第12話 普段と違う雰囲気だ

「見て見て!本当に鳥居が沢山ある!」


 俺らは今、京都の伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃを訪れていた。

 はしゃぐ橘の前には、伏見稲荷大社名物の一つ


『千本鳥居』


 があった。本当に果てしなく鳥居が続いており先が見通せない。


「ねぇ!全部くぐってみようよ!」

「いやいや、看板を見るとめちゃくちゃ長いぞ?時間内に回りきれないぞ」

「ちぇー……諦めるか〜」


 拓馬たくまたちばなのやり取りの後ろで、俺と篠原しのはらさんはきつねの像に夢中だった。


「至る所に狐の像があるな……くわえてる物もそれぞれ違うし」

「ね!あれは鍵?かな?あっちは巻物!不思議だね〜なんでだろ?」

「事前に調べてくれば、もっと楽しめたかもな」


 その他にも、狐の絵馬やおもかる石なんてものもあった。どちらも願い事に関係する物なんだとか――


 なんて話していると拓馬と一緒にいたはずの橘が俺と篠原さんの間から顔を出し


「ねぇねぇ!二人ともあっちにいなり寿司あるよ!本場のいなり寿司食べようよ!」

「うわ!びっくりしたなぁ……普通に話しかけてくれ」

「結愛ちゃん、いなり寿司ってここが本場なの?」

「そうらしいよ?さっき教えてもらったんだ〜」


 橘はコミュ力お化けとも言われている。

 相手が人なら誰とでも仲良くなれるやつだ。

 拓馬にも声をかけ四人で、そのお店へ向かう。


 話に聞いた通り名物の一つの『いなり寿司』はかなり人気らしく、物凄く並んでた。

 流石の橘もこれには唖然あぜんとしてた。


「うわちゃ〜これは……思ってたよりすごいね」

「やっぱり人気なんだね……結愛ゆあちゃん、どうしようか」

「時間は……まだあるし、並ぼうか……」


 ずっと動いていたい橘でも、やはり大人気と聞けば諦めきれないらしい。

 待ってる間周りのお店を観てると


「え……なにあれ」


 橘の声を聞き、俺が目線の先を見ると――


すずめの丸焼き……って書いてない?」

「書いてるな……雀って食べれるのか?」

「ひぇ……可哀想……」

「商品として売られてるならおいし――」


 バチンと音が鳴るくらいの勢いで、口を押さえられた。


「言わないで?」

「わ、わかった」


 あまりの剣幕に俺は黙るしか無かった。

 少しした後に俺たちの番がやってきて、何とか買う事ができた。


「え?めちゃくちゃ美味くね?」

「ん〜!お揚げが甘い!!」


 俺の人生で食べたいなり寿司の中で一位に輝いた瞬間だった。

 ちなみに、俺は雀の丸焼きは興味があったが、橘が猛烈に拒否をしたので断念した……


 ※※※


 絶品のいなり寿司を堪能した俺たちは、伏見稲荷大社から、歩いて数分程度の場所にある茶道教室にて抹茶と練り切り作りを体験していた。


 やり方を教えてもらったのだが、結構難しい……上手く思い描いた形を作れない。

 それは、他の二人も同じだったようで、自分たちの作った練り切りを見て苦笑いを浮かべていた。


 だが、ただ一人だけ――教えてくれた先生と同じくらい綺麗な練り切りを作っていた。


「うし……こんなものかな」

「結愛……お前めちゃくちゃ手先器用だな」

「ん?そう?結構簡単じゃない?」


 紅葉をイメージして作ったのだろう。

 形も色合いもどれをとっても素人目だが完璧だった。

 その後、先生からも褒められ『えへへ』なんて照れ笑いを浮かべていた。


 その後抹茶をてみたのだが、力が強くてもダメ、勢いが早くてもダメ……思いのほか、繊細さが必要なのかもしれない。


 ここでも、橘が意外にも綺麗に素早く点てていた。それも、普段見ることの無い真剣な眼差しと雰囲気で……


 自分の作った練り切りと抹茶を堪能した後、茶道教室を後にする。


『自分で経験した後にお店が提供してくれる抹茶が飲んでみたい!』


 と、橘の提案で近くにあった抹茶を専門に取り扱っているお店に入る事に。

 各々注文を終えると、話題は先程の茶道教室の話に移る。


「結愛って、良いとこのお嬢様だったりすんの?」

「全然だよ〜普通のサラリーマンの娘です!」

「それにしても結構様になってたというか……」


 拓馬の言葉に俺も便乗する。


「確かに普段とは雰囲気が違ったな」

「結愛ちゃんって結構真面目でお行儀が良い子なんだよ?」

「ちょっ!?かえで!?」


 思いがけない所からの言葉に橘は狼狽うろたえている。


「授業も真面目に受けてるし、ご飯の食べ方も言葉遣いも凄く綺麗なんだよ!」

「ちょいちょい!……え、営業妨害だぞ!!」

「橘、それは自白してるのと同じだぞ」

「も、もう良いじゃん!この話題はやめ!」


 橘の普段見ない慌てぶりは面白かったが、やり過ぎてへそを曲げられても面倒なので、この辺にしとく。


「篠原さんは橘と付き合い長いの?結構詳しいみたいだけど」

「私たち幼なじみなんだよ〜小学生からだけどね」

「え、そうなんだ……てっきり、最近知り合ったのかと思ってた」

「私と結愛ちゃん真逆だもんね!よく言われるよ」


 会話を続けようと口を開いたが、注文の品が届いたので中断せざるを得なかった。

 自分で点てた抹茶も美味しかったが、プロが点てる抹茶の方が何倍も美味しいと感じた。


 ホテルには、十八時までに戻ってくるようにと言われているので、まだ早いが戻ることに。

 軽く話をしながら歩いていると、服の裾を軽く引っ張られたのでそちらを向くと――


「ねぇ、さっき私の事篠原さんって呼んでたけど、名前で呼んで良いよ?」

「いや……俺には少しレベルが高いから、苗字で勘弁してくれ」

「わかった……じゃあ、’’さん’’は要らないから」

「あいよ、次からそう呼ぶ事にする」


「その代わり私は凪くんって呼んでも良い?」

「……好きに呼んでくれて大丈夫だよ」

「ありがとう!明日からまたよろしく!凪くん!」


 篠原は嬉しそうにお礼を言い、拓馬と橘の会話の中に戻っていく。

 名前呼びをしてもいいかと聞かれた際、月音が脳裏をよぎったが――

 断るのも変なので許してしまった。


(なんとも無ければ良いけど……)


「ねぇーシノ!何一人で黄昏たそがれてんの!早くこーい!!」

「ごめん、今行くよ」


 やや不安を抱えてしまったが、俺の楽しい修学旅行は続く。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 第十二話「普段と違う雰囲気だ」

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