第13話 「前向きに……」
時刻は十七時五十分、ホテルに戻ってくると部屋の鍵を受け取り、早速中に入る事に――
「おー!和室だ!和室の部屋は初めてだ!」
「
「俺らが一番乗りだったみたいだな!」
四人一部屋という風に振り分けされており、俺らの他に後二人が来ることになってる。
と、話していると――
「お?
「俺らわりとギリギリだったしな」
そう言って、2人の男子生徒が入ってくる。
一人は『
拓馬と同じサッカー部でポジション争いをしているそうな。
身長は拓馬より低いが女子ウケしそうなルックスと穏やかな声色が特徴な男子だ。
「ギリギリまで楽しんでんな〜京也」
「乗る電車間違えたんだよ……こいつのせいで」
「ごめんて!」
もう一人は『
野球部に所属していてルックスはそこそこだが、持ち前の明るさとややお調子者感ある雰囲気でクラスでも人気のある生徒だ。
これでも背番号一番でエースを務めている。
「なーにが『俺について来れば安心だー』だよ」
「行けると思ったんだ!でも、楽しかったろ?」
「まぁ……悪くはなかった」
このやり取りだけでも、仲の良さが伺える。
今日だけは、各々自由行動中に夕食を済ませることになっていたので、そのまま大浴場に行く事に――
「前から思ってたけど、東雲君は髪上げてた方がカッコイイと思うよ?」
「そうか?試した事が無いから……やり方も分からないし」
「俺道具持ってきてるから明日やってあげるよ」
「いやいや……良いって!めんどうだろ」
「僕に任せてくれれば大丈夫だから!ね?」
「わ、わかった……よろしく頼む」
高橋に押された感があるけど、修学旅行限定と考えればやってみるのも良いかもしれない。
「なんなら、髪染めちゃえば?」
「はぁ……一応聞くけど何色だよ」
「凪は……グレーとか似合うぞ」
「それなら黒のまんまで良いだろ」
正直髪色まで変えたいとは思わないしな。
消灯時間までは自由時間なので、ホテルの一階にあるお土産屋さんに足を運んでみる。
お風呂上がりだけど、部屋行ってから戻ってくるのも面倒なので、そのまま入ることにした。
店内をブラブラしてると――
「あ!
お風呂上がりだろうと思われる
濡れた髪にやや火照って赤色に染まってる頬……まだ、暑いのか館内着を着崩してる姿は妙に色っぽい。
「いや、ただ見てるだけだよ、普段見ない珍しい物が置いてるからさ」
「確かに!こうゆうのも旅行の
「篠原はお土産屋さんに用事あったのか?」
「ん〜ん、凪君が見えたから来ただけだよ?」
篠原の方が背は低いため、やや上目遣いになりにこやかに笑う。
普段から美女達に囲まれてるせいで感覚が鈍っているが、篠原も充分可愛い部類に入るだろう。
「俺はお土産じゃないぞ?」
「アハハ!凪君って冗談言うんだ!話したりなかっただけだよ」
「言われてみればあまり話せてなかったな」
「まだ、外出ても良いみたいだし話そうよ!」
アイスを二つ買い、外のベンチまで移動し腰掛ける。
ホテルの入口から死角になっているため、全然気づかなかった。
アイスを手渡すと――
「ありがとう!後でお金返すね」
「別にいいよ?大した額じゃないし」
「そう?……わかった、じゃあ甘えちゃおうかな」
「そうしてくれ」
俺らが座った位置から、ちょうどライトアップされたお城が見えた。
かなり遠いがそれでもかなり綺麗に見える。
そこから他愛ない話が続いた。お互いの趣味や兄弟の事、何が好きで何が嫌いかなど――
「そうだ!聞いてみたいことがあるんだけど……良い?」
「そんなに改まって聞かれると身構えちゃうんだけど?」
「雨宮さんと付き合ってないって本当?」
俺の周りだけ空気が凍った。
「本当なんだ」
「もしかして、カマかけた?」
「正解!まだ、信じてない人がいてさ?私も気になっちゃって」
「黙っててくれな」
「大丈夫だよ!言ったら大変なことになるだろうしね」
篠原はベンチから立ち上がると『もう中入ろ?』と言い、俺の手を引く。
流石にホテルの中に手を繋ぎながら入るのはマズイので、そっと手を離すと名残惜しそうな顔を見せるが――
「お話してくれてありがとね!またあした!おやすみ〜」
直ぐに普通の笑顔に戻りエレベーターまで走って行ってしまった。
俺も時間を置いてエレベーターに向かった。
※※※
「おい凪!どこ行ってたんだよ〜」
「悪い、篠原と話してた」
「ほう?何を話したんだい?」
「まぁ、色々だよ」
そう、適当にはぐらかしながらベットに腰掛ける。
「よし!全員揃ったし恋バナしようぜ!」
「まぁ、修学旅行と言ったらだよね」
「俺は東雲に聞きたい!!」
瀧本の言葉に相槌を打ってるのは、高橋だったのに俺に質問の矛先が向いた。
「な、なんだよ……」
「つまり!
「どこまで?」
「そうだよ!お前と雨宮さんが付き合い始めたって言われてから、四ヶ月!何も無い訳無いよな?」
「別に……本当に何も無いよ」
大体付き合ってないのに、何処までも行けるわけが無いだろ――
「嘘だろ?手は繋いだか??」
「どちらかから一方的になら」
「キスは!?」
「してない」
「セック――」
「バカか!してるわけねぇだろ」
一瞬部屋の中が静まり返る。
「あ……ごめん、言い過ぎた」
「いやいや!東雲も乱暴な言葉使うんだな!」
「拓馬とはわりとこうだからつい」
「前まで取っ付き
「そもそも、付き合ってない」
「「え?」」
事情を知らない高橋と瀧本が固まる。
なるべく言わない方が良いのに、この二人になら大丈夫と思った自分がいた。
「てことは雨宮さんはフリー?」
「そう言うこと」
「いやいや!なんのドッキリ?」
「じゃあ、東雲君達は付き合ってないのにクラスでイチャイチャしてたと?」
「そんな事した覚えは無いんだけど……」
瀧本から詰められたと思えば、高橋からも詰め寄られる。
呆れた拓馬は――
「そいつ今悩んでるだと、雨宮さんの事を異性として好きかどうかわからんって言ってる」
それを聞いた瀧本と高橋は悪い笑みを浮かべ――
「てことは、俺らにも可能性があるわけだ!」
と、滝本が。
続けて高橋も
「雨宮さん最近凄く雰囲気が柔らかくなって、喋りやすくもなってるし男子と仲良くなるのも時間の問題だね」
「おい……?何を言ってるんだ?」
「何って雨宮さんと仲良くなるための手段を考えてるんだよ?もしかしたら、雨宮さんは僕の気持ちに応えてくれ――」
「ダメだっ!」
ついムキになってしまった。
ハッとして、口を手で押えたが遅かった。
「ふっふっふ……引っかかったなバカめ!」
「東雲君って意外と単純だよね」
「誰かに取られたくないって気持ちがあるんなら、もう好きだろ告れよヘタレ!」
「もう、きっと誰も雨宮さんに見向きもされないよ?後は気持ち次第じゃない?」
「だそうだ、少しは前向きになれたか?」
恐らく好きになっている自覚はあった。
それと同時に、気持ちを伝えて関係が崩れるのではないかという怖さもあった……
けど、改めて誰かに取られるかも知れないという事実を突きつけられると――
「うん……少しだけ前向きになれたよ」
「少しかよ!!」
「これは……時間がかかりそうだ」
三人が肩を竦めているのを俺は苦笑いを浮かべながら見ている事しか出来なかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第十三話「前向きに……」
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