第8話 花火大会!そして……

 海を満喫した翌日、俺たちは国際通りに来ていた。

 午前中いっぱいは、食べ歩きをする事になった。国際通りはスイーツやグルメなどが揃っていると有名らしい。


「は〜天気も良いし、絶好の観光日和だね〜」

「初めて来たけど、良いところだな」


 俺とさくらは初めて来たが、他の三人は来た事があったらしい。それでも、俺たちと同じく感嘆の声を上げていた。

 有名なグルメとこの街並みを味わえるのは、結構な贅沢かもしれない。


「見てみて!あれ美味しそう!」

「ジェラート?名前しか聞いた事ないな〜食べてみようぜ!」


 そう言って桜と拓馬たくまがジェラートのお店へ。

 月音つきねに服の裾を引っ張られ


「ねぇ、なぎ?あれかき氷かな?」

「ん?確かに……なんだろう」

「食べてみよ〜よ!」


 注文をし作っている所を見ると、かき氷ではあるが、ただのかき氷じゃないっぽい。

 俺はイチゴ、月音はマンゴー、佳奈かなはパイナップルのソースを選んで受け取った。

 適当なベンチに腰かけ食べてみると、見た目よりもフワフワしていて甘すぎなくて美味しい。


「美味しいけど普通のかき氷じゃないっぽい?」

「さっき聞いてみたらね?牛乳ベースにココナッツミルクと練乳を混ぜて凍らせて削った物なんだって〜」

「それだけ、甘そうな物混ぜてるのに甘さ控えめになるのか」

「ね〜?不思議だよね〜」


 お互いのかき氷を一口ずつ貰い、それぞれの味を楽しんだ。


「あの二人どこ行ったんだ……?」


 目を離した隙に、桜と拓馬を見失ってしまった。あの二人なら大丈夫だと思うけど……

 その後もあれ美味しそう!これ可愛い!と、色んなお店を回っていた。

 何とか二人と合流し、昼食の相談をすると満場一致でソーキ蕎麦という事になった。


「ソーキ蕎麦も初めて食べる〜!楽しみ!」

「桜……お前さっきいっぱい食べてたのに……?」

「スイーツは別腹でしょ?食べれるよ!」


 どうやら、はぐれている間も食べ歩きはしていたらしい。


 初めてのソーキ蕎麦は美味しかった。

 蕎麦という名前だったので、そば粉を使った麺なのかと思っていたが中華麺が使われていた。

その他にも、甘辛く味付けされた骨付き肉がトッピングされていて、シンプルなのに味わい深くあっという間に無くなってしまった。


「私もソーキ蕎麦って初めて食べたけど、こんなに美味しいんだね」

「ね〜お肉も美味しかった!」


 月音と佳奈も満足したらしくニコニコと感想を言い合っていた。


「着付けの時間もあるし、そろそろ戻るか?」

「そうだね〜そうしよっか」


 そうして、観光を楽しみ別荘に戻ることになった。

 別荘で浴衣の着付けを自分でやってみたのだが……これが、結構難しい。

 よれてしまったり、簡単に崩れてしまったりと上手くいかない。

 結局、お手伝いさんが着付けの手伝いをしてくれて何とか終えることが出来た。


「や〜簡単だと思ってたんだけどな……」

「やってみると結構難しかったな」

「凪は器用だから出来ると勝手に思ってたわ」

「やったことないからなぁ」


 と、話しながら別荘内の談笑スペースに戻ると、既に女性陣が待っていた。


「遅かったね〜普通は、女の子が遅くなるんだけど?」

「や〜自分でやってみたら結構難しくてさ〜」

「着慣れてないと大変だよね〜」


 と、ニコニコと笑う佳奈は紫色で紫陽花あじさい柄のお姉さんっぽさを感じる浴衣だった。普段よりも可愛らしく見えるのは浴衣のお陰なんだろうか。


「ねぇ!どうかな??似合うでしょ!」


 と、桜は腕を広げクルっと回ってみせる。

 普段から明るい桜はピンク色で桜柄の可愛らしい浴衣だった。柄は自分の名前と同じ柄にしたんだとか。


「な、凪……どうかな?」


 そう控えめな聞いてくる月音は、少し恥ずかしそうに腕を広げる。黒色で月音の大人っぽい雰囲気を引き立て朝顔あさがお柄で可愛らしさも出ている。


「すごく可愛いよ、普段黒色の服を着てる所見ないからなんか新鮮だね」

「ありがとう……えへへ」


 笑う彼女を見てると、どうして俺も嬉しくなるんだろう。

 俺たちが時間を使ってしまった為、予定より少し遅れてしまったが、会場に向かう事にした。

 会場に近づくにつれ、人が多くなる。


「昼間とは打って変わって人が多いな……」

「これ、はぐれたら終わりだね……」


 なんて、昼間はぐれた組が言っている。


「ね!ね!射的やろ〜!」

「良いな、やるか」

「凪の〜かっこいい所見てみたいな〜??月音さんも見たいよね?」

「見てみたい!」

「わ、わかったよ……やってみる」


 佳奈にあおられ、その気になってやってみるが……

 射的が終わった俺の手には、キャラメルの箱が握られていた。


「凪かっこわる〜い」

「二つ目の弱点みっけ?」

「やってみろよ……難しいから」


 別の場所では


「「だぁ〜!割れたぁ!おじさんもう一枚ちょうだい(ください)!」」


 型抜きに悪戦苦闘していた。


「ねぇねぇ……凪、佳奈さん」


 と、浴衣の裾をクィクィと引っ張られると月音がお面を指さしてた。


「あれ、買わない?」

「あ〜良いね!お祭りと言ったらお面だよね!」

「確かに……買おうか」


 人混みをかき分け近寄ってみると、結構種類があった。


「ん〜……悩んじゃうね」

「俺はこれ」

「私はこれがいい」


 と、狐のお面を手に取る。続いて月音も猫のお面を取った。


「なんで二人共そんな早いの〜?もっと悩もうよ〜」


 と言いつつ、佳奈はひょっとこのお面を選んでいた。

 買ったお面を付けつつ、次の屋台を選んでいると悔しさをにじませて拓馬と桜が帰ってきた。


「くそ〜……後もうちょっとだったのに」

「型抜き難しすぎぃ〜クリア出来る人いるの?」


 どうやら、結構粘ったけど成功しなかったらしい。


「桜、拓馬、わたあめ買ってくるけど居る?」

「わたあめは要らないかな〜おれたこ焼き買ってくる!」

「あ、私食べる!フランクフルト買ってくるけど、食べる?」


 と、各々食べたいものを買いに行くことに。

 俺はアメリカンドッグを買いに一人行動することになった。

 拓馬と桜は比較的近くにいるし、月音は佳奈と一緒に行動してるから、離れても平気だろうと判断したからだ。


 人混みに揉まれながらなんとか、買って戻ると月音と佳奈がいなかった。


「あれ?二人は?」

「あ〜ラムネ飲みたいって買いに行ったぞ」

「お兄ちゃん!一口あげるからアメリカンドッグ一口ちょうだい!」

「はいはい」


 と、俺は少しみながら、手に持っていたアメリカンドッグを渡し、俺もフランクフルトを一口貰う。

 ちょうど、その時ラムネを人数分持った月音と佳奈が合流した。


「座れるところ探してみる?とりあえず、食べ物は沢山買ったし」


 俺の意見に全員が賛同し、歩き回ること五分。

 神社の階段に腰を落ち着かせた。

 他にも人がチラホラ居たので、多分大丈夫だろう。


「はい、これ凪の分」

「ん、ありがとう」


 と、月音からラムネを貰う。


「どうかした?なんか顔についてる?」

「……いや、何でもない」


 渡されたあとも顔を見られていたので、聞いてみたのだが……少し弱々しく笑い、自分のラムネに口をつける。

 多少疑問に思いつつも、アメリカンドッグをかじった。


 ※※※


 私のラムネが飲みたいって我儘に付き合ってくれた佳奈さんに感謝しつつ、人数分のラムネを買い、合流するために人混みを掻き分けつつ進む。


「月音さん、人混み辛くない?辛かったら言ってね?」

「ありがとう……大丈夫だよ!」

「そっか!良かったよ」


 凪達が見えたので少し歩調を早める。

 先程まで冷やされていたラムネを頬にくっ付けたら凪は驚くかな、なんて考えてた。

 けど、私は足を止めてしまった。

 私が見た光景が少しだけ信じられなかったから……


(凪が……?)


 他の子より感情表現が乏しい事は分かってたし、別に気にしたこともなかった。だって、凪は凪だし。

 でも、ふと思った。


(そういえば私……凪の笑ったところ見た事ないなぁ……)


 一度気にしてしまうと、複雑な気持ちがどんどんと膨れ上がってくる。


「佳奈さんは凪と幼なじみなんだよね?」

「うん?そうだよ〜中学は違うけど、保育園から一緒だしお家も隣同士だったから」

「凪って笑う事ある?」

「凪?よく笑うよ?怒ったり泣いたりは見た事ないけど」


 一縷いちるの望みにかけて聞いてみたけど……現実を突きつけられた気がする。


「どうかしたの?」

「ん〜少し気になっちゃったから」

「凪は感情表現乏しいからね〜」


 この後、楽しみにしてた花火が見れるのに、ちゃんと楽しめるか不安になっている私がいた。


 ※※※


 打ち上げ時間になり、予定通り順番に花火が打ち上がる。色とりどりの花火や色んな形をした花火が打ち上がり、その度桜や佳奈が


「すごい綺麗!」

「地元の花火とは規模が違うね〜」


 と、声を上げる。

 確かに、地元の物と比べると全然違う。

 俺も声をかけようと隣の月音を見る。

 そこには、花火に照らされた少し寂しげな月音の顔があった。

 そんな顔を見てしまうと、言葉もかけることが出来ず再び花火に目を向ける。

 その後の花火に、俺は少し味気なさを感じてしまった。


 花火が終わり、何とか別荘まで帰ってくる。

 朝から動きっぱなしだったので、疲労が一気に押し寄せてきたのか、旅行最後の日は談笑することも無く、各々の部屋に戻っていった。


 翌日は午前中少しだけ観光をして、帰りの電車に乗り込む。

 片道三時間もかかるので、途中でみんな疲れて眠ってしまった。

 ただ、俺は電車の車窓から流れる景色を眺めながら、昨日の月音の顔を思い出していた。


(俺、何かやったかな……)


 考えても分からないので、そのまま景色を眺めていた。


 三時間揺られ続け、腰が痛くなったがようやく帰ってこれた。

 駅構内から出るために歩いていると


「私って……凪に信用されてないかな」


 俺を含め四人が月音の方へ振り向く。


「月音……?」

「いや……その……私見ちゃってさ」

「……見た?なにを?」

「凪が


 いつだ?記憶にない。

 俺の動揺を他所よそに月音は続ける


「……花火大会の時、私と佳奈さんが合流する前に凪が笑ってる所を見ちゃって……」

「…………」

「で、佳奈さんに聞いてみたら、よく笑うって教えてくれて……」


 佳奈が口に手を押さえ、目を見開く。


「……私、凪の笑っている所見た事ないなぁって思っちゃったら、そればかり気になっちゃって……」

「…………」

「気に触ったらごめん。私はまだ凪の考えていること分からなくて……佳奈さんや神宮寺君みたいに長く居れば雰囲気で分かるかなって……」

「……思ってたんだけど、しっかり笑ってたんだね……」


 なんて言えば……否定しなければ……そう思うが、口は開けど言葉が出てこない。


「……えと……違くて……私も皆と同じ対応をして欲しいなんて思ってなくて……その……」

「アハハ……なんて言えば良いのかな……変な事言ってごめんね!楽しかったのに後味悪くしてごめん!」

「旅行誘ってくれてありがとうね!また、夏休み遊ぼ!じゃあ!」


 そう言うと足早に電車の方へ歩いていく。


「雨宮さん!!」

「月音ちゃん!?」

「月音さん!」


 三人が引き止める為に叫ぶが、俺だけが何も言えず黙っていた。


 ※※※


 帰りの電車の中で泣きそうになるのを、下唇を噛んでグッと堪える。

 言ってしまった……困らせてしまった……

 後悔の念がグルグルと渦巻く。

 皆の元を去る時、三人の声が聞こえた。でも、一番聞きたかった声だけが……聞こえなかった。


 家に着きソファに荷物を放り捨て、ベットに倒れ込む。


(謝らなきゃ……楽しかった旅行を台無しにしてしまった。もし、私のせいでグループがバラバラになったらどうしよう……)


 なんて、今更になって思う。


(私って……こんなに面倒臭い女だったんだ。今まで、こんな風に思った事無かったから知らなかった)


 謝ろうと携帯を手に取ると、桜と佳奈からメッセージが入っていた。


『旅行楽しかったね!夏休みまた遊びに誘うね!今回はお兄ちゃんが全部悪いから!キツく叱っとくから月音ちゃんは気にしないで!』


「家に着いたかな?また遊ぼうね!私のせいで追い詰めちゃったみたいでごめんね。ただ、今回は凪に非があると思うから気にしなくて良いよ」


 そのメッセージに私も謝りの返信をして画面を閉じる。


「恋愛って辛いんだなぁ……」


 そう吐き出すように呟いても、心のモヤは晴れてくれなかった


 ※※※


 俺は公園のベンチで頭を悩ませていた。

 拓馬は俺の前に立ち、桜はなんとも言えなさそうな顔をし、佳奈は申し訳なさそうにしていた。


「どうする?凪……今回はだぞ」

「分かってる……黙っててくれ」


 無意識に言葉がキツくなってしまう。


「月音ちゃんの言葉は結構お兄ちゃんに刺さったみたいだね〜」

「ごめん……余計な事言っちゃって……」

「いや、良いんだ……俺が悪い」


 桜の言う通り、正直効いてる。

 俺なりに月音と向き合ってきたつもりだったけど……


「やっぱり、雨宮さんに話すべきなんじゃないのか?」

「…………はぁ」

「お兄ちゃん……月音ちゃんなら大丈夫だよ!」

「考えさせてくれ」

「おい!そんな事言ってまた――」

「時間が欲しいんだ。今回は逃げないから」

「…………わかった」


 そう言ってそれぞれが家に向かって足を動かす。

 最後の月音からの「またね」は、今まで一番遠く感じた。

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