東雲凪編

第6話 第2回夏休み計画!!

 季節は流れ七月二十七日

 俺たちは終業式後に、学校の近くのファミレスに来ていた。


「うへぇ〜……やっと、おわっだぁぁ」

「今回のテストムズすぎだろ!習ってねーよ」


 テスト返却から終業式の流れになるので、この二人の反応を見る限り赤点は回避出来たっぽい。

 テスト期間が始まってから、ほとんど毎日勉強会を開く事になった。

 去年に何回か行っているので、各々の苦手分野を把握してるためカバー出来るのはありがたい。


「お前たちのその表情は今回も余裕だったんだろ〜な〜?」

「ほら、怒んないから学年順位教えなよ、ほらほら」


 なぜか、赤点回避組が絡んでくる。


「私は〜一位!」

「俺は二位」

「私は……八位」


 佳奈かなは人差し指を立てながら腕を高らかに上げ、俺は真顔、月音つきねはやや悔しそうに順位を言った。


「けっ!これだから頭のいいヤツらはよ!」

「自慢してんじゃないわよ!」

「お前らが聞いてきたんだろ」


 もはや定番化しつつあるやり取りだが、月音は新鮮だったのか楽しそうに笑っていた。


なぎは〜今回も私に勝てなかったね?今度勉強教えてあげようか〜?」

「良いのか?敵に塩を送る事になるぞ?」

「ライバルには〜もっと強くなってもらわないとっ!」


 俺も今回は手応えを感じていんだが、十点の差で負けた。あともう一歩だった事実が悔しさを倍にしている。


「それにしても、月音は英語が苦手だとは知らなかった、得意そうなのに」

「ハーフだからって英語が得意とは限らないのっ!」


「ハーフは英語が得意」という、俺の偏見は今崩れ去った。

 テストの話題が終わったところで、

「第二回夏休みの計画を立てよう!」の会が開催された。


「場所と日程は前回決めたから良しとして……移動手段とか決めてこー!」

「お〜」

「おー!」

「お、お〜……」


 俺だけ乗り遅れてしまったが、まぁいいか。

 前回は京都だったので、電車で二時間揺られながら行ったことを覚えてる。今回は……


「今回も電車移動にしよう!安いし早い!」

「まぁ、そうなるな」

「とは、言っても途中で降りて歩いたりする必要はあるからね!体力無いやつは、ここで脱落だぁ」


 桜の冗談だと分かりきってるセリフに動揺する銀髪美少女がここにいた。


「え……私体力無いから……どうしよう」

「いつもの冗談だから……」


 移動費の他にも観光したり、花火大会も行くことは決まってるのでお金もある程度必要だろう。俺らは問題無いことはお互い分かっている。佳奈が


「月音さんは一人暮らしって言ってたけど……大丈夫そう?」

「それがね!旅行の件を親に話したらすごく喜んでてね……お金は大丈夫だよ!」

「そっか〜ならよかった〜!」


 旅行の計画は特に問題なく決まった。

 その後は、必要な物の買い出しに行く事になったのだが……


「あれ?東雲しののめさんに来栖くるすさん!こんな所で何してるの〜?」


 と、やや陽気に話しかけてくる男子生徒が一人。別の席にもう一人同じ制服の生徒が居るので、俺らと同じく学校帰りに寄ったのだろう。

 質問に佳奈が答える。


「今は〜旅行の計画立ててたんだ〜」

「旅行?」

「そう〜私たちの恒例行事になってるから〜!」

「良いな〜俺達も混ぜてよ!」


 ため息が出そうになった。

 俺たちの恒例行事だと言ってるのに、なぜ他人が混ざるのか。


「ん〜もう、色々手配しちゃってるから変更は出来ないな〜ごめんね!」

「そこをなんとか!俺達も夏の思い出作りたいしさ!」


 なかなか諦めない男子生徒に、佳奈も桜も苦笑いを浮かべるしか出来ない。

 この二人は、人が良すぎるため直接的に強くは言えない。

 月音も当たり前だが厳しい。

 拓馬もあまり争いを好まない。


「ごめんだけど、諦めてくれ」

「いいじゃんか東雲〜お前らだけずるいぞ〜」

「俺たちと遊びたいなら、別の日に誘ってくれ」


 ――ズキンッ

 心の中に痛みが響く。

 男子生徒の声が低くなり空気が変わる。


「東雲?お前最近調子に乗ってないか?」

「乗ってないけど」

「雨宮さんと付き合えたのが、そんなに嬉しいのか?」

「相手にされなくて寂しいからってねたむなよ」


 俺も変に熱くなってしまい、つい要らない言葉を言ってしまう。


「あ〜わかったわかった、もういいやー邪魔して悪かった」


 そういって、不満気味に席に退散していった。

 重い空気がこの場を包んでいたが


「私飲み物取ってくるね〜」


 桜の一言で霧散した。

 やはり、妹はムードメーカーだった。


「私も行く桜ちゃん」


 桜と月音が席を立つのを横目に俺は、熱を冷ますために冷えたウーロン茶を流し込む。


「すまん凪……俺がもう少し強く言ってれば良かったな」

「ごめんね……凪に嫌な役押し付ける形になっちゃって」

「いや、大丈夫」


 熱は冷めても、心の中に響く痛みと男子生徒の不満を滲ませつつも残念そうな顔が脳裏にこびり付いている。

 そんな俺の心が読めているかのように拓馬が声をかけてくる


「凪!気にしなくていい」

「そうだよ〜あんな空気の読めない人達なんて居ても邪魔なだけだし」


 唐突な佳奈の言葉のナイフにびっくりしつつも


「わかってる」


 としか、俺は答えられなかった。


 ※※※


「何にしようかな〜コーラとメロンソーダ混ぜちゃおっかな〜」


 ルンルンと楽しそうにジュースを選んでる桜ちゃんに疑問をぶつけてみた。


「凪何かあったの?」

「ん?なんか?」

「いや、いつもの凪と様子が違うなって……」

「ん〜……」


 考えるとも言葉に迷っているとも取れる態度を取りながらメロンソーダのボタンを押した。


「お兄ちゃん昔に色々あってね?それで、ちょっと他人に対して過敏かびんになってたりするんだよね」

「ん〜と……?」

「悪く言っちゃうと排他的というか……あまり、自分の落ち着く空間に他人を置きたくないみたい」


 言ってる事も気持ちもわかる……


「でも、神宮寺君とか佳奈さんは?」

「その二人は別だよ」

「心を許してる人だけが大事な人でそれ以外は他人!がお兄ちゃんの考え方なんだ〜」

「なんか……色々辛そうだね」


 私が言えることじゃ無いけど、凄く生きずらそう。

 言ってしまえば、ほとんどの人に心を閉ざしている事になる。


「だから、お兄ちゃんが月音ちゃんと出掛けるって言った事に驚いちゃった」


 と私にドリンクバーの前を譲る。


「あんなに他人と関わることに否定的なお兄ちゃんが!ってね」

「確かに、最初に話しかけたのは私からだったかも」

「勇気あるね〜」

「普通に返事してくれたけど、今考えればあの場にいた私を鬱陶うっとうしく感じてたのかな」

「それはわかんないけど、今仲良く出来てるんだから大事な人リストに加わってるよ」

「そうかな……それなら、嬉しいな」


 後ろにお客さんが並んだので、立ち話もそこそこに席に戻る。

 隣に座っても特に嫌がる素振りもない。

 ほんの少し近寄っても……平気。

 前を見るとさくらちゃんが、ニヤニヤと笑っていたので止めた。

 今回の旅行で、もう少し仲良くなれたらなぁ、なんて思いながら話に耳を傾けた。


 ※※※


 あの後も少し談笑をし、買い出しに出かけた。

 特別必要な物は無かったので、少量の荷物が増えた程度だった。


 別れる前に一言


「宿題終わらせとけよ」


 桜と拓馬たくまだけが顔をしかめた。




 そうして、来たる八月二日俺たちの前には絶景があった。

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