第41話「今昔之感」


 ――十二月三十一日 年末



「たくさん遊んだな~今年も悔いが残らなさそうでよかったぜ」

「わたし、残りの時間はコタツの中で生活する……」


 下半身はコタツの中、上半身はこたつの天板に突っ伏している状態の拓馬と桜は、すでに今年をやりきった顔をしてる。


「おに~ちゃん、ミカン取って~」

「自分で取るって選択肢は無いのか?」

「な~い」


 魔性のコタツに魅了された人間はこうなる。何を言っても聞かないので、黙って何個か渡す。


「剥いて~」

「それくらい自分でやれ」


 駄々っ子を放っておいて、月音と佳奈と合流し、一時中断したババ抜きを再開する。


「この雰囲気~年末だね~」

「そうだな」

「月音ちゃん、ババは私から見て右から三番目だよ」

「勝手に見るな、そして、教えるな」


 佳奈の隠す気のないイカサマにやられ、俺は三連敗という大敗を喫した。


「凪、罰ゲームね~全員分にアイス買ってきて~」

「どの口が言ってんだ?ていうか、なんでアイスなんだよ」

「この、つやつやな口~!だって、寒い時ほどアイス食べたくなるじゃん」

「そんなもんか」


 イカサマされたとはいえ、負けは負けだ。

 黙って、欲しいものを聞いてコンビニまで走ることにした。



 ◇



「おおぃ!スターの状態で近寄ってくんな!」

「丸腰の拓馬が悪いんだも~ん」

「あ、月音ちゃんに追いついた~甲羅投げてもい~い?」

「だめ!やっと最下位から抜け出せたんだから!」


 アイスを平らげたと思えば、某カートゲームで熱くなる四人。

 俺は、この手のゲームは見てる方が好きなので不参加だ。


「だ~はっは!よっしゃ!連続一位!」

「ちょっと拓馬!女の子相手に本気になって恥ずかしくないの!?」

「勝負の世界に男も女も関係ない!」

「拓馬~女の子に優しくしないとモテないよ~?」

「神宮寺くんは、優しい男の子かと思ってたのに……」


 月音も拓馬相手だと、少しだけ強気に出れるようになってきた。これは、良い兆候だろうな。

 三対一という、圧倒的不利な状況で拓馬のとる手段といえば――


「凪!俺は悪くないよな!」


 決まって俺を巻き込む。

 俺は、穏やかな笑顔で――


「俺は女の子の味方だよ」

「こんの裏切り者がぁ!」


 巨人化しそうなセリフを吐きながら、胸ぐらを捕まれ前へ後ろへと振られる。


「お兄ちゃんってキザなセリフ似合わないよね」

「やめた方がいいよ~?」


 味方についたのに、この言われようである。

 月音に至っては、ジト目でこちらを見ていて、大層気まずい。

 誤魔化すように、三つ目のミカンに手を伸ばす。



 ◇



『ハッピーニューイヤー!新年あけましておめでとうございまーす!』


 去年と同じ新年の挨拶が、テレビから聞こえてくる。


「あけ……まして……おめで……とう」


 桜は、夢に向かって船を漕ぎ始めていた。

 そりゃ、朝から騒ぎ続ければ、いくら元気ハツラツな桜もエネルギー切れになる。


「桜、寝るなら自分の部屋で寝てくれよ?」

「…………わかっ……てる」

「桜?」

「……すぅ……すぅ……」

「はぁ……」


 とりあえず、寝てしまった桜は、佳奈と拓馬に任せた。

 俺は食器のキッチンまで持っていき、手早く洗う。人がいると分担できるから楽だ。


「月音……月音?」

「……っ!なに?寝てないよ?」

「名前呼んだだけだよ」


 クッションを抱いてボーッとしてた月音に声をかけると、案の定寝かかっていたらしい。

 というか、寝ぼけてるな。


「ほら、歯磨きして桜の部屋に行きな?」

「ん……もう少し……凪、こっち」

「はいはい」


 隣に座るなり、クッションを抱きながら俺の太ももに頭を預け、小気味のいい寝息を立て始めた。

 別にいいのだが、佳奈たちが戻ってきたら面倒くさそうだ。


 髪を梳くように撫で、そのまま頬に触れる。


「去年は一緒にいてくれてありがとう、今年もよろしくな」


 聴こえてないだろうが、それでも構わない。面と向かって言うのは、照れくさいしな。

 この愛おしい表情も透き通った綺麗な声も、あと三ヶ月も経てば……。

 まだ、その時では無いのに想像しただけで、心が苦しくなる。


「自分が思ってる以上に……俺は月音に支えられてたんだな」


 親指で手の甲で、慈しむように頬に触れる。

 楽しんでいると、急に月音はクッションを手放した。かと思えば、俺の手を抱き抱えスリスリと自ら頬擦りをする。


「月音?」


 起きたのかの思ったが、依然として夢の中らしい。


 なぜか、桜を寝室に運んだ二人はリビングに戻ってくることは無かった。



 ◇




 月音を佳奈に預け、自分の部屋に向かうと、拓馬は布団の上で動画を見ていた。


「お、片付け任せてごめんな」

「いや、俺も桜を寝室に連れてってもらって助かったよ」

「もう、遅いし寝よーぜ」


 布団に入り電気を消して、しばらくしたとき――


「凪」

「なに?」

「……

「……大袈裟な……会えなくなる訳じゃないし」

「こういう時くらい強がんなよ」


 悩んだが素直に本音を言おう。


「さみしいに決まってるだろ」

「三年前のお前に見せてやりてーよ。未来のお前はこんなんだぞって」

「自分のことが大嫌いなひねくれた奴だぞ?信じるわけ無いさ」

「違いない」


 二人して笑い、ようやく眠りについた。


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 第四十一話 「今昔之感こんじゃくのかん


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