SS 事件後の休日 2

 翌日の十三時、昼食を食べてやや眠くなっている所に親友の怒声が俺の鼓膜を刺激する。


なぎっ!お前は一体前世でどんな徳を積んだら、そんな羨ましい状況になるんだっ!」


 胸ぐらを捕まれ前に後ろに揺さぶられる。

 拓馬たくまが怒っている理由は、昨日のショッピング内容にあった。


 ※※※


 ランジェリーショップに行って同級生女子の下着を選び、その後水着のセレクトショップで水着を選ぶダブルコンボは、高校生で経験してる人は少ないだろう。

 更に追い打ちをかけるようにさくら佳奈かな月音つきね


「皆お兄ちゃんの色に染まっちゃった……♡」

「小さい頃から知ってるつもりだったのに……あんな派手な下着が好みだったなんて……♡」

「凪は……意外と大胆……だった」


 ※※※


 これを聞き、最初の状況に至る。


「さぁ?草履ぞうりふところで温めてたんじゃないか?」

「お前の前世は豊臣秀吉だったのか?」


 こんな状況にはなっているが、日曜日のお昼から集まっているのには理由がある。

 昨日、解散前に桜から夏休みの計画を立てよう!と、発案された。その第一回なのだが……


「拓馬〜私の水着気になっちゃう??超セクシーなやつ」

「なるに決まってんだろ!桜はスタイル良いから!何着ても似合うんじゃね?」


「ふーん……拓馬は胸が大きい人だけの水着見れれば良いんだ〜ふーん……?」

「いやいや!佳奈のもすごい気になるぞ?後で、見せてよ」

「凪の許可が下りたらね〜??」

「凪ぃ!俺にも目の保養をする権利があると思うんだ!!」


 もう、好きにしてくれ……。


「さて、冗談はここまでにして、そろそろ夏休みの計画を立てよう!」

「ようやくだよ……」

「今回の夏休みは、この五人で海に行きますっ!!」

「海?前回は2泊3日で京都だったけど、今回は日帰りか?」


 俺の質問に待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる桜と佳奈。


「いいや!今回は来栖家くるすけの所有している別荘をお借りします!海も近いし、行く日によっては花火大会もある!」

「そういえば、行くのは久しぶりだな」

「桜と凪は小学校以来だよね〜」


 なんて、昔話をしていると拓馬と月音が


「べ、別荘??おい凪……何の話だ?」

「佳奈さんはもしかしてお嬢様……??」


 そっか、この二人はわりと最近俺たちと仲良くなったから知らないのか。


「佳奈は来栖財閥くるすざいばつの令嬢だよ。俺らが小学生の頃は一緒に別荘で遊んだりしてたんだ」

「令嬢って行っても別にかしこまらなくて良いよ〜いつも通り仲良くして?」


 佳奈の一言で緊張は溶けたらしい。

 それでも、やや、動揺しているが。


「それでね?八月三日に大きな花火大会があるんだって!だから、八月二日〜四日の日程で行きたいんだけど……どうかな?」

「俺は部活休みだと思うから行けるぞ」

「私も平気〜」

「俺も行ける」


 あと一人、月音の方に目を向けると、やや困った表情していた。桜は焦って


「月音ちゃん、もし都合悪かったら無理しなくても平気だよ!?日程はズラせば平気だし!」

「いや、私も予定は無いんだけど……その……私も行っていいの?」


 気まずそうにそう問いかけられると、皆一瞬顔を見合せた。その後に笑いが起きる。


「え?え?」


 戸惑う月音に対し


「私は月音ちゃんにも来て欲しいんだよ〜」


 と、桜が


「そうそう〜月音ちゃんだけダメ!なんて意地悪しないよ〜」


 と佳奈が賛成の意を示す。


 安心したように笑い月音が


「そっか……ありがとうっ」


 何だかんだ上手くやれそうだと安心した。

 日程の他にも色々決めることはあるが、それは、夏休み入る直前に決めることになった。

 それはそうと……


「夏休み入る前に中間テストあるよな」

「お、おう……あるな」

「も、もちろん忘れちゃいないよ?」

「今年から赤点者は、夏休みに補習があるらしい」

「「補習!?」」


 俺が最近聞いた話に赤点候補の拓馬と桜が声を荒げる。

 この二人は毎回テスト直前に泣きついてくるので、俺と佳奈を含めた四人で勉強会が行われている。


「さてさて……今回の勉強会の開催はいつの予定だ?」

「そんな予定は無いが?」

「おい!見放さないでくれよ!」

「まだ、テストまで時間あるだろ、勉強しろ」

「お前は人間じゃねぇ!鬼だ!」


 反対側でも似たような事が行われていた。


「佳奈ちゃん……月音ちゃん……助けて」

「ん〜あまり甘やかすと凪に怒られちゃうからな〜」

「桜ちゃん勉強出来そうだけど……?」

「はうっ!!」


 何だかんだで勉強会は開くことになりそうだ。

 俺なりに準備は進めておこうと心に誓った。


 ※※※


「今日の夕食は皆で食べよーよ」


 各々リビングでゲームをしてたり、談笑したりする中で桜が言った。それに、拓馬が一番食いついた。


「お、良いじゃん!どこか食べに行く感じ?」

「ん〜それも良いけど……家から仕送りがあってね?流石に二人じゃ食べきれないな〜って」

「なに!?もしかして手料理!?」

「あんまり上手じゃ無いけどね?」

「桜は料理上手だろ!何か必要なもの買ってこようか?」


 チラッと周りを見ても反対意見を持ってそうな人は居ない。

 ただ、五人分を一人で作るのは結構大変な気がするが……と、思っていると


「桜ちゃん!私も手伝うよ、一人暮らしだから自炊もしてるし」

「ほんと?なら、お願いしちゃおうかな〜!」

「任せて……!」


 月音は静かにやる気をみなぎらせていた。

 こうなってくると、俺ら三人はやることが無い。俺と拓馬は料理スキルが壊滅なため戦力外通告を受けている。佳奈はというと


「フンフフフ〜ン♪二人の作るご飯楽しみだな〜」


 上機嫌にキッチンを覗いてた。

 ちなみに、佳奈も俺たちと同じく料理できない側の人間だ。

 流石に、何もしないでいるのは申し訳ないので料理スキル壊滅メンバーで買い出しに行くことに。

 いつも利用しているスーパーに行き、飲み物や言われた物をカゴに入れていく。


「帰りケーキ買ってこうよ〜あそこのお店のケーキ美味しいんだよ〜」

「ん?それもいいな、桜と月音も喜ぶだろうし」

「俺はチョコケーキ一択だね」


 買い物を終えケーキを買い帰宅すると楽しそうな声とともに美味しそうな匂いもしてきた。


「お〜!美味しそう!!桜は知ってたけど、雨宮さんも料理上手なんだね!」

「……一年自炊してるからね……」

「そっか!」


 二人の作った料理は絶品だった。

 桜は知っていたけど、月音が作った料理も負けていなかった。

 その後、買ってきたケーキを食べお開きになった。


 時刻は十九時を少し回っていた。初夏とはいえ、それなりに暗くなっているので、それぞれ送っていくことになった。

 佳奈、拓馬が一緒に帰り、月音は俺が送っていくことになった。


「夕食は口に合ったかな?」

「美味しかったよ、まさかこんな形で手料理を頂くことになるとは思わなかったけど」

「毎回断ってたもんね?」

「手料理を二人で食べるってなんか照れくさいんだよ」


 そこから、軽口を言い合いながら駅までの道のりを歩く。気づくと駅だった。普段よりも短く感じたのは話に夢中だったからだろうか。


「二日間も誘ってくれてありがとう!また、学校でね!」

「ん、気をつけて帰ってね」


 駅の中に走っていく月音だったが、入る前に一度振り向いて手を振ってくる。

 こちらも手を振り返すと満足そうに笑って駅の中に消えていく。

 それを見届けると、俺も帰路に着く。


「ふぅ……」


 安堵した。

 あの事件解決以降、月音が俺に向けてる感情の変化に気付かないほど鈍くはない。

 本人もあまり隠す気は無いんだろうが、大胆に攻めてもこない。

 俺も月音の事は大事に思っている。それは、間違いない。

 ただ……月音が俺に向ける気持ちと俺が月音に向ける気持ちは、同じじゃない。

 もし、今日月音が気持ちを伝えてきたら……と考えたら、怖くて怖くて仕方がなかった。


 でも、モヤモヤもする。

 今はまだ、俺以外とあまり会話をしないが、慣れてきて段々他の男子とも会話するようになった事を考えると……なんかいやだ。

 好意があるから嫌なのか、俺だけが月音の事を知ってる特別感が無くなるのが嫌なのか……


 焦るつもりは無いがあまり引っ張りすぎても良くないだろう……

 こんな事を考えてしまったせいか、楽しかったはずの休日の後味が少しだけ悪くなってしまった。



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