番外編

SS 事件後の休日1

 天下分け目の大イベントが終わり帰宅した俺は、リビングで正座させられている。

 目の前には、鬼の形相のさくらとニコニコと穏やかな笑みを浮かべている幼なじみの佳奈かなが……


「お兄ちゃんっ!なに?この傷!また、喧嘩してきたの!?」

なぎ〜?無茶はしないって約束したよね?」


 月音つきねの名前は伏せつつも、ことの詳細を必死に話した。話を聞いてるうちに怒りを収めてくれたのか、表情も次第に穏やかになっていった。


「って言う訳でこの有様になってるんだけど……許してくれるでしょうか」

「どうする?桜ちゃん?こんなに反省してるけど」

「ん〜……有罪ギルティっ!」


 ダメだったっぽい。


「という訳でお兄ちゃんには、私たちの休日に付き合ってもらいます!拒否権は無し!!」

「……まぁ、そんな事で良いのなら付き合うよ」

「あ!あともう一人誘ってもらうから三人だね」


 何も考えずに了承したせいで俺は、後に深く後悔する事になる。


 ※※※


 翌日、俺は三人の休日に付き合うため「のぞみ町」の駅にいた。桜は佳奈を迎えに行ってから来るみたいなので、俺だけが先に来たという訳だ。

 ちなみに、ここでもう一人と合流する事になってるのだが……

 待ち合わせ場所の噴水近くに行くと、やたらソワソワしてる銀髪美少女こと雨宮月音あめみやつきねがいた。立ったり座ったり前髪を触ったり……せわしなかった。


「おはよう。つ、月音」

「はっ!お、おはよう!……凪」


 あの事件以降、俺らは名前で呼び合うことになった。名前を呼んで挨拶するだけなのに、変に照れくさい。

 そういえば、一つ思い出した事があった。


「ニャンニャンニャニャ?」

「……凪、それ桜ちゃんと佳奈さんの前でやったら引っぱたくからね」

「ごめんって、思い出したからつい」

「本当に恥ずかしい……」


 顔を赤くして軽くポスっと俺の胸を殴る。

 からかいすぎるのも良くないのでこの辺でやめておく。


「前回のも良かったけど、今日の服装も可愛いね」

「あ、ありがとう……そう言ってくれると嬉しい」


 今日の月音の服装は赤のベレー帽に白のブラウスの上から薄手のカーディガンを羽織り、黒のロングスカートと前回とは、また違った雰囲気ですごく似合っている。

 もはや、似合わない服なんて無いのでは?と思ってしまうほどだ。


 俺と月音が話をしてると遠くから、こちらを見てジュースを飲みながらニヤニヤしている女子二人。なんだか凄く既視感のある行動だ……

 こちらが気付くと、二人はゆっくり歩いてきて桜が開口一番に


「いやぁ、十分前には居たんだけどね?二人の世界に入ってるもんだから〜ごちそうさまですっ!」

「お前は何を言ってるんだ……?」


 その後、軽く自己紹介をしてお互い名前で呼び合うことになったらしく、行動開始する時にはすっかり仲良くなっていた。

 桜も佳奈も人懐っこい性格だし、月音もお喋りが大好きだったりするので相性は良かったのだろう。


「えー、では最初に行くお店を紹介します!ランジェリーショップです!!」


 パチパチと佳奈だけが拍手していて、俺と月音は理解が追いついてない。ランジェリーショップってあれだろ?下着だよね?


「なるほどね、じゃあ、俺は外で待ってる感じか?」

「何言ってんの?お兄ちゃんも行くんだよ!男子の意見も欲しいでしょ!」

「男子以前に兄貴だ!」

「お兄ちゃんとなら……私はありだよ……?」

「噴水に突き落とすぞ?」


 間髪入れずに佳奈が俺の肩をトントンと叩く。


「凪〜私も最近可愛い下着欲しいなって思ってたんだ〜」

「そうなのか〜見つかるといいね〜」

「凪が好きなの選んでいいんだよ?」

「見る予定は無いから、自分の好きなのを選びなさい」

「今日の夜……YESだよ」

「なんでこいつが生徒会副会長やってんだよ」


 やや、げんなりしていると少し声をうわずらせながら


「な、凪っ!」

「ん?」

「わ、私も……その……」

「恥ずかしいなら無理して乗らなくて良いの!」


 頭から湯気が出そうなくらい真っ赤な顔で、月音も頑張ろうとしてた。ボケ担当は二人で充分だから……


 今回はのぞみヒルズという商業複合施設しょうぎょうふくごうしせつで買い物をするらしい。

 実際中もすごく広く、ヒルズ内が吹き抜けになっていて上から下まで見通せるようになっている。所々にベンチもあって休めるようにもなってるらしい。

 そうしていると、目的地のランジェリーショップにたどり着いてしまった。


 女性陣は当たり前に入っていくが、俺はそうもいかない。躊躇ためらっていると桜に引っ張りこまれてしまった。

 店内は意外と落ち着いた雰囲気だったが、所々は商品を引き立たせるためか薄暗くなっていたりした。

 周りを見てみると、カップルが多く男性はやや居心地の悪さを感じてそうではあった。


 俺が周りを見てる隙に桜は月音の肩を掴むと


「月音ちゃんのも可愛いの選んであげる!」

「いや、私は……」


 と、言い終える前にこっそり耳打ちされると、徐々に頬を染めチラッと俺の方を見た。そしてまた、頬を染め静かに頷く。


 え、なに?なにを決心したの?


 そのまま、桜と佳奈に連れていかれてしまった。

 俺もこの際、開き直って観察してしまおうと切り替えた。一番近くにあった女性用マネキンを見てみると……


(えと……これは、下着として機能してるの?透けてない?いやでも、誰かに見せる訳じゃないし……あ、勝負下着ってやつか!?なんて言うか……こんなエロいものなのか!?)


 健全な男子諸君なら、同じことを考えるだろう。刺激が強かったが、何故だろう……不思議と見入ってしまう。

 それほどまでにこのマネキンが付けてる下着は魅力的だった。後ろに人が立っていることにすら気づかない程真剣に見てたのだろうか。

 後ろから控えめにちょんちょんと肩をつつかれた。振り返ると、少し頬を染めてる月音が立っていた。


「桜と佳奈は良いものを見繕みつくろってくれた?」

「う、うん……可愛いのオススメしてくれたけど、買わなかった」

「まぁ、無理に買う必要も無いしな」

「それで……凪はそうゆう下着が好みなの?」

「いや、こんなのもあるんだな……って思ってただけだよ」

「凪になら……良いかも」


 そう言われてしまうと、想像してしまうのが男の子なんです。


(これを……月音が……??)


 途中まで想像したが、頭を降って追い出す。

 これ以上はダメだ……


「俺もう出てる……そこのベンチに座ってるわ」

「じゃあ、私も出ようかな〜後は、会計を済ますだけみたいだし」


 俺は月音と一緒にベンチに座って二人を待つ。


「ねぇ〜凄く真剣に見てたみたいだけど、私に似合いそうなのあった?」

「そうだな……入口のマネキンが付けてたやつは色も形も可愛いと思ったな」

「あの白いヤツ?確かに可愛いかも!でも、私に似合うかな……」

「月音は白が似合いそうだなって思って見てたから似合うと思うよ」

「ん!?そ、そうなの?」


 動揺してるのが見なくてもわかる。


「凪がそうゆうなら……今度改めて買ってもいいかな……」


 横目で盗み見ると、俺から顔を背け手で顔をパタパタと仰いでいた。冗談でやったのだが、効果抜群だった。

 そんなやり取りをしてると、会計をしてた二人が戻ってきた。良い物が買えたみたいで、ホクホク顔だった。


「おまたせ〜って月音ちゃん!?どうした!顔真っ赤だぞ!」

「だ、大丈夫……」


 桜と月音のやり取りを聞きながら、次行く場所へと足を向けた。一つ目でだいぶ体力が持ってかれたが、次は……


「水着!!これから夏に突入するんだから必要だよね!」


 そう叫ぶ桜の前には、たくさんの水着ブランドを取り揃えたセレクトショップがあった。


「ここでは、しっかりお兄ちゃんの意見を聞きます!逃げちゃだめだよ?」

「水着なら平気だし逃げないよ」


 下着に比べればどうって事ない。そう思ってたさ……

 すっかり、忘れていたが三人は可愛いだけじゃなくて、スタイルも良い!

 水着とはいえ、刺激が強すぎる!


「お兄ちゃん!これどうかな」


 試着室のカーテンを開けるとホルターネックビキニという首の後ろで紐を結ぶタイプのビキニを着た桜がいた。


「良いんじゃないか?可愛いと思うよ」

「よし!可愛いGET」


 そう言い勢いよく閉めると、次は隣のカーテンが開いた。


「凪〜どうかな?」


 佳奈はフレアビキニと言われるタイプだった


「清楚な感じが佳奈らしくて可愛いと思う」

「ありがとう〜」


 そう言い静かにカーテンを閉める。

 もう、五着目だけど……そんなに試着するものか?

 妹と幼なじみとは言え女の子だ。ドキドキするなと言う方が無理だろ。

 ちなみに、月音はまだ試着室から出てこない。

なんて、思ってたら試着室のカーテンから顔だけ出して


「ねぇ……その笑わないでね」


そう言い、静かにカーテンを開けると……

俺はしばらく見惚れてしまっていた。

月音は、クロスホルタービキニと言われる紐を首の前で交差させてから首の後ろで結ぶタイプのビキニだった。

月音のスタイルが更に際立ってかなりセクシーに見えた。


「……何か言ってよ」

「悪い、すごく似合ってて見惚れてた。めちゃくちゃ可愛いよ」

「……っ!」


何も言わずにカーテンを閉めてしまった。

桜と佳奈は五着も試着して決めたが、月音はたった一回で決めてしまっていた。


「月音ちゃん良かったの?そんなに試着してなかったけど」

「大丈夫、これが気に入ったの」


その後は遅めの昼食をとり、久しぶりにゲーセンで遊んだりした。

ベンチで休んでいると月音がニコニコしながら俺の横に当たり前のように座る。


「どうした?凄いご機嫌だけど」

「見てこれ!桜ちゃんと佳奈さんに教えてもらって書いたの」


受け取ってみると、先程一緒に撮ったプリクラだった。猫のヒゲを描いたり、メッセージが描いてたりと落書きがしてあった。


「凄い楽しそうで良かったよ、プリクラ初めて?」

「プリクラなんて初めて撮ったよ!友達とこうやって遊んだこと無かったから、凄い楽しい……」


そういうと彼女は満足そうに顔をほころばせた。

この笑顔が見れただけで誘った甲斐があったってもんだ。

ここから、月音の交友関係が広がってくれたら嬉しいと思う。

桜と佳奈も戻って来たので、そろそろ帰ろうかと考えていると桜が


「月音ちゃん!明日何か予定ある?」

「え?いや、特に予定は無いけど」

「なら、明日家においでよ!夏休みの予定を組もう!」


俺の気の所為か?夏休みって言ったか?まだ、5月なのに……

月音も同じことを思ったのだろう


「夏休みってまだ先じゃない?そんなに早く決めなくても……」

「いんや!今回は早めに決めないとダメなんだよ!予定無かったら十三時に来て!」

「う、うん!分かった」


勢いに押された感じがあったが、嫌ではないようだ。


「では!明日は第一回夏休みの計画を立てようの会を開きます!ので、今日は解散!」


と宣言し今日は解散になった。

まぁ、途中まで一緒に帰るんだけどね……?


何だかんだで今日は楽しかったし、明日も楽しい休日になりそうだ。


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