第13話 初めてのトラブル
見た目から戦士風と魔導士風と剣士風の三人組と言ったところか。
エウレカは三人組の若い冒険者たちと面識があるらしく、すぐさま三人組を睨みつけ言い放つ。
「あたしが奴隷を買ってなにが悪いの? アンタたちにとやかく言われる筋合いはないから!」
さすが生来のお姫様だ。エウレカの毅然とした態度に
そこで三人組は矛先をソウジンに切り替える。
「○×△☆♯♭●□▲★※ヨワッチイ!」
「カネノムダ○×△☆♯♭●□▲★※!」
三人組がニヤケ面を浮かべながらソウジンを指差し捲し立てる。言葉はよく分からないが、馬鹿にされているのは間違いないだろう。
「ソウジンは弱っちくなんかないよ! 見た目で判断しないで!」
ピンクゴールドの少女がふんすと鼻息荒く言い返す。
「ねえ! ソウジン!」
「あ、はい……」
初対面で『うっわ、すっごい弱そう』と目の前の少女から言われたような気がするが、きっと勘違いだろう。
若い三人組がそれぞれ武器を構える。
「ドレイ!! ○×△☆♯♭●□▲★※コイヨ!!」
ソウジンを挑発するように喚き散らす。
周囲の冒険者たちは荒事に慣れているらしく止めるどころか、やんややんやと三人組を煽っている。
「えーっと、お嬢……あれは俺にかかって来いって言ってますか?」
「馬鹿の相手はしなくていいよ。アイツらあたしをからかいたいだけだから」
「好きな女の子の気を引きたい小学生男子か!」
「無視だよ無視。ソウジンの【冒険者ギルドカード】を作ろう」
「ういーっす」
ピンクゴールドの少女は若い冒険者たちにぷいっと背を向ける。
ソウジンとしても馬鹿にしたけりゃ勝手にどうぞと言った気分である。
ところが、彼女に無視されプライドが傷ついたのだろう。三人組はさらにヒートアップする。
「○×△☆♯♭アバズレ●□▲★※!」
いかにも口汚い言葉でエウレカを
だが、ピンクゴールドの少女は相手にしないと決めているらしく、奥歯を噛みしめ反応しないようにぐっと
「お嬢? 無理してませんか?」
「大丈夫。全然、平気だから……あたし負けないから」
「俺があの馬鹿どもを大人しくさせましょうか?」
「ダメだよソウジン。相手にしたら負けだよ」
すると、戦士風の若者が股間を指差し腰を下品に揺らす。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!」
それを目にしてピンクゴールドの少女が顔を真っ赤に染める。
思わず口を開きそうになるが、ソウジンに『相手にしたら負け』と言った手前、下唇を噛みしめ必死で耐えている。
だが、よほど悔しかったのか彼女の目には薄っすら涙が浮かんでいる。
ご主人様のこんな姿を見せられてエリートな奴隷としてはさすがに心穏やかではいられない。
途端、黒髪青年が剣呑に目を細める。
「お嬢、アイツらなんて言ってるんですか?」
「言えないよ……口にしたくない」
「○×△☆♯♭●□▲★※ユウベハオタノシミデシタネ!」
今のでなんとなく理解してしまった。
「なるほど。そういうことね」
おそらく夜の相手をさせるために黒髪青年を買ったとかなんとか、そういう下世話なことを言っているのだろう。
瞬間だった――――。
【――――〈
黒髪青年は小さく唱えて、
地を這う黒い稲妻となり冒険者の間を一瞬にしてすり抜ける。
主人を侮辱した三人組に肉薄すると、そのうちの一人、魔導士風の若者に迷いなく右足を振り抜く。
「まずは一人」
蹴り飛ばされた若者が壁に背中から激しく衝突し動かなくなる。
慌てて拳を振り抜く剣士風の若者。黒髪青年は身体を逸らして正拳突きをやり過ごすと、がら空きのアゴを掌底で撃ち抜く。
剣士風はガクガクを膝を震わせ、糸の切れた人形のようにその場に顔面からぐしゃりと崩れ落ちる。
「最後だ」
戦士風の若者が雄叫びをあげながら
青年は余裕の表情でアビリティを発動させる。
【――――〈
剣豪のアビリティ〈先見之明〉は一定時間、目に映る世界の動きをスローモーションにする。
まさに『これから起こる先の未来が見えていたかのよう』に動くことができる優れものだ。
ただし【
青年はスローモーションで振り下ろされる戦斧の縦斬りを余裕で
柔道の投げ技よろしく戦士風は空中でぐるんと一回転。背中から床にしたたかに着地。同時、苦しそうに吐き出される呻き声。
流れるように青年は戦士風の胸元をドンと足で踏みつけ、抜刀したブロードソードの切っ先を喉元に突き付ける。
誰が見ても勝負ありだった。
黒髪青年の『ひ弱そうな見た目』からは想像できない早業に冒険者ギルドは唖然と静まり返っている。
ソウジンはその様子を眺めて鼻で笑う。
「こりゃ良い気分だ。舐め腐っていた連中の鼻を明かせて清々するぜ……だけどなァ! うちのお嬢を泣かせた怒りはまだ収まってねえんだよォ!」
黒髪青年は叫びブロードソードを足元に向けて鋭く振りかぶる。
ギルド内に悲鳴がこだまする。周囲の冒険者にとって恐怖でしかない。
訳の分からない言葉を叫び、大勢がいる前で戦意喪失している若者に無慈悲にトドメを刺そうとしているのだから――。
「ソウジンッ! それ以上はダメええええええええええ!!」
少女の悲痛な叫びが響き渡る。
刹那、青年の視界の端に褐色の影が飛び込んでくる。
――――ガギンッ。
眼前で火花が飛散。
青年は視線を走らせる。
ダークエルフの受付嬢が短剣でブロードソードを受け止めている。信じられないことに右腕一本で軽々と。
しかも、まだまだ余力を残していると言いたいのだろうか。彼女の左腕はぶらりと無防備にぶら下がっている。
「おいおい……冗談だろ? お姉さん。アンタさっきまで受付カウンターの中にいただろうが」
凄まじいスピードだ。なにかのアビリティだろうか。ソウジンの〈疾風迅雷〉と同等かそれ以上。しかもどういう理屈か寸前までまったく気配を感じなかった。
このダークエルフのお姉さんがかなりの手練れなのは間違いないだろう。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!」
ダークエルフのお姉さんがソウジンに向かってなにやら鋭く叫んでいる。
「ソウジン! お願い! 今すぐ剣を収めて! 収めないとラヴィアンが相手になるって言ってる! 彼女とやり合ったらただじゃすまい!」
ピンクゴールドの少女が早口で捲し立てる。
すぐさま黒髪青年はダークエルフのお姉さんに向かって「サーセン」と小さく肩をすくめながらブロードソードを鞘に納める。
さらに犬が飼い主に腹を見せるがごとくソウジンは両手を上げて無抵抗を示す。
すると、ラヴィアンと呼ばれるダークエルフは安堵した様子で短剣を長いスカートの中に収める。
「え? そこから取り出した短剣だったのか……なんか、ちょっと興奮するな!」
27歳独身。彼女なし。そのセリフに社会人になってから彼に一度も恋人ができなかった多くの理由が詰まっていた。
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