第21話 お隣、失礼します
洞窟の奥へと進む道中、幾人かの奴隷らしき者たちを目にする。
種族はさまざま。ソウジンのような人族はもちろん、エルフや猫耳やウサギ耳や角の生えた男性や女性たち。
その多様さに異世界感をぞんぶんに感じてしまう。
ただし扱いも同様にさまざまだ。
ペットのように首にリードをつけられている奴隷たち。
命令に忠実に従いマシーンのように戦闘を黙々とこなす奴隷たち。
奴隷たちに偉そうに指示を出して背後でふんぞり返っている主人。
まさしく道具のように使えないと奴隷を蹴り飛ばしているパワハラ主人。
ピンクゴールドの少女が複雑そうな表情で漏らす。
「国同士の協定によって奴隷にも最低限の人権は保障されいるんよ。だけど、所有者によって奴隷の扱いに差があるのが現状なんだよね……」
「まあ、そういう体裁的な決め事ってのは、現場の裁量や了見にどうしても依存しがちですからね」
たとえば同じ業種だったとしても会社や上司によって労働環境に格差は生まれる。しかも、実際に働いてみないと実体は割と分からない。
「他人の奴隷に関して『口は出さない』って暗黙の了解もあるしさ。はがゆいよね。せめてあたしは自分の奴隷には真摯でありたいって思ってんだ」
「さすがです。お嬢に買われた俺は恵まれた奴隷ですね……」
社畜時代を思い出して少ししんみりとしてしまう。
「ソウジン! 紺碧の楽園の主な魔物は『ブルーシザーズ』と呼ばれる蟹に『ブルータートル』と呼ばれる亀に『ブルーロブスター』と呼ばれる海老に『オオコウモリ』あたりだよ!」
そんな重い空気を吹き飛ばすかのようにピンクゴールドの少女が声を弾ませる。この健全さこそが彼女の美徳である。
「確かにあちこちのパーティーが『ブルーシザーズ』を狩ってますね」
軽自動車のごとく巨大な青い蟹だ。大きなハサミはいかにも強力そうで、見るからに固そうな外殻をしている。
「うん。ブルーシザーズとブルーロブスターは食用としてかなり需要があるから稼ぎがいいんだ。どっちもすんごーく美味しいよ!」
「へー、そりゃいい! ぜひ食べてみたいですね!」
「うん! 狩りが終わったら食べようね!」
二人はさらに奥へと進む。しかし、なかなか丁度いいキャンプ地が見つからない。どこも人でごった返している。
「うーん、困ったなぁ……これ以上、奥には進みたくないだよね……ラヴィアンから洞窟の深層には近寄っちゃダメだって言われてるんだ」
「どうしてです?」
「んとね。【ブルーサラマンダー】と呼ばれる巨大なオオサンショウウオに【クラーケン】と呼ばれる巨大イカとか、F級のあたしたちでは到底敵わない強い魔物が洞窟の奥には出現するらしいんだ」
「なるほど、了解です。そういうことなら俺にお任せください」
「任せるってどうするの?」
「まあ、見ててください」
そう言って黒髪青年は二つのパーティーにある僅かなスペースに移動する。
「どうもー、すみませーん。お隣、失礼しまーす!」
青年はお得意の営業スマイルで両隣のパーティーにペコペコと頭をさげる。
「自分たちここでの狩りは今日が初めてなんですけど、お邪魔にならないようにしますので! どうぞよろしくお願いいたしまーす!」
一組は金髪の猫耳女性と、アフロのドワーフ男性。
もう一組は貴族風のぽっちゃり青年と、こめかみから角の生えた青髪少女。
胸元に大きく刻まれた【
「にゃはー! 律儀なお兄さんだにゃあ!」
猫耳の女性が笑っている。好感触である。
「ふむ! お前さんたち慣れてないなら手前の通路の魔物をやっておくのじゃ! 奥の通路は格上の魔物が混ざることがあるからのぉ!」
さらにドワーフの男性がアドバイスまでくれる。
「好きにしろ! ただし! 僕たちの獲物に手を出したらただじゃすまないぞ!」
貴族風のぽっちゃり男性は態度こそ横柄だが、隣に陣取ることを許可してくれた。大人しそうな青髪の奴隷少女が控えめにペコリと頭を下げてくれる。
「ソウジン! すごいね!」
ピンクゴールドの少女が黒髪青年の手際の良さに瞳を輝かせ感心している。
「リーマン時代に花見の場所取りを散々やらされましたからね。慣れたもんです」
「花見の場所取り……?」
ピンクゴールドの少女が小首を傾げている。
「前世の経験が役に立ってよかったです。異世界でも低姿勢できちっと筋を通せば割と受け入れてくれるもんですね」
種族はさまざまだが、同じ人間なのは変わらない。やはり異世界でもちょっとした気配りが大事なのだ。
「助かるよー、あたし、こういう交渉ごと得意じゃないからさ」
「感謝には及びません。これが俺の役割だと思ってますんで」
「むー、なんか保護者みたいな言い方じゃん」
「いえいえ。ソロじゃなくて二人パーティーなんですから、互いに苦手なことを補い合うほうが効率的じゃありませんか?」
「そっか! あたしたちパーティーなんだよね!」
ピンクゴールドの少女が嬉しそうに声を弾ませる。
「うん! 確かにそれがパーティー組んでいる利点だよね」
「はい。二人で協力して頑張りましょう」
「じゃあ! あたしたちもさっそく狩りを始めよう!」
「了解です!」
エウレカが腰のアイテムボックスから『防護テント』を取り出す。
キャンプ地に『防護テント』を立てるのが狩場のルールらしい。『このスペースを使ってます』という目印だ。まさに花見のブルーシートよろしくである。
「へー、やっぱりアイテムボックスってめちゃくちゃ便利ですね」
「うん。超便利だよ。武器やアイテムだけじゃなくて、討伐した魔物なんかも鮮度や品質を落とさないで収納して持ち帰れるからね」
「あー、ならどのみち……ワイバーンを倒したけど俺はアイテムボックスを持ってなかったから素材を持ち帰ることは難しかったのか」
「だねー、頑張ってお金を稼いでソウジンの分も買わなきゃね!」
明確な目標があるというのはいい。俄然、やる気が湧いてきた。
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