第22話 お嬢様の実力

「ソウジン! あたしの戦いを見てて!」 


 エウレカが身に着けている外套を颯爽と脱ぎ去ると、なんと下から白を基調とした騎士装備が現れる。

 さらに少女はアイテムボックスから使い込まれた槍を取り出すと、手に馴染ませるかのようにクルクルと回転させる。

 少女の視線の先ではブルーシザーズの群れが、青く光り輝く苔をむしゃむしゃとむさぼっている。


「最初に【聖姫士クルセイダー】について知ったもらったほうが連携とかとりやすいじゃん?」

「了解です」


 言われてソウジンはブロードソードの柄に添えていた親指を離す。


【————〈ダイヤモンドプロテクション〉————】


 さっそくピンクゴールドの少女ががアビリティを使用する。

 透明な防壁が少女を覆う。いや、ソウジンにも同様の防壁が付与されている。


「これは……防御系のアビリティですか?」

「うん。全体防御アップのバフなんだ」


 内心で『ソロだと宝の持ち腐れですね』と思ったが、空気の読めるエリート奴隷は黙して何も語らないのである。


「それとこれが聖姫士クルセイダーの真骨頂だよ——」



【————〈忠実なる騎士の光槍こうそう〉————】



 瞬間、エウレカの背後に三本の光の槍が顕現けんげんする。まるで背後霊のように眩い槍が浮遊している。


「おー、射出系のアビリティですか?」


「うん。光槍こうそうを魔法のように射出することもできるし、とどめておけば護衛の騎士みたいにしてくれるんだ」


「マジっすか? 自動オート系のアビは熱いな」

「うん! 他のジョブの人たちにも羨ましいって言われるよ!」


 褒められてピンクゴールドの少女は嬉しそうである。

 

「さて、戦闘を開始する前に一応、魔物について説明しておくね」

「ういっーす」


「ブルーシザーズの特徴はなんといっても二つの大きなハサミだよ。切っ先は槍のように鋭く、その挟力きょうりょくは硬い岩をも軽々と砕くから注意だよ」


「外殻もいかにも堅そうですね」


「うん。青い甲殻こうかく重鎧ヘビーアーマーみたく頑丈で、生半可な攻撃じゃ傷ひとつ付けられない」


 少女が槍の切っ先をブルーシザーズに示す。


「じゃあ始めるね! 行けッ光槍ッ!」


 同時、光槍が飛翔。槍のレーザービームが堅い甲殻を物ともせず瞬く間にその青いボディを貫く。

 仲間がやられたことで群れが一斉に少女へと高速のカニ走りで迫る。

 だが、意外にもエウレカは迎え撃つことなく自ら群れに飛び込んでゆく。


 

【――――〈光芒一閃シャイニングトラスト〉――――】



 さながら引き絞った弦から矢が放たれるがごとく。

 空気を震わすほどの強烈な突進。光り輝く少女が堅い群れを紙切れのようにいともたやすく貫く。

 仕留め損ねた魔物は二本の光槍が宙を踊りトドメを刺す。盤石である。


「ソウジン! どうだったー?」


 無邪気な笑顔で振り返るピンクゴールドの少女に黒髪青年は苦笑しながら両手を上げてみせる。お手上げのポーズだ。


「ピンクちゃんやるにゃー!」

「ふん! そこそこやるじゃないか……」


 両隣のパーティーもエウレカの華麗な戦いぶりに思わず手を止める。

 黒髪青年はピンクゴールドの少女に駆け寄り、大地に散らばるカニ肉や魔核コアなどの素材を一緒にかき集める。

 

「お嬢、驚きましたよ。めちゃくちゃ強いじゃないですか」

「えへへ、ありがとう」

「いや、逆に強すぎるかも?」

「どういう意味……?」

「それだけ戦えてしまうと無理してパーティーを組もうとは思わないよなって」

「あー、そうかも……余計なストレス抱えるくらないなら一人でやっちゃったほうが早いやってなっちゃうんだよね……」


 そんな会話をしていると、驚くことに別のブルーシザーズの群れが通路の奥からぞろぞろとやって来て青い苔の群生スポットで食事を始める。

 行列のできる人気店もびっくりの盛況ぶりだ。


「えー、もう次の群れが来たじゃん」

「こりゃ確かに効率がいいな」

「だねー、これならエンドレスで狩り続けられるかも」

「イレギュラーなことが起きない限りはそうですね」

「あ! そっか……なにが起きるかわかんないもんね! 集中力をだけは切らさないようにしよう!」

「了解です。次は俺に任せてください」

「うん。あたしは魔力マナを温存しておく。だけど、バフが切れそうになったら言ってね? 上書きするから」

「承知!」


          ◆◇◆◇◆


【――――抜刀術〈紫電一閃〉――――】


 ブロードソードから放たれた紫の斬撃が青い群れを一刀両断する。


 剣豪ケンゴウ聖姫士クルセイダーの攻撃的コンビはその圧倒的な火力でブルーシザーズの群れを蹂躙してゆく。

 頑丈な甲殻もアビリティを乗せた二人の攻撃にはひとたまりもない。

 焼き立てのパイを切り分けるみたいに青い甲羅がサクッと斬り裂かれてゆく。


(ってか、この繰り返しが想像以上に気持ちがいいんだよな)


 最初は「次は自分が行きます」と「次はあたしの番だね」と丁寧に確認し合っていたのだが、気づくと『高速餅つき』もかくやという阿吽の呼吸でスイッチしながら順番に狩りを行っていた。

 

 小気味いい連携を共同で生み出しているという一体感がたまらない。

 あふれ出したドーパミンやアドレナリンの風呂にでもどっぷりと浸かっているかのような高揚感である。


 だが、止めどない高揚感とは裏腹に魔力マナや体力には限界がある。

 

 洞窟内は景色が変わらない。しかも夢中で魔物を狩り続けているものだから余計に時間の感覚が麻痺してしまう。


「――――あれ……周りに誰もいないじゃん」


 ピンクゴールドの少女が肩で息をしながら周囲を見回す。

 両隣のパーティーもいつの間にか撤収している。遠くを見回しても戦闘している気配がない。青の鍾乳洞は静まり返っている。


「俺たちも撤収したほう良さそうですね」

「うん。実は魔力マナの限界が近いんだよね」

「マジっすか? 言ってくださいよ」


 ピンクゴールドの少女が頬を紅潮させながら「ふぅー」と満足そうに息を吐く。


「だって……こんなに楽しい狩りは初めてだったから……できるだけ長く続けたくてギリギリまで黙ってようかなって……ごめん」


 そんな可愛らしいことを言われてしまっては、なにも言い返せるはずはない。

 いや、むしろ同じ気持ちだ。

 ソウジンも異世界に来てこれほど楽しい狩りは初めてだった。


「確かに最高に楽しかったですね! また明日も来ましょう!」


 少女は碧眼を輝かせる。「うん!」と。 

 外に出るとすっかり陽が落ち、夜空に大きな月が昇っていた。

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