第18話「私は何も見ていない……」

「写真で見るよりでけぇーー!!凄いぞ!なぎ!」

「見ればわかる……でかい声出すな」


 欠伸を噛み殺しながら、はしゃぐ拓馬をたしなめる。

 そんな俺の態度を不機嫌と感じたのか――


「良いだろ?そうカリカリすんなよ」

「怒ってない……お前らが寝かせてくれなかったから眠いんだよ」


 あの後、先生に叱られた後部屋に戻ると、思春期男子三人から詰められた。

 篠原しのはらからの告白の件とキスの件を伏せつつ、大まかに話すと部屋は宴のごとく賑やかになった。

 それが、朝の四時まで続いたので全く寝れてない。


「凪も~遂に不良デビュー??」

「うっかりしてただけだ」

「ふぅ~ん?大人の階段登っちゃった?」

「安心しろ、お前と同じ段にいる」


 久しぶりだというのに、佳奈かなは煩悩全開で俺に絡んでくる。

 俺よりも目の前に広がるテーマパークに注目したらどうなんだと言いたくなるが、こいつはテーマパークよりも俺の失敗談の方が好物らしい。


「お~い!おまたせ!みんなの分貰ってきたよ!」

「待たせてごめんね、最後尾に並んじゃって……」


 そう言いながら、さくら月音つきねがUSOの無料パスを手に戻ってくる。


 ――ユニバーサルスタジオ大阪

 通称USOは、その名の通り大阪で屈指の広さを誇るテーマパークだ。

 このテーマパーク最大の売りは、複数のエリアが存在し、そのエリア特有のアトラクションを楽しむことができる。


「桜ちゃん、月音さんありがと~」


 桜は佳奈と拓馬に、俺は月音から受け取る。

 受け取る際、礼を言ったのだが『うん』と視線を逸らされた。


 昨日のことは、やや夜のテンションがあったから気にはならなかったが、時間が経つと――


「さて!最初はなに乗る?」


 俺が、やや悶え苦しみそうになっていたが桜の元気な声で吹き飛んでしまった。


「ん~結構広いし、全部は回りきれないか?」

「そうだね~ブラブラしながら面白そうなのがあったら乗ることにしよ?」


 拓馬と佳奈がグループでどう動くか方針を決めた所で移動を開始する。


 一つのエリアを越えた所で先頭を歩いていた佳奈が振り向き――


「ねぇねぇ、皆であそこ行こ~??」


 佳奈の指さす先には、このテーマパークには似合わないほどの禍々しさを放っている巨大な屋敷があった。


『戦慄洋館』


 ――忘れてた……佳奈は……。


「私~お化け屋敷大好きなんだ~」


 ※※※


「では、この御札を絶対に肌身離さずお持ちください、皆様が無事出てこられるよう祈っています」


 スタッフさんから説明が終わると同時に、背後の扉が勝手に閉まった。


「ねぇ……暗いよ?す、進めるの?これ」

「あ、懐中電灯あるじゃん、これ使うんかな」

「は、早くつけてよぉ……」


 懐中電灯を持ってる拓馬を先頭にその後ろを桜、俺、月音、佳奈の順番で続く。


「なんで俺が前なんだよ!めちゃくちゃ怖いから桜変わってくれよ!」

「やだよ!そのまま!前にいて!!」

「……え?前になんか居ない?」

「そんな事言ってこわが――」


 ――うぅぅ………


 桜と拓馬はフリーズし、月音は俺の服の裾をガッツリ掴む。


「ほらほら~止まってても後ろがつっかえちゃうよ~」

「だーもう!行けばいいんだろ!」


 何かいるであろう通路をおっかなびっくり進んでいく。


「ひゃあぁぁ!?」


 急に桜が声を上げるので、全員に恐怖が伝染する。


「な、なんだよ!びっくりさせるなよ!」

「首になんか当たった!!」

「え?なんも無いぞ……?」

「でも、上から何か……」


 それを聞いた拓馬が上に懐中電灯を向けると――


 バタンっ!


 と、大きな音と共に血だらけの人間の上半身が勢い良く飛び出してくる。


「だぁぁぁぁぁ!!??」

「やぁぁぁぁぁ!!??」

「うぉっ!!」

「ひぃっ!!」


 佳奈を除く四人の絶叫が木霊した。


「もう、いやぁ……」

「頑張れ……桜、まだ始まったばかりだぞ」


 少し進むと和室のような通路に雰囲気が様変わりした。

 右から物音がしたのでそっちを見れば、後ろから沢山の手が伸びてきて、あちらの世界へ引きずり込もうとしてくる。


「やぁだぁぁっ!!拓馬ぁぁ!」

「手!手ぇ伸ばせ!」

「ぐすん……ありがとう……」


 和室ゾーンを抜け、沢山の絵画が飾られた通路に出る。


「……ん?」


 何枚かの絵画の前を通過した時、違和感に気づいてしまった。


「な、凪……?」

「いや……絵画に描かれている人が俺たちを目で追ってるなって……」

「私は何も見てない……何も見てないぃ……」



 その後も数々の恐怖体験をした俺たちは、ようやく出口の直前まで来ていたのだが――

 恐らくこのお化け屋敷最恐の壁にぶつかっていた。


 真っ直ぐ通路を進んでゴールなのだが、その通路に白装束を身にまとった女性がユラユラと揺れながら立っていた。



「えっと……これはどうするのが正解なの?」

「揺れてるから、その間を通るとか?」

「拓馬……先行って」

「ジャンケンで決めようぜ……ずっと、前だったんだから……」


 じゃんけんの結果、桜、拓馬、俺、月音、佳奈の順番になった。


「来ないでよぉ……」


 サクラ……セーフ。


「幽霊さん?よく見たら可愛いね!だから、俺なんかよりも良い人がいるから……な?」


 拓馬……セーフ。


「………………」


 俺……セーフ。


「凪?余裕な俺カッコイイって思ってんだろ」

「お兄ちゃん……めちゃくちゃ顔引きつってたからね?カッコわるぅ」

「す、好きに言ってろ」


 ボロクソに言われたが……事実なので、言い返せない。


「うぅ……本当にいや……」


 月音……セーフ




 ――かと思いきや……




 ――うぅぅぅうあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 確実に通り過ぎたと思わせてから、襲うという幽霊側の作戦勝ちだった。

 月音は、びっくりした衝撃で走り出し俺の胸に飛び込んでくる。


「『うわぁぁ』って言ったぁ!……襲われたぁ……」

「よしよし、怖かったな。俺の時に来なくて良かったよ」

「馬鹿ァ!」


 そうして、俺たちの恐怖体験は幕を閉じた。

 佳奈だけが、終始ニコニコしていて楽しそうだった……。



 ~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 第十八話 「私は何も見ていない」

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