第7話 海!砂浜!そして、美少女!!

「これは……凄いな」


 目の前には広大な大海原おおうなばらが広がっていた。

 住んでる場所が海に面していない為、普段はこんな綺麗な海は見れない。

 俺は水着にオーバーサイズのラッシュガードを羽織はおって波打ち際に立っていた。

 隣からは


「なんか心が洗われるな……さっきまでのよこしまな気持ちは無くなっちまった」


 なんて、何かをさとりそうなことを言っていた。

 拓馬たくまは俺と違い水着のみの姿。普段からきたえているであろう腹筋が輝いていた。


「俺らだけで先にビーチバレーやる?」

「二人でやって楽しいか?」

「なら、サッカー」

「ボールが破裂するぞ」

「間違いないな、なら、先に場所取りしとくか」


 別荘は個人のものだが、ビーチまでは貸切には出来なかったらしく、俺たちの周りにもたくさんの利用客がいた。カップルやお友だちと来ていたり、男達だけで来ている人たちもいた。

 少しだけ、警戒けいかいしつつもパラソルやビニールシートを取り出して準備を終えた。


「俺らは良いけど、佳奈かな達が合流したら大変そうだな〜」


 拓馬の心配もわかる。下手に離れないようにしないとなと心に誓う。

 それから、五分ほど


「おまたせ〜」


 声の方を向くと佳奈が小走りで近寄ってくる。


「うぉぉ!おいおいおい……ここは楽園か?」

「大丈夫、そっちは平気だった?」


 一人興奮してる奴がいるがとりあえず置いておく。


月音つきねちゃんが凄い恥ずかしがっちゃって〜説得大変だったんだ〜」

「まぁ、この人混みの多さを見ればわかる」

「でも、大丈夫!しっかり連れてきたから!」


 そういって横にズレると……恥ずかしそうに胸元を隠す月音がいた。

 桜は後ろで肩を掴みながらニヤニヤしてる。

 あの後調べたのだが、俺が選んだ水着はクロスホルタービキニというものらしく、安定感を持たせつつもセクシーに魅せる事が出来る水着らしかった。


「どうよ!お兄ちゃん好みの月音つきねちゃんは!!」

「言い方どうにかしろよ、まぁ……すごく可愛い」


 そう言うと、月音は頬を朱に染めて視線を逸らす。

 可愛くないわけが無かった。周りの人たちも同じだったらしく、すれ違いざまにチラチラ見てる人がたくさん……


雨宮あめみやさんも凄い可愛いけど!佳奈もさくらもすごい似合ってる!」


 復活した拓馬がそう言うと


「凄いおまけ感あるよね〜その言い方〜」

「どこが似合ってるか三十文字以内で語って見せろ??」


 と、褒めたはずなのに二人に迫られて色んな意味でアタフタしてた。

 ふと、隣を見ると月音が回りをしきりに気にしていた。


「大丈夫?やっぱり人前だとしんどい?」

「うん……ちょっと視線が嫌かも」

「結構露骨な視線もあるしな、ちょっと待ってて」


 そう言い、自分の着てたラッシュガードを羽織はおらせる。


「嫌だったらごめんね、これで多少マシになると思う」

「ううん!嫌じゃないよ!……ありがとう!」


 オーバーサイズだったため月音には、ちょっとブカブカだけど……しょうがない。


「ただ、可愛い水着が見れなくなるのは残念だな」

「後で……思う存分見せたげるよ?」


 そう、悪戯いたずらっぽく笑い少しラッシュガードのジッパーを下ろす。それが妙になまめかしくになってつい顔を背ける。

 自分の行動に疑問を覚える。


(なんで俺は、?)


 だが、桜に呼ばれたことで、そんな疑問は波の音と共に流されてしまった。


「ビーチバレーしよう!」

「よっしゃ!乗った!」


 活発的な二人は早速遊ぶためにバレーボールを手に持つ。

 現在五人なので、フェアな戦いにするなら一人は余る事になる。

 なので、俺が荷物番を買って出る。

 チームは、

 桜&月音ペア

 拓馬&佳奈ペアになったらしい。


「ただ、勝負するだけじゃつまらねぇ!負けたチームは罰ゲームだ!」

「良いよ?何にする〜??」

「そっちが負けたらお昼奢りな!」

「じゃあ、そっちが負けたら拓馬が佳奈ちゃんへの愛を叫びながら砂浜ダッシュね」


 鬼がいた。

 罰ゲームの重さが明らかに釣り合って無い。流石に断るだろうなと思っていたが


「良いぜ!それでやろう!」


 乗ってしまった。

 勝てると踏んでの判断だと思うが……果たして……

 ちなみに、俺は荷物番と審判をやる事になった。

 と言いつつも、特にやる事はないのでパラソルの下で寝転がる。

 旅行の前に宿題を終わらせようと数日の間、徹夜てつやだったのでかなり寝不足だった。

 旅行初日の電車の中で寝る訳には行かなかったが、今になって絶好のチャンスが訪れた。

 パラソルの下なので、直射日光も当たらない。気温もちょうど良く、少し微睡まどろみつつあると


「や〜ん♡怖い〜♡」

「おい!佳奈ぁ!今の取れただろ!」

「思ったより月音さんのスマッシュが強すぎて〜♡」

「お前……わざとか?わざと負けようとしてるのか!?」

「拓馬が私に愛を叫びながら砂浜を走る……見てみたいじゃない?」

「お〜い!!審判!味方が利敵行為りてきこういしてる!!」


 俺は、寝転んだ状態で腕を上げ人差し指と親指を丸になるようにくっつけた。ルール違反では無いの意味を込めて。


「審判がOKって言ってるから大丈夫!!」

「覚えてろよ!お前にも愛を叫んでもらうからなぁ!」


 俺も巻き込まれてしまった……だが、拓馬が勝てば問題ない。勝利を願いつつ静かに意識を手放した。


 ※※※


 目を開けると暗闇の中にいた。

 俺の前には小さくて泣いている子供がいた。

 何かを言っているが聴こえない。

 だけど、どこか懐かしいような……見覚えのあるような子供だった。

 どこで見たのか……思い出せない。

 声をかけようと手を伸ばした時、ヒンヤリとした感覚で意識を現実に引き戻された。


 ※※※


「うわ!」

「おはよう?お昼寝も良いけど、熱中症になっちゃうよ?」


 そう、月音に声をかけられた。

 顔の隣には冷やされた水のペットボトルが置いてあった。

 受け取って口をつけると、思ってた以上に体は水分を欲していたみたいで一気に半分ほど飲んでいた。


「水ありがとう、他のみんなは?」

「お昼ご飯買いに行ったよ〜ちなみに私たちが勝ったよっ!」

「おめでとう!流石に拓馬も三人相手はきつかったか」


 その後、買ってきてもらったご飯を食べ終えると、桜と拓馬は海に向かって走っていった。

 佳奈と月音は、ビーチバレーで疲れたみたいでパラソルの下で休んでる。


「凪は海に入らないの?」

「…………入らない」

「波打ち際まで行ってみたら?流石に入らないのは勿体ないと思うよ?」

「…………いや、見てるだけで平気だよ?楽しんでるから」


 絶対に海に入らないと言う俺に首を傾げる月音と隣でクスクス笑う佳奈。


「月音ちゃん?凪はね〜水が苦手なんだよ〜」

「おい、バラすなよ」

「え!?凪って水苦手なの?なんで??」

「小さい頃、家族と行ったプールでおぼれた……それ以降、水は嫌い」

「運動神経良いのに……意外な弱点みっけ」

「悪用するなよ?」


 その後、俺を除く四人はたくさん遊んだみたいでクタクタになっていた。

 最後は拓馬の罰ゲーム


「俺はぁぁぁ!佳奈を愛してるぅぅぅぁぁ!」


 と、叫びながら誰もいない砂浜を全力ダッシュで締めた。それに対し佳奈は


「ごめんね〜ちょっと、応えられないな」


 圧倒的に無慈悲だった。

 片付けをして帰ろうとした時、


「ねぇ凪、ちょっとこっち来て?」

「なら、俺たちは先に帰ってるからな〜あまり、遅くなるなよ〜」


 拓馬達は先に帰り、俺は月音の元へ。


「どうしたの?」

「もうちょっと、海で遊んでいこうよ」

「いや、だから、俺は――」

「良いから良いから」


 そう言って、波打ち際まで引っ張っていく。無意識に身体が強ばる。


「手握っててあげるから、ね?怖くないよ」

「俺は子供か?」

「水を怖がってるなら子供かな〜」


 煽られても怖いものは怖い……そう思ってると、ゆっくり一歩ずつ手を引かれていく。そうして――


「ね?怖くないでしょ?」


 足に触れる水の感覚は何とも言えないが、思ったほど怖いものではなかった。

 スルりと月音は手を解いたが、それに気づかない位に目の前の夕陽に夢中だった。


(綺麗だなぁ)


 と、思っていると


「えいっ」

「うわっ、しょっぱ!」


 不意に水をかけられた。月音はニコニコと笑っており、既に第二波の準備をしてた。


「ほれほれ〜苦手な水の味どうだ〜?」

「しょっぱかった、けどもう苦手じゃないぞ」


 そう言い、月音に水をかける


「うわ!やったな!」


 それからは夕陽を背景に水の掛け合いをして遊んだ。


「ふは、ベッチャベチャだ」

「誰かさんが水をかけてくるから」

「お互い様でしょ?」

「そうかもしれないな」


 そして、別荘に帰るために歩いていると


「誘ってくれてありがとうね」

「誘ったのは桜だけどな?」

「私が言ってるのは凪が仲良くしてるグループに誘ってくれてありがとうって」

「ん?あぁ……構わないよ、俺が月音も居て欲しいって思ったからね」

「や〜と青春っぽい事が出来たぁ〜!」

「水の掛け合いが?」

「そう!ある意味定番でしょ!」


 そう、月音は楽しそうに別荘に着くまで次にやりたい事を話していた。


 夜は別荘の敷地内でBBQだった。

 事前に野菜や肉を切ったり、お米を研いでおいたりと準備をしていたので、そこまで苦労はしなかった。


「ちょっと、拓馬!その串!肉しか無いじゃん!」

「一本くらい良いだろ〜!ケチケチすんなって」

「じゃ〜あ〜?拓馬には、この余った野菜全部食べてもらおうかな〜??」

「おい佳奈!鬼みたいな事するなよ!」

「あ、私野菜食べるよ?」

「月音ちゃんダメだよ!拓馬を甘やかしたら!」


 この、ワイワイしながら準備するのも醍醐味なんだろうなと思いながら火を起こす。

 その後も拓馬が肉しか食べなくて桜が怒ったり、月音が意外と面倒見が良くて食べ物を取り分ける為にせっせと動いてたりと、色々あった今日も何事もなく楽しく終わった。


 明日は夜から花火大会があるようで、明るいうちに観光をして、その後浴衣の着付けをするらしい。


 たしかに、青春っぽいなぁと俺も感じていた。

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