第42話 報酬分配会

 翌日、クエスト参加者に再びギルマス名義での招集がかかる。

 通常営業が終了した夜更けすぎのギルドにお馴染みの面子が集う。


「うお! なんじゃこりゃ!」


 ただし前回と異なるのが、さながらオークション会場のようにギルドホールに盗賊団から押収した金品がズラリと並べられている点だ。


 金貨の山に煌びやかな宝飾品。美しい小瓶に納められた色鮮やかな薬品の数々。見るからに貴重そうな武器や鎧などなど。


「うおー、10連回してー」


 眩いばかりのレアアイテムたちに青年は前世のガチャを思い出してワクワクせずにはいられない。ちなみにガチャ運はない。


「共同クエストの場合、分配アイテムをこうやって展示するのにゃ」

「うむ。貢献度の高いパーティーから順番にアイテムを指名してゆくんじゃ」

「それが【報酬分配会】にゃ! 盛り上がるにゃー!」

「うむ! これが共同クエストの醍醐味じゃのう!」


 モモさんたちが嬉しそうに教えてくれる。


「あ――——――——ッ!」


 その時だった。ピンクゴールドの少女が大きな声を上げて黒髪青年の背中をバシバシと叩いてくる。


「な、なんすかお嬢?」

「見て見て! あのってソウジンの言ってた【カタナ】じゃない?」


 エウレカの指さすテーブルには、菊の花を模したつばが特徴的な白銀色の鞘に納められた刀が展示されている。


「あああああ……『菊一文字きくいちもんじ』だ……」


 青年の胸に熱いものが込み上げてくる。ちょっと少し泣きそうだ。

 奪われてしまったものは仕方がないと割り切っていた。

 もしかしたら二度と手元に戻ってこないかもしれなと諦めていた。

 しかし、実物を目にした瞬間、大草原での日々が走馬灯のように蘇ってきたのだ。


(俺は何度も何度も菊一文字に助けられたんだ……この刀がなきゃ最初の大草原で俺の異世界転生ライフは終わってただろう)


 まるで実家の愛犬と久しぶりに再会したかのような勢いで青年は駆け寄る。

 しかし、すぐにギルド職員に止められる。


「展示品には触れないでください!」

「いや、その刀の元々の所有者は俺なんすよ!」

「分配アイテムに関してそうした事情は考慮されません」

「でも……」


 食い下がるがギルド職人の毅然とした態度は揺るがない。


(そりゃそうだよな。例外を認めるわけにはいかないよな……)


 元社畜リーマンには運営側の気持ちがよく分かってしまうのだ。


 そんな青年の姿を見ていた妖艶な魔導士が、


「報酬分配会のルールも知らないなんてこれだから奴隷風情は困るわ」


 そう小馬鹿にして鼻で笑う。


 おずおずと引き下がる青年をピンクゴールドの少女が励ましてくれる。


「大丈夫だよ! 分配報酬としてソウジンが刀を選べばいいじゃん! ソウジンは今回のクエストにすごく貢献したとあたしは思うよ!」


「俺以外の誰かが刀を先に選んだら思うと気が気がじゃなくて……」

「いや、それはないじゃろう」


 アフロドワーフが立派なアゴ髭を摩りながら言う。


「ワシがざっと見る限りじゃが、価値の高そうな押収品は他にもたーんとある。あの戦斧せんぷなんかはなかなかの業物じゃぞい」


 アフロドワーフが目を細める。

 どうやらダダンさんの狙いはあの大きな斧らしい。


「安心するにゃソウジン! 使えるどうかも分からにゃい物珍しい武器なんて誰も選ばないにゃー!」

「ならいいんですけど……」

「それより重要なのはクエスト貢献度にゃー! これが高くないとお宝を選べる順番が最後になっちゃうにゃー!」


「その貢献度ってどういう基準なんすか?」


「まずは任務の危険度や重要度、それとシンプルに『討伐数』あたりじゃな」

「なら激戦地を任されたジャンヌのパーティーの貢献度は高そうですね」

「あとセドリック率いる工作部隊の活躍もギルマスの評価は高そうにゃー」

「うん! そだね! 今回のクエストでは認識阻害の魔具マグが大きな障害になってたもんね!」


「なるほど……となると俺たちのパーティーの貢献度ってどうなんすか?」


 青年の問いかけに三人が顔を見合わせ「うーん」と唸る。


「え? なんすかそのリアクション! ダメなの?」

「ダメじゃないにゃー、でも、任務の危険度はウチらが一番低いにゃ」

「でもでも! 盗賊を生け捕りにした数はあたしたちがたぶん一番だよ!」

「そうそう! 俺、捕虜を無事に保護しましたよ!」

「うむ。そのあたりをギルマスがどの程度、評価してくれるかじゃのう」


 不意にギルド内がざわめく。

 見上げると二階にギルマスが仁王立ちしていた。

 ダークエルフの受付嬢がスーッと前に出る。


「————それでは! 報酬分配会を始めます!」


 沸き起こる拍手喝采。鳴り響く指笛。

 ブリーフィングの緊張感とは打って変わってお祭り騒ぎである。


「野郎どもォ! まずは討伐数の発表だァ!」

「1位ジャンヌチーム! 討伐数102!」


 ジャンヌがボディビルダーのごとく「むんっ!」と力こぶしを作る。

 さすがはジャンヌと皆が口々に賞賛する。


「2位ドナチーム! 討伐数55!」

「3位ベロニカチーム! 討伐数43!」


 妖艶な魔導士は「まあまあだわ」と髪を得意気にかき上げ、赤髪少女は「むー! ドナに負けた!」と悔しがっている。


「4位セドリックチーム! 討伐数22!」

「5位エウレカチーム! 討伐数10!」


 セドリックは興味なさげに「ふん」と鼻を鳴らし、エウレカは周囲から温かい目で見られている。あからさまに「ドンマイ」と言った雰囲気だ。


「では! その他、幾つかの査定をプラスして貢献度の順位を発表します!」


 ダークエルフの言葉に皆が固唾を呑んで見守る。



「クエスト貢献度1位は――――エウレカチーム!」



 瞬間、ギルド内が大きくざわめいたのは言うまでもない。

 なんせ呼ばれた青年たちが一番戸惑っている。


「2位はセドリックチーム! 3位はジャンヌチーム! 4位はベロニカチーム! 5位はドナチーム! 以上よ!」


「ちょっと待ちなさいよラヴィアン! どうして討伐数2位のワタクシたちが最下位なのよ!」


 怒ったのはくだんの女魔導士である。


「なによりワタクシが納得できないのは! あの奴隷風情のチームの1位よ! どういうことか説明しないさいよ!」


 そして、なぜかドナに睨みつけられる黒髪青年である。

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