第43話 第一回選択希望アイテム
女魔導士の剣幕に怯むことなくラヴィアンは毅然と答える。
「ドナ? 私は事前にアナタに言ったわよね? 今回のクエストは殲滅作戦ではなく壊滅作戦だと――」
反論できずに女魔導士は悔しそうに奥歯を噛みしめる。
「確かにエウレカチームの討伐数は10よ。けれど、盗賊を生け捕りにした数は18と参加チームで一番なの」
「冗談じゃないわ! それを足しても28じゃない。ワタクシたちの足元にも及ばないわ!」
「エウレカたちの貢献はそれだけじゃない。そもそも【紅蜘蛛団】の隠れアジトの有力な位置情報を提供してくれたのはエウレカの奴隷のソウジンくんよ?」
どうやらこの情報は公ではなかったらしい。冒険者たちがどよめく。
「さらにソウジンくんは捕虜も保護している。しかも! 捕虜の彼女は商人ギルドの大事なお客様だったのよ? この意味が分かるわよね?」
再び冒険者たちがどよめく。
それはさすが黒髪青年も初耳だ。
「……誰かさんの進言に従って捕虜の救助を後回しにしていたらどうなってたかしらね」
ドナが「チッ」と舌打ちしてソウジンを睨みつけてくる。
(いや、なんでやねん!)
「要するに今回は討伐数よりも、その他の貢献を高く評価させてもらったということよ。セドリック率いる工作部隊の順位が高いのも同様の理由よ」
ラヴィアンの説明は至極真っ当なのだが、ドナはどうしても納得できないらしい。
「ねえ! ジャンヌはどうなのよ! 圧倒的な討伐数なのに貢献度は3位なのよ? アンタは納得してるわけ!?」
ドナが味方に巻き込もうとジャンヌに話を振る。完全なる巻き込み事故だ。
「ドナァ! くだらないこと聞くんじゃないよ! アタシは自分のやりたいようにやっただけさ!」
だが、大柄な彼女はその体躯と同様に堂々とした態度である。
「そもそも、アタシは端っから貢献度なんて気にしちゃいないのさ」
「どういう意味よ?」
「アタシらのシマで好き勝手やってる生意気な連中を分からせたかったんだよォ! 生け捕るつもりなんてサラサラなかったのさ!」
ジト目のダークエルフから「ジャンヌ。偉そうに言わないで」と突っ込まれるも「うはははッ!」と大柄な彼女は豪快に笑い飛ばす。
「ふん……いいわ。目当てのアイテムさえ手に入れば問題ないわ。ラヴィアン。進めて頂戴」
言葉とは裏腹に女魔導士の表情は悔しそうだ。
ラヴィアンは仕切り直すように小さく咳払いする。
「では、エウレカチーム! 前に!」
青年たちはアイテムの並ぶテーブルに近づく。
「改めて【報酬分配会】のルールを説明するわ。エウレカチームが最初にアイテムを選択。続いてセドリック、ジャンヌ、ベロニカ、ドナと貢献度順に選択。一巡したら、再びエウレカがアイテムを選択。これを4回繰り返す」
「……あ、これ『ドラフト』だわ」
いわゆる『逆ウェイバー方式』というやつである。
ちなみに『ウェイバー方式』というのは、プロスポーツチームが戦力の均衡を図るために順位の低いチームから選手を指名するドラフト方式である。
実は前世の青年は無類のドラフト好きだったのだ。
ダークエルフとちらりと目が合う。
どうやら青年のためにわざわざ説明してくれたらしい。
青年はウィンクで『ありがとうございます』と感謝しておく。
不意にアフロドワーフが青年の背中を押してくる。
「ソウジン。最初のアイテムはお主が選ぶんじゃ」
「え? なんで俺?」
「ソウジンは捕虜も保護したし! 副団長も倒したじゃん!」
「でも、たくさん盗賊を生け捕りにして貢献度ポイントを稼いでくれたのはみんなじゃないですか?」
「実は『最初の選択』はソウジンに譲るってウチらは事前に決めてのにゃー! なー、ピンクちゃん!」
「ねー、モモさん!」
「じゃが、まさか貢献度1位になるとは思わなんだぞい」
「それね!」
「みんな……俺の刀のために……」
思わず目頭が熱くなる。
「ありがとうございます!」
青年は仲間の心意気を噛みしめて踏み出す。
背後の冒険者たちが固唾を呑んで見守っている。
ドラフト同様に『この選ぶ瞬間』というのが最も会場が盛り上がるのだ。
迷うことなく『菊一文字』に向かって青年は進む。
ところがである――――、
途中、青年の目に薬品の山が飛び込んでくる。
その中でも『虹色に輝く小瓶』に引力のように視線が引き寄せられる。
途轍もない
あまりにも気になって青年は傍らのギルド職員に「すみません……あの薬品はなんですか?」と小声で尋ねる
ギルド職員が囁く。
「――――エリクサーです」と。
黒髪青年の動きがピタと固まったのは言うまでもない。
突然、動かなくなった青年にギルド内がざわつく。
「なんだ? まだ悩んでんのか?」
「早くしろよ。後がつかえてんだよ」
「どうしたー? 死んだのかー?」
ダークエルフの彼女が二階から「ソウジンくん? 大丈夫?」と心配そうに声をかけてくれる。
だから、青年は小さく息を吐く。
「はい。大丈夫です」
笑顔で答えて青年は再び迷いなく歩き始める。
そして、青年は立つ。虹色の薬品の前に――、
「俺が選ぶのはエリクサーです!」
周囲から大歓声が沸き起こる。
一方、背後からは驚きの声が。
「え? ソウジンどうして……」
さらに妖艶な女魔導士からは悲鳴が。
「冗談じゃないわよおおおおおおおおおおおお! 奴隷風情がなに勝手にワタクシのエリクサーを選んじゃってくれてるわけええええええええええええ!」
女魔導士の目的のアイテムはまさかの『エリクサー』だったらしい。
ドナが鬼の形相をこちらに向かってくる。さすがに往生際が悪い。
直後だ――、
「ドナァ! いい加減にしろやァ! 」
見かねてギルマスが口を開く。
「てめーも冒険者の端くれだろうが! 欲しいもんがあんなら死ぬ気で勝ち取るもんだろうがァ! だが、てめーはソウジンを奴隷風情と舐めてかかった。ベストを尽くさなかった。だから足元をすくわれた。要するに自業自得だろうがァー!」
ギルマスに凄まれて言い返せる冒険者などいるはずもない。
女魔導士は渋々ではあるが「……おっしゃる通りです」と引き下がる。
青年がホッと胸をなでおろして仲間たちのところに戻る。
ピンクゴールドの少女が心配そうに尋ねてくる。
「ソウジン? 良かったの刀を選ばなくて……?」
「いいんです。だって俺、お嬢の奴隷ですから」
「どういうこと……?」
「お嬢はラヴィアンを助けたいんですよね?」
「もちろんだよ!」
「だったら俺が優先すべきはその願いなんです。お嬢の願いを叶えることが奴隷の俺にとっての一番の願いなんです」
「……ソウジン」少女が瞳を潤ませる。
「ってか、お嬢も人が悪い。最初から気づいてたんでしょ? エリクサーが押収品の中にあることに?」
「……うん。でも、それを言ったらソウジンが遠慮して刀を選ばないかもって思ってさ」
「大丈夫っすよ。モモさんたちが言ってたじゃないですか。刀なんて他の冒険者がまともに使えるかも分からない武器は選ばないって」
「だね! じゃあ、あたしの順番で刀を選択するよ!」
だが、直後である――、
「ワタクシはこの――『刀』とやらを選ぶわ!」
女魔導士が青年を睨みつけながら刀をかっさらってゆく。女の凍てつく双眸は『これが欲しかったらエリクサーを持って来い』と言っていた。
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