第29話 ブルーサラマンダー戦

 さながら『もぐら叩き』だ。

 ブルーサラマンダーは狂ったように長くて太い舌をしならせ叩きつける。

 一発二発と連続で喰らったところでは力尽きてグシャと砕けて細かい魔力マナの粒子となって霧散する。


【————〈使い魔召喚スケルトン・サモン〉————】


 すぐさま奴隷少女が新たな魔核コアを砕く。

 今度はスケルトン化したブルーシザーズを複数召喚する。

 まさにデコイだ。ブルーサラマンダーは夢中になってそれらを叩き始める。


 使い魔スケルトンがブルーサラマンダーの敵視を引きつけている間に弾丸のごとき速さで金髪猫耳の拳闘士グラップラーが距離を詰めて、

「しゃ――――ッ!!」

 がら空きのボディにかぎ爪の拳を叩き込む。


「んにゃー! 手応えがないにゃ!」


 一見、柔らかそうに見える青白い表皮はヌメヌメとした粘液におおわれていて、思った以上にこちらのダメージが通らない。


 アフロのマッスルドワーフが放った巨大なハンマーの一撃でも大差ない。

「どりゃっせ――――――いッ!!」

 鋼の筋肉によって生み出されたバカでかい衝撃に、つきたての餅のごとく丸みを帯びたボディがぐにゃりと変形はするがその表皮には傷ひとつない。


【————〈ビックバンボルケーノ〉————】


 ぽっちゃりお坊ちゃんの魔法もど派手な見た目に反してさほど効果はない。


「くそ……僕の魔法が効かないだとォ! 化け物めえ!」

 

「もしかして……あの粘液はわたしのダイヤモンドプロテクションみたいな『魔法防壁』の類なのかも!」


「厄介にゃ! どうすればいいにゃ!」

 

 皆がが険しい表情を浮かべる。その時だった。


 

【――—抜刀術〈紫電一閃しでんいっせん〉――—】



 ソウジンがブルーサラマンダーのムッチリとした短い前足を斬りつけると、傷口からプシュッと水色の魔力マナが溢れ出る。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォン』


 紫電一閃は雷系の攻撃属性を持つのだが、それが水棲生物であるブルーサラマンダーと噛み合ってるようだ。


「ソウジン! ナイスだよ!」

「みんな! 俺が斬った傷口を狙ってくれ!」


 さすがは実力者だ。ソウジンの指示にモモさんとダダンさんがすぐさま反応して傷口に攻撃を叩き込む。


『グオオオオオオオオォォォォ――――ンンンンッ!』


 ブルーサラマンダーが巨躯をくねらせ悶絶もんぜつする。


「やったーッ! みんな効いてるよ――!!」


 ピンクゴールドの少女が声を弾ませる。


(よし! やはり魔法防壁の役割をになっている粘液ががれた表皮なら通常攻撃も通るみたいだ!)


 しかし、喜びも束の間。パーティーにピンチが訪れる。

 

「す……すみません! そろそろ! 魔力マナが尽きそうです……」


 青髪の奴隷少女がガクと片膝を地面に落とす。

 無理もない。何十体もの使い魔スケルトンを休みなく召喚してブルーサラマンダーの攻勢を一手に引き受けていたのだから。


「クロエ! 魔力マナポーションだ! 下がって飲んでろ!」


 ぽっちゃりお坊ちゃんが空色の液体が入った瓶を投げる。

「ゲルト様。ありがとうございます」

 奴隷少女はそれを大事そうに抱えて後方に下がる。


 ――――瞬間だ。


 敵視ヘイトが切れたそのタイミングを見計らっていたかのうようにブルーサラマンダーが長い舌をぶるんと乱暴にアタッカー陣に向かって振るう。


 大縄跳びよろしく身軽な金髪猫耳と黒髪青年は大ジャンプで舌をかわす。


 エウレカはその威力に10メートルほど吹き飛ばされながらも手持ちの槍と光槍こうそうを駆使してダメージを受け流す。


 だが、決して俊敏しゅんびんとは言えない重量級のドワーフは舌の横薙ぎを土手っ腹にもろに喰らう。


「ぐわああああァァァァ――――ッ!」


 ダンプカーにでも轢かれたみたいにダダンさんの巨体がゴロゴロと地面を転がる。

 ここぞとばかりにブルーサラマンダーがドワーフに獰猛な視線を向ける。


「ダダン! 逃げるにゃ!」


 金髪猫耳女性の悲痛の叫び。お構いなしにブルーサラマンダー大きな口を開く。

 弾丸のように舌先で地面にうずくまるドワーフを撃ち抜く気だ――。

 

【――――〈ビックバンボルケーノ〉――――】 


 瞬間。ゲルトが機転を利かせブルーサラマンダーの鼻先に範囲魔法を炸裂させ視界を奪う。どうにか追撃を免れる。


「ダダンさん! 回復するよ!」

「か……構うな! エウレカッ!」


 即座、駆け寄るピンクゴールドの少女をドワーフは叱咤しったする。


「でも!」

「ワシはドワーフじゃ! これしきなんともないわい! デコイがいない今! 聖姫士クルセイダーのお主が守りの要なんじゃ!」


 だが、言葉とは裏腹にドワーフの表情には苦痛が滲んでいる。

 心優しき少女は躊躇ちゅうちょする。しかし、すぐに「うん!」と力強い返事をして前線にダッシュで引き返す。


「ほーら! あたしが相手だよ!」


【――――〈光芒一閃シャイニングトラスト〉――――】 


 少女はブルーサラマンダーと真っ向勝負。あえて正面に立ち注意を引き付ける。

 少女が降り注ぐ青い舌の鋭く重い一撃を歯を食いしばりながら必死に受け止めしのいでいる。

 決して大きくないその身体で巨大な魔物に果敢に立ち向かう。エウレカのその勇敢な姿に心揺さぶられないはずがない。

 

「ソウジン! ピンクちゃんの勇気を! 無駄にしないにゃ!」

「当然です!」


 金髪猫耳の彼女が先に仕掛ける――。

 雑技団のごとくアクロバティックに『舌のムチ』をかわしながらモモさんが巧みに距離を詰める。


【――――〈無双乱舞〉――――】 


 傷ついたブルーサラマンダーの前足に連続打撃アビリティを叩き込む。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォン』

 急所攻撃に巨大な魔物が怯む。


【――—抜刀術〈紫電一閃しでんいっせん〉――—】


 さらにソウジンが間髪入れずに追撃。

 ムッチリとした前足に刻まれた傷口に紫の斬撃を走らせる。

 刹那、水色の飛沫しぶきを飛び散らせヌメヌメとした前足が宙空を舞う。


『グオオオオオオオオォォォォオオオオォォォォ――――――ンンンンッ!!!』


 苦悶の咆哮が青い洞窟に轟く。前足を失ったブルーサラマンダーは陸に打ち上げられた魚のごとく地面をのたうち回る。


「ソウジンが! 前足を取ったにゃ――――ッ!」

「でかしたぞい! ソウジンッ!!」

「よくやったぞ! 黒髪奴隷! 褒めてやる!」


 俄然、盛り上がる。強敵を倒せるかもしれないと――。

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