主人様に『受けましょう』とアイコンタクトを送る。
ピンクゴールドの少女が真っ直ぐな瞳でこくりと頷く。
「うん。そのクエスト受けるよ」
クエストの受諾を確認すると、途端にギルマスが真剣な表情を浮かべる。
驚いたことに膝に両手を置いてガバっと白い頭を下げてくる。
「お前らも知っての通りラヴィアンは恵まれた才能の持ち主だ。このまま受付嬢で終わらすにはあまりに惜しい。どうかアイツの呪いを解いてもう一度冒険者にしてやってくれ。どうかよろしく頼む!」
ピンクゴールドの少女がソファーからすぐさま立ち上がる。
「ギルマス! 頭を上げてよ! ソウジンのためってのもあるけど、ラヴィアンには冒険者になってからお世話になってるからさ。ずっと恩返しをしたいと思ってたんだよ。だから気にしないで」
そうピンクゴールドの少女が屈託なく言い放つ。実に清々しい。清涼飲料水のCMに起用したいくらいの爽やかさである。
この真っ直ぐさこそがエウレカの最大の美徳だろう。
「おう。エウレカならそう言うと思ってたぜ」
強面のイケオジが
おそらくギルマスも彼女の真っ直ぐさを大いに評価しているからこそ、この特別なクエストを依頼したのだろう。
◆◇◆◇◆
執務室を後にしたソウジンたちは冒険者ギルドの一階に戻る。
ちなみにギルマスが不便だろうからと【古代の指輪】を貸してくれた。「ちんたらやってたらすぐに返してもらうからなァ」という素敵な脅し文句を添えて。
受付カウンターにダークエルフのお姉さんの姿を見つけるやいないやエウレカが笑顔で手を振る。
「ラヴィアーン! あたしたちがむぐぅ――」
黒髪青年は慌てて彼女の口を両手でふさぐ。
さらに青年はピンクゴールドの少女をギルドの隅に引っ張ってゆく。
ピンクゴールドの少女が眉を怒らせ青年の手を乱暴に払いのける。
「ちょっとソウジン! なにするの!」
「お嬢! それはこっちのセリフですよ!」
「どういうこと?」
「お嬢、もしかして今、ダークエルフのお姉さんにエリクサーの件について言おうとしてませんでしたか?」
「うん! 早くラヴィアンに伝えたくて!」
「いや、ダメでしょ」
「えー、なんで?」
「ギルマスが『ここだけの話』って念を押してたじゃないっすか」
「うん」
「他の冒険者に【毒の沼地ダンジョン】でエリクサーがドロップすることを知られちゃ不味いんじゃないですか?」
「あ、そっか……争奪戦になっちゃうよね。エリクサーってすごく儲かるから」
「そもそも、エリクサーは『レアドロップ』だと言ってましたよね?」
ピンクゴールドの少女が「あちゃー、そっか」と両手で顔を覆う。
「宝箱からのドロップは運だもんね……入手できるかどうかもわかんないのにラヴィアンに『エリクサーで呪いを治してあげる!』なんて期待を持たせるようなこと言っちゃダメだよね……」
「だと思います。エリクサーのドロップする確率は不明ですけど、レアアイテムが何か月もドロップしないなんてことはザラにありますから」
あくまで前世のゲームでの話だが。
「それに呪いの件を公表にしていないってことは、本人的にも左腕のことは周囲に知られたくないんじゃないですか?」
「だよね……じゃあギルマスから受けたクエストに関してラヴィアンにはなにも言わないほうがいいね」
「それが無難っすね」
「ハァー、反省だよ……『ラヴィアンに恩返しができる!』って思ったら気持ちが
「当然です。自分、エリート奴隷ですから」
実に素直で可愛いご主人である。
「ソウジンを買って良かったよ。一人じゃ気づけないことも二人だと気づけるもん」
嬉しいことを言ってくれる。ますます彼女のために頑張ろうという気になってくる。『いや、お嬢、昨日の夜、俺のこと返品しようとしてましたよね?』と内心では思っているが。
「じゃあさっそく【冒険者ギルドカード】を作っちゃおう。ないとクエスト受けられないしさ。ついでに改めてソウジンのこともラヴィアンに紹介するよ」
「しゃーっす。自分、記憶喪失ってことで行きます」
「うん。異世界転生者ってのは黙ってたほうがいいね」
互いに頷き合ってから改めて受付カウンターに向かう。
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