第14話 ギルドマスター
エウレカが慌てて駆け寄って来る。
「ラヴィアン! ごめん! あたしの奴隷が! 彼、記憶喪失なの! だからちょっと暴走しちゃったみたいで……今後、こういうことがないように言い聞かせておくから許して!」
ピンクゴールドの少女はダークエルフのお姉さんに謝りながら黒髪青年の脇腹を肘で小突いてくる。
ラヴィアンは『構わないわ』とばかりに小さく笑って再び受付カウンターに戻ってゆく。大人の余裕を感じさせる。実にいい女である。
「お嬢! 俺の言葉も周りのみんなに通訳してください! 『本気で斬る気はなかった』って! 『あくまで斬る斬る詐欺だ』って!」
「え? そうなの?」
「ちょ! お嬢! 待ってくださいよォ……俺が本気で斬ると思ってたんすか!」
「うん! 思ってた! ブチ切れちゃったんだと思ってた!」
黒髪青年はガックリと肩を落とす。
「俺、信頼ないなぁ……まあ、しゃーないか。昨日、出会ったばかりだし」
主人の信頼を得られるよう精進する所存である。
「確かにお嬢を馬鹿にされて怒ってはいましたよ? ただ俺は大人っすよ? さすがに冒険者ギルドで殺傷沙汰は不味いってくらい分かります」
「どこが大人よ! めちゃくちゃ派手にやってんじゃん!」
周囲を見回すと、ぐったりとしている三人組を回復系ジョブであろう冒険者たちが手分けして治療している。
「いや、それはですね……今後、コイツらや他の冒険者が俺たちに舐めた真似しないようにちょっと強めにお仕置きしておいたほうがいいかなーって……あ、これは通訳しなくていいです」
「言えるわけないじゃん!」
その時だった。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!」
空気をビリビリと震わすほどの大音量の叫び声が頭上から降ってくる。
見上げると、白髪白髭オールバックのイケオジがギルドの二階から仁王立ちしながら階下を睨みつけている。
周囲の冒険者たちが一斉に身体を強張らせる。ピンクゴールドの少女も同様で「うっわ、やっばぁ……」と青ざめた顔を浮かべている。
圧倒的なボスキャラ感。おそらくギルドの偉いさんなのだろう。
そのイケオジがエウレカに向かってアゴをしゃくる。二階に上がって来いと。
「はーい……ギルマス。分かりましたぁ」
「へー、あのイケオジがギルドマスターか」
黒髪青年たちはギルドの二階にある執務室に通される。
ピンクゴールドの少女のげんなりした様子を見るに、ギルド内での騒動についてお叱りを受けることになりそうだ。
ただ馬の耳に念仏よろしく言葉が分からない黒髪青年はだいぶ気は楽だが。
皮張りのソファーに腰を下ろすと、ギルマスがガハハと豪快に笑いながらバシバシとゴツイ手でソウジンの肩口を叩いてくる。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!」
「力つんよ! ちょ、お嬢、ギルマスはなんて?」
「お前やるじゃねえーかって。なんか褒めてくれてる……みたいな?」
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!」
「うん。ソウジン。あたしの奴隷。言葉がわかんないの。記憶喪失なの」
ピンクゴールドの少女は黒髪青年が『転生者』であることを伏せつつ事情を説明してくれている。
(俺が転生者ってことはできるだけ伏せておいたほうがいいからな)
知られてしまったらどう考えてもロクなことにはならないだろう。
「○×△☆♯♭●□▲★※?」
「そうそう。あたしだけはなぜか言葉が理解できるの。だから半額で買えたんだ。お買い得しょ?」
「○×△☆♯♭●□▲★※?」
「うん! 記憶喪失だから冒険者の掟なんてわかんないだって! だからギルマス! ソウジンが三バカをボコしちゃった件については大目に見てよ!」
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!」
「違うよ! 普段は大人しいの! あたしが馬鹿にされたから怒っただけ! ソウジンは主人に忠実な良くできた奴隷なの!」
ピンクゴールドの少女がギルマスからのお目こぼしを求めて話を美化してくれてるんだろうが、シンプルに褒められて悪い気はしない。
実際はペットの大型犬の扱いをされているわけだが、気にしたら負けである。
ギルマスが品定めするようにジットリと黒髪青年を威圧的に眺めてから、「○×△☆♯♭●□▲★※!!!」
おもむろにソファーから立ち上がる。
「ギルマスがちょっと待ってろって」
ギルマスがドン、バン、ガシャン、と豪快に机の引き出しを漁り始める。
しばらくしてギルマスが『ドラゴンの顔があしらわれた指輪』をカツンとテーブルに置く。精巧な作りで牙まで細かく再現されている。素人目に見ても『いい仕事』をしているのが分かる。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!」
「装備しろって」
「え? 俺が? なんか牙が刺さりそうなんですけど……」
訝しむ青年に『つべこべ言ってないで付けろ』とばかりにギルマスが無理やり指輪をはめてくる。
「ちょ! なんなんだこのオッサンは! 強引な人だなァ!」
ドラゴンの牙の部分が指に刺さって若干痛いのである。
直後である。信じられないことが起こる。
「強引なオッサンで悪かったなァ! だが、俺様のお陰で言葉が通じるようになったじゃねえーか」
「「え?」」
黒髪青年とピンクゴールドの少女が驚き顔を見合わせのは言うまでもない。なんとギルマスと意思疎通が図れていた。
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