第24話 双剣烈火のベロニカ
「うっわ! ごめーん! ソウジン!」
防護テントの中で目覚めると、ソウジンはエウレカに背中から羽交い絞めにされていた。青年は思わずタップする。
ピンクゴールドの少女は慌てて距離を取ると、恥ずかしそうに自らの身体に鼻先を近づけすんすんと匂いを嗅ぐ。
「やっちゃったー、あのまま寝ちゃった……そのー、大丈夫だった? あたし汗臭くなかった?」
健全な27歳独身奴隷として内心でいろいろと思うところはある。
しかし、どう言葉を選んでも変態っぽいので「いいえ」とだけ簡潔に答えておいた。
沈黙は金である。
少女は「んしょ」とアイテムボックスから虹色の綺麗な石を取り出す。
「なんですかそれ?」
ソウジンが興味を示す。
「これはね
エウレカが
しばらくして炭酸が弾けるように泡と共に透明の膜が消失する。
「ふぅー、すっきりしたぁ」
驚いた。少女のピンクゴールドの髪や雪肌が風呂上りのように輝いている。装備もまるで新調したかのようにまっさらだ。
「へー、全身を洗浄してくれる
「ちょっとお値段は張るけど、冒険者女子にとっては必需品だよ」
少女から「ソウジンも使う?」と言われたのは「もちろん!」と即答する。
早速、
気分は自動洗浄機に放り込まれた車である。
「こりゃすごい。身体も気持ちもすっきりだ」
まるで温泉にでもゆっくり浸かったかのような充実感である。しかも洗浄機能だけではなく修復機能もあるようで、外套のほつれた箇所が直っていた。
「でも今のでなくなっちゃった。補充しないと」
「では一度、街に戻って諸々準備を済ませて楽園に戻ってきますか?」
「うん。そうしようー!」
さっそく二人は転移魔方陣で〈アクエス〉の街に帰還する。
◆◇◆◇◆
冒険者ギルドの買取カウンターで素材の売買を行う。
カニ身や甲羅はすべて売却。
さらに受付カウンターで達成したブルーシザーズの討伐クエストを報告する。
諸々合わせてそれなりの金額になる。
「すっごい! 一回のクエストでこんなに稼げるなんて! どうりで混むはずだよぉ」
ピンクゴールドの少女が喜び勇んで「ギルドの購買でアイテムを揃えてくるね!」と走ってゆく。
主人のいぬ間にダークエルフのお姉さんと小粋なトークでもしようかと思ったのだが、朝から他の冒険者の接客で忙しそうだ。
仕方がなくソウジンはギルドの壁の飾りとなって少女の帰りを待つ。
昨日の今日だ。他の冒険者たちが明かに黒髪青年のことを警戒している。
ただ視線はバンバン刺さるが、誰も黒髪青年に近づこうとはしない。
青年とてトラブルはごめんである。目立たないように大人しくしておく。
ところが、ただ一人、平然と壁の青年に近づいてくる冒険者がいた。
「よう、アンタが噂の奴隷かい?」
エウレカと同年代くらいだろうか。烈火のような赤髪をした勝気そうな美少女が話しかけてくる。
赤髪少女は腰に意匠が美しい紅白の双剣を
冒険者たちが遠巻きに注目している。
「おい、見ろ。双剣烈火のベロニカが例の奴隷に話しかけたぞ」
「こりゃ距離を取ったほうがいいな……ひと悶着ありそうだ」
黒髪青年は即座に理解する。厄介な相手に絡まれたと。
「噂の奴隷? なんのことですか?」
青年はすっとぼける。触らぬ神になんとやらである。
「ハッ! 認めな! アンタがエウレカの奴隷だろ?」
赤髪少女の目は確信に満ちている。
(んだよ……分かってて声をかけたんじゃねーか)
黒髪青年は少女の赤い目を油断なく見つめる。
「だったらなんすか?」
「だったら――斬るッ!」
刹那、早撃ちガンマンよろしく高速で抜き放たれる双剣。
咄嗟に抜剣。ギャヒンッ。三枚の鋭利な刃が噛み合う。
ソウジンは間一髪、双剣をブロードソードで受け止める。
「っぶねえッ!」
危うく両腕で斬り落とされるところだった。いくら回復魔法で治ると言っても自分の腕が胴体から離れる光景を見たいはずがない。
「ふふーん! 良い反応じゃんか!」
赤髪少女はニヤリと微笑みながら力任せ壁に押し付けてくる。
細身のボディからは想像もつかない凄まじいパワーだ。このままではブロードソードを弾き飛ばされてしまう。
黒髪青年は押し込まれる力を利用して壁を駆け上がる。
さらに壁をしたたかに蹴りムーンサルトよろしく大きく弧を描き、一瞬して赤髪少女の背後を奪取する。
「つーか、先に仕掛けたのはそっちだからな」
ソウジンは着地と同時に鋭く踏み込み、強烈な突きを赤髪少女に放つ。
【――—〈
さらにアビリティで速度を加速させる。
ところがだ。赤髪少女に怯む様子はない――。
【――――〈
驚いたことに赤髪少女は青年と同等の速度で肉迫してくる。
激しく火花が飛散。悲鳴のごとく反響する金属音。
赤髪少女が勢いそのままに青年の突きを双剣で弾き飛ばす。
まさしく烈火のごとき攻め。
黒髪青年は全力で距離を取る。
「マジかよ……」
ごくりと青年の喉が鳴る。勝てないかもしれないと感じる相手はこの世界に来て初めてだった。
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